さむはふゆい。
バイトからの帰り道。自転車で風を受け、オールバックの凛々しい私が通ります。
やっと寒い。今日は秋服が着られたな。
7月みたいな格好の私が通ります。
今年の冬は遅すぎる。みんな、もう何を着たらいいのかわからなくて、シャツ一枚の人も、ダウンジャケットの人も、タンクトップの海外旅行客もいる。ハイセンスな服屋のマネキンも、やべ、季節感まちがえた、と硬直している。
信号待ちをしていたら、コートの女性が向こうから歩いてくる。かなりご機嫌な様子で、大きめの声量で歌っている。
くも〜りガ〜ラスの向こうは風の街〜♪
シラフかどうかわからない調子で、寺尾聰の『ルビーの指環』がすれ違っていく。
何かいいことでもあったのかな。そういえば昔、寺尾聰がパルムのCMに出てたな。パルムを買ってご機嫌なのかな。まだパルムが食べられる気温だな。
ボーっと考えていたら、信号がベージュになる。進まなくては。
あれ、ベージュ、、、。
振り返ると、その女性は、やはりベージュのコートを着ていた。
まち〜でベージュのコートをみ〜かけるとお〜♪と遠くで微かに聴こえる。
今年最後のパルムをぶら下げ帰っているのか。待ち遠しかったベージュのコートを着られたのか。寺尾聰が長年探しているベージュのコートご本人なのか。
気になるけれど、自転車を漕ぎ出す。
半袖オールバックの私が風の街を通ります。