割れたスイカ事件 ｜ 湯倉神社

函館には市電が走っている
その市電の終点が湯の川にあった

電停 湯の川のすぐ近くに湯倉神社がある
小学校への通学路として毎日その前を通り
境内はあそび場だったし
豆まきにも行った、秋のお祭りや
冬のかまくらつくり大会
ラジオ体操の会場だったりもした

神社裏の林（というほど広くないけど）で
打ち付けられたワラ人形をみつけ
みんなで犯人探しをしたこともあった

湯倉神社は函館の大きな道路である
産業道路に面していて
その長い坂道で事件はおこった

ぼくには6つ上の兄ちゃんがいた
その日ぼくは兄ちゃんと兄ちゃんと同い年の親戚のヒロちゃんと3人で
湯倉神社の坂をくだった先にある八百屋さんへ
スイカを買いにいくおつかいをしていた
たしかお客さんが来ていたんだと思う

スイカを買い
兄ちゃんのチャリの荷台にくくり付け帰路についた

湯倉神社の坂道を登っているとき
スイカはごろりと荷台から落ちた

べしゃっ！

アスファルトの上に見事に
こなごなに割れたスイカ
アスファルトのグレーとスイカの赤
人生であんな見事なスイカの割れっぷりは
もう見ることはないんじゃないかと思う

おつかいの責任をはたせず落ち込む兄ちゃん
割れてしまったものはしかたない
この場で食べよう！と言い出すヒロちゃん
おさないぼくはぼうぜんとしていた

結局その場でスイカを食べたんだけれど
おいしそうに食べるヒロちゃんを横目に
兄ちゃんのことが気になってしまったぼくには
全然おいしくない
味のしないスイカだった
あんなまずいスイカも
もう食べることはないだろうな

小さな小さな事件だったけれど
その後成長し大人になった3人を思うと
とても象徴的な対応をしていたんじゃないかと思う