見出し画像

アートディレクションについて

造形家のキシモトユキオさんと造形作家のjobin.さんの二人展『つきめぐる』のフライヤーデザインをしました。このフライヤーデザインを通して“デザインすること”や、“アートディレクションという仕事”についてお伝えしたいな、と思いました。

『つきめぐる』フライヤー 表面

こちらが『つきめぐる』のフライヤーです。版画を活かした素敵なデザインのフライヤーですよね(自分で言うな!かもしれませんが、本当に素敵と思うし、多くの方がそう言ってくださるので)。
なのですが、僕はこのフライヤーのメインビジュアルである版画は作っていないんです。

  • アートディレクション:那珂 隆之(SHIMAUMA DESIGN)

  • デザイン:那珂 隆之(SHIMAUMA DESIGN)

  • ことば:jobin.

  • 版画:図案 jobin./版木・刷り 中村一典(TO OV cafe

  • イラストレーション:キシモトユキオ

え!?このフライヤーで版画を作っていないなら、デザインしたって言うけど、何をしたの?と思われる方もいるかもしれません。

アートディレクションというお仕事

そこで出てくるのがアートディレクションという仕事です。
今回の展示のフライヤーを担当することとなり、jobin.さんとディレクターの中村一典さん(TO OV cafe)と打ち合わせをしました(キシモトさんはこのとき長期出張中)。

そもそも、今回の『つきめぐる』は3部構成の3番目の展示ということ。はじめにキシモトさんの個展『はなめぐる』があり、次にjobin.さんの個展『かぜめぐる』があり、最後に二人展の『つきめぐる』でフィナーレを迎えるという、ストーリーのある構成になっていました。

さらに、ゲスト作家として、造形作家の井越有紀さん、アクセサリー作家のchiseさん、花屋のFLOWER LITTLEさんのお三方が加わりコラボする作品もあるとのこと。さらにさらに、会場音楽は佐々木恒平さんが担当される…と盛りだくさんの内容。

二人展というだけでも、どんな空間になるかわからないことが多いのですが、ディレクターの中村さんの想いもあり、そしてゲスト作家さんも加わり、会場を包む音楽があり…。
これはどんな展示になるかを、詳細にイメージできないな…と思いました。また、詳細にイメージをするべきでもないな、と。きっとこれからキシモトさんとjobin.さんの化学反応で場が生まれてくるので、ここで詳細に内容を聞くのは野暮に思えたのです。

キシモトさんの作品やつくる場、jobin.さんの作品やつくる場、各々はなんとなく想像ができるけれど、一緒になってどんな空間になるのかは、わからない(それこそが二人展の醍醐味ですよね!)。そんな中で、どうこの二人展のイメージを伝えるフライヤーを作ればいいのか…。

それを考えるのが、アートディレクションというお仕事なのです。

なんだか物語みたいだな…

二人展やグループ展の場合、作家の過去の作品写真を載せることがあります。でも、今回はそれをしたくありませんでした。過去作を載せるのはフライヤー的にもつまらないものになってしまいそう(今回の展示じゃなくてもできるデザインなので)なのと、今回の展示がインスタレーション(空間全体を構成する表現)による展示だったからです。
インスタレーションの場合、かなり撮影を工夫して臨まないと、実際の空間のエネルギーを伝えられないのです。そんな、実際の展示よりも目減りするエネルギーのフライヤーはいりません。第一、展示の前なので撮影のしようもないのです。
…では、どうしようか?

今回の3部構成の展示には、ひとつの“ことば(詩)”がありました。

鳥は旅をしていました

香りにさそわれて
花の咲く野を飛んだり
木々がつよくゆれる
風の谷を通りぬけたり

いつの間にか
たどりついた丘では
月のかけらたちが
かがやいていました

この“ことば”があったこと。展示が3部構成でストーリーがあること。なんだか、物語みたいだな…と思いました。
ここで「物語」というキーワードが生まれてきました。物語…が書かれている本の表紙とか、挿絵みたいな…「“物語を感じる絵”をメインビジュアルしませんか?」という提案をjobin.さん、中村さんにしました。その方向はありそうだね!と。

この時点ではまだ、ビジュアルは僕が作るものと思い込んでいて、さぁこの物語(展示)をどんな素敵な絵にしようか…と頭の中でワクワクとしていたのを覚えています。

そこから中村さんがいくつかの本や資料を出してくださって(中村さんのお店で打ち合わせをしていました)、こうした“版画”がいいよね…という話になっていきました。そこから(詳細は個人的なお話も入るので省きますが)jobin.さんが図案を描くこと、中村さんが版画を制作して刷ってくれることとなりました。せっかくなので、キシモトさんにもイラストで参加いただければ、フライヤー上でもコラボレーションが生まれるよね!ということで方向性が決まりました!(当初は、キシモトさんには版画を囲っていただく“枠”をお願いする予定でした。)

方向性を決めるアートディレクション

こうした、どんな表現の方向性にしようか?を決めるのがアートディレクションになります。この方向性を決める、ということができれば、別に“物語を感じる絵”というアイデアを自分で出さなくてもよいのです。現に今回は“版画”というアイデアを出してくれたのは中村さんでした。そういったみんなアイデアや発想を、“それでいく!と決める”のがアートディレクションという僕のお仕事になります。

さぁ、方向性は決まりました!版画やイラストはお三方におまかせ。それを実際にどんなフライヤーとして形にするのか?ようやく今度はデザイナーとしての僕の出番です。


フライヤー裏面

物語感をより強く…

打ち合わせからややしばらくの時間が過ぎ、ついに刷り上がった版画が届きました!図案の状態でも素敵でしたが、刷り上がった版画が素敵で!デザイナーってこうした素材(今回は版画、ときには写真やイラスト、コピーなど)が素敵だとテンションが上がるんですよね!
また、その後に出張から帰られたキシモトさんからイラストもいただけました。このイラストもかわいくて素敵!(でも、枠にはならなそうで、どうしようかな 汗、とも思いましたが。)

素敵な版画があるので、この版画に仕事をしてもらおうと思いました。表面の文字はすべてアルファベット表記にしています。通常は展示名や作家名、期間や会場など大切な情報は表面で見せたいんですよね。でも、今回はそれをしませんでした。まず、“版画”を見てほしいからです。
そうした情報が入ると、情報に気を取られてしまうからです。もちろん、その情報は展示の大切な内容なので、一番に伝えたいのです。でも、直接情報を伝えるのではなく、版画で物語の“情緒”性を伝えることで興味を持ってもらい、最終的に展示の情報がより気になる…という構成にしました。
というわけで、版画の周りはアルファベットで、ぱっと見で情報が入って来ないように、読める文字ではなく、絵として感じる文字・見る文字として機能するようにしました。なんでしょう…音楽で日本語詞の曲だと、音よりも歌詞が入ってきてしまう…ということを避けたかったのです。

表面も裏面も白場を広く取っています。これは今回のインスタレーションの展示が空間を活かしたもので、おそらく浮遊感のある空間になると思われるので、その“浮遊感”を表現するためです。この浮遊感を表現するにのキシモトさんが描いてくださったイラストがとてもよい仕事をしてくれました。

アートディレクションとデザイン

こう解説してみると、デザイナーがメインビジュアルを作っていないからこそ、“アートディレクション”の仕事と、“デザイン”の仕事がわかりやすいかな…と思い、お伝えしてみました。

実際に打ち合わせしているときや作っているときは、今はアートディレクターで、今はデザイナーで…という風に分けて考えてはいません。どんなフライヤーになれば、このフライヤーを手に取る方達が、展示の期待感が高まるだろう…、興味を持ってくれるだろう…、という考えのもと、“アートディレクション”と“デザイン”の考え方が発動されている…という感じです。
なにより、こうしたフライヤーは“手にとってもらう”ことが最大の関門なのです。そのために気になるデザイン、思わず手にとってしまうデザイン、欲しくなるようなデザインが大切になってくるのです。

デザインにとって、目的に沿っていることが大前提ですが、やっぱり素敵さとかかわいさ、かっこよさって、とても大切だな…と思います。特に今回のように表現や芸術にかかわることの場合。この先の展示が具体的にどうなるかはわからないけれど、素敵な展示になることはもう信じ切っているので。

というわけで『つきめぐる』のフライヤーデザインを通して“アートディレクション”と“デザイン”のお仕事についてご紹介しました。

最後に!このフライヤーのデザインの最大の目的…それは二人展『つきめぐる』に来ていただくこと!というわけで、つきめぐるの情報をお伝えします!

キシモトユキオ × jobin.
つきめぐる

2024
10/17(木)ーー27(日)
10-19時

会場
misc.
札幌市中央区北5条西9丁目11
シャトーブラン59  2階

入場無料

◆guests
井越友紀
chiselers
FLOWER LITTLE

◆音楽
佐々木恒平

◆ディレクション
中村一典

◆フライヤー・宣伝デザイン担当 那珂隆之(SHIMAUMA DESIGN)


会場はmisc.さん。昨年オープンした新しいギャラリーです。

キシモトさんとjobin.さんの二人展『つきめぐる』。素敵な空間が生まれると思いますので、ぜひぜひ会場にいらしてください!
僕も楽しみにしています!!

いいなと思ったら応援しよう!

那珂 隆之 by SHIMAUMA DESIGN
いただいたサポートは、これから立ち上げる学びの場のために使わせていただきます。ありがとうございます。i love you.