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RYUHEI THE MAN Interview vol.1

2015年10月12日(月)中野ヘビーシックゼロにて行われた「Soul Matters 1st Anniversary」。主宰の島が、今回のスペシャルゲストDJであり同郷・福島県の大先輩でもあるRYUHEI THE MANさんにインタビューしました。プレイでのこだわり、ご自身のプロデュース曲の秘話からスチレン盤の話まで、盛りだくさんの内容となっています。普段何を考えながら選曲しているのかもわかりやすく話してくださったので、DJのみならずクラブカルチャーになじみのない方もぜひご覧ください。(後編はこちら

2020年9月13日追記:Ryuhei The Manさんの5年ぶりとなるオフィシャルMIX CD『NEXT MESSAGE FROM JAPAN』が9月9日発売となりました。RyuheiさんのDJ観を窺い知れるこのインタビューが、ミックスを聴くための一助になったら幸いです。

(インタビュー:島 晃一、記録・編集・写真:中村悠太)

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―DJになったきっかけは?

RYUHEI THE MAN(以下、R):まず、僕の高校時代の同級生に一人だけ、洋楽がものすごい好きな人がいて、学校の帰りにその人のうちに行って洋楽ってかっこいいなって漠然と思ったんです。大学生になって、僕も彼も東京に出てきたんですが、彼の友人にむちゃくちゃすごいレコード好きな奴がいて。たぶんその当時、その人は学生だけど日本一すごい収集家だったと思います。その彼が、レアグルーヴとかが好きで。高校時代の友達と、大学時代に知り合った彼の影響で、ブラックミュージックってカッコいいなと思ってレコードを買いだしたんだよね。それで僕はずっと杉並区に住んでるんですが、初めて行ったイベントが杉並区の阿佐ヶ谷で彼らがやってたイベントで。SWING ROVERという老舗のクラブでやってました。

そこでDJというの始めて聞いたときに曲と曲を「つなぐ」とかそういうのっていいなって思ったし、自分も頭の中でもう「つない」でて。レコードも好きだったけど、それと同じくらいDJという行為にすごく関心をもちました。

やっぱり最初はもうミックスが好きで。小節とかを考えながらつないだり、二つの曲を重ねるというのが楽しくて。二つの違う曲を重ねてその重なった部分がまた新しい違う曲になる、じゃないですけど、それに夢中になってました。

で、その後に、曲の切れ目に次の曲をバンとカットインするっていう気持ちよさに気づいたり。でも僕の基本は完全にミックスですね。時間があったらずっとミックスしていたいです。

―RYUHEIさんのプレイを聴く時はやっぱりミックスのスリリングさがありますからね。

R:やりすぎだって突っ込まれたいくらい、ミックスをやっていたいですね。ただ、カットインとかも醍醐味だよね、DJの。

―あの決まった時の、気持ち良さというか。

R:ね~(笑)。でも、カットインの難しいところは、コンマ1秒くらい遅れても、たぶん致命的にずれてしまうことで。それこそアスリートの世界ですよね。

―でも、やっぱりミックスなんですね?レアグルーヴのDJは割とカットインやフェードアウトに次の曲をかぶせたりっていうのが多いですけれど。

R:僕はがっつりミックスでしたね。そこに面白みを感じたんですよ。

生音なんでテンポはイーブンじゃない、常に揺れてるわけじゃないですか。そこを自分も揺れながら合わせていく。ちょっと送り出したり、ピッチコントローラーを上下させたりして、そこに挑戦する、トライすることがすごく楽しくて。イーブンなビートが重なる気持ちよさもあるんですけど、イーブンじゃない不規則なビートが重なる時のグルーヴもまたすごいものがあるというか。

なかなかないけど、その規則的な何かが、重なった時のミラクルを求めてミックスするという。ただ、ずれる可能性は大で(笑)。それを前提に、それでもどうずらさないか。そういう完成度を求めるということにこだわっていきたいなと思います。

―重なる快感、みたいなことが。

R:僕ヒップホップも好きなんで、重ねて作るサンプリングミュージックを生でやっている感じがある、だから、ミックスという行為が好きというのもあると思うんだよね。現場でやるサンプリングみたいな。

ブレイクのところにベースのソロを重ねて、とか気持ちよくてやりたくなったりするし、ギターを重ねてとかホーンを重ねてとか、そういうのはやっぱり楽しいですね。

―そういう組み合わせってふってくるものですか?

R:ふってきますね。だから、やめられない。正直、そのことばっかり考えてます。寝ている時もミックスしている……かなぁ。歩いている時とか普通に生活している時は常にミックスしてる。

レコードを買う一つの基準にも、この次これをミックスしたい、これを次カットインしたいとかいうのも、ありますね。

R:僕、タタタンとかタンタンとかタンっていうドラムから始まるフィルインのフェチで。

ドラムのフィルがあるだけで‘おっ’と反応してしまいます。あれはすごくカットイン心をくすぐられる。あれがバッチリ決まった時の気持ち良さは、この上ないですね。

こういうフィルの気持ち良さ、かっこよさというのは、やっぱりMUROさんから教わったと思います。MUROさんがFunkadelicの「You’ll Like It Too」のフィルロールを、めちゃくちゃカッコよくかけられていて。それ以来フィルの虜です。

―フィルだとカットインでプレイするんですか?

R:カットインですね。でも、使いづらいフィルもあるというか。もちろん当時の人たちはDJにプレイされるために曲を作ってたわけじゃなくて。自分たちのタイミングのフィルがあって、だから、DJ的なタイミングじゃないフィルもあるんですが。

そういうのも自分の中で、6の裏で7の表でとか、どこで入れたらかっこいいんだろうというのを考えて、それが当たった時の快感もたまらないんです。そういうのも含めて、フィルは楽しいよね~。DJやっててやりがいの1つでもあるよね。フィルフェチです。

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R: Q.A.S.B.さんとやらせていただいた「The Mexican」にもフィルをつけさせていだきました(笑)。Alice Clark「Never Did I Stop Loving You」のレゲエ、カリビアン調カバーにもフィルを。

―「The Mexican」はどううまくフィルをいれるかというのが鍵なのかなと。

R:そうなんですよ。あれはたぶん1小節かな。自分でこうだったらいいなというのがあったし、聴いていただいた人がそれぞれの調理方法であのフィルを料理していただけたら、という思いはすごくありました。

 もともとはBabe Ruthという人の曲で。もとのバージョンはフェードイン気味で始まるのですが、今風というとあれだけど、今やるならアイディアを詰め込んだものにしたいなと。まずはフィルを入れたり、原曲になかったブレイクを入れたり、Part2はまたブレイクから始まったり。あくまでDJ目線で作らせてもらった、というか。もう僕はプロデューサーというか、アドバイスしたぐらいなんですけど。ただ僕はDJなんで、自分がかけたいなと思うようにやっていただいたというか。

―Q.A.S.B.さんには自分からアプローチをしたんですか?

R:いや、「BOTTLE」っていうイベントでQ.A.S.B.さんと共演して、ライブで「The Mexican」を聞いて、カバーなんですけどものすごいかっこよくて、Q.A.S.B.さんの曲かのような。それで、「7インチに、レコードにしたほうがいいですよ」っていうことをなんとなく言ったんですよ。そうしたら2年後くらいにリーダーの石川さんから「7インチにしましょう」と言われて、プロデュースというか、アイデアを出しながらやりましょうということで。

―それでさっきおっしゃられたフィルの話に。

R:ここまで自分の趣味をいれていいのか、っていうくらい、まず頭にフィルを入れようというのはありましたね。カバーするなら絶対入れるっていうのは。もともと原曲にフィルはないので、フィルが不自然だと曲自体も不自然になるんですよ。でも、あのフィルは原曲のある部分からインスピレーションを受けて作ったので違和感はあまりないと思います。フィルを作ったのは確か北野くんという若くて凄く才能豊かなバンドメンバーさんが作ってくれました。

―いい話をいただきました(笑)。

R:これね、初出しです(笑)。

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―選曲についてお聴きしたいのですが。例えば、クラブに馴染みがない人だと、DJはただ曲かけているだけだと思ってる人もいる。でもRYUHEIさんのプレイはよく「ストーリー性のある選曲」と形容されますよね。

R:光栄極まりないですね。そういう馴染みのない方でさえも、何か感じていただけるようなDJでありたいと思います。やっていることはわからないけれど、なんか踊ってしまうとか、気づいたら曲が変わっている、そういうことをクラブに馴染みのない方にも感じていただけるくらいの、なんていうんですかね、特別な何かを持ったDJではありたいと思いますね。

―50分なら50分、60分なら60分の流れを持っているというか。

R:流れはやっぱり大事だよね。ミックスって地味なことだと思うんだけれど、それだけでも感動してもらえるようになるためには流れはとても大事で。あくまで自分なりにですけれど、50分、1時間で4つの展開、起承転結というのを常に考えています。

どうしてもミックスしていると、つないでいくんで一本調子になってしまう。気づくと最初から最後までずっと同じテンポになってしまう可能性もあるじゃないですか。そこをいかに落として、いかに上げるかというのはやっぱり難しい。というのは上げるのは比較的いきやすいのですが、ピッチを落とすのは比較的勇気がいる。やっぱりフロアが盛り上がっている時に足が止まったりひいてしまったらどうしよう、とか。

ただ、フロアは意外と落とすのを待ってたという時も多くて。速い曲からスローな曲、メロウな曲に変わった時の心地よさもありますよね。

なんというか、僕はよく言うんですけど、早い直球があるから遅い変化球が生きる。遅い変化球があるから直球が早く見える。僕は野球やってたんで、なんとなくそういう理論と重ね合わせる癖があるんですけど、早い曲も遅い曲も両方生きるんですよね。ただ、上げる時は果敢に上げて落とすときは華麗に落とす。うまく華麗に落とさないと、やっぱり足を止めてしまうことになるんで、テンポは落ちてもテンションは落ちないというか。

―それこそグルーヴが続くような選曲の大事さですよね。

R:それはね、永遠の課題だと思っています。やっぱり気づいたら落とせない状況になっていることが多いんですよ。たぶんお客さん疲れてるなぁってわかってても、むしろどんどん上っちゃって。そういう時は、ほんとつらい気持ちになりますね。ちゃんとお客さんを見てないなって。

―ここでいう「落とす」というのは先ほどの起承転結でいう、「転」の部分になるわけですよね。で、そこからまたクライマックスに向かう。「転」があるとクライマックスが生きてくるという。

R:そうでもありますね。起承転結の「結」でメロウな曲とかで落とすというのは僕も多いと思うんですけれど、でも起承の転くらいで思い切って落とすと、うわ、っていう時が。お客さんもそれを待ってたということがあります。最後の「結」でまた上げるというのもまるで結末に向かう映画のストーリーのようでドラマチックですよね。

僕やっぱり柄にもなく、ドラマチックな曲がすごく好きなんです。プレイもドラマチックな展開のプレイが好きなんですよね(笑)。

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―先ほど7インチレコードをプロデュースした話がありましたけれども、ご自身も一貫してプレイしているレコードへのこだわり、その理由を教えていただけますか?

R:多分、レコードが自分のポテンシャルを一番発揮できるんです。まず、レコードに愛があるのでそれをプレイにつぎ込めばよいので、やっぱり魂は入りますよね。あと単純にDJしやすいです、僕にとっては。感覚と出音にタイムラグがないんです。体の一部のようにレコードがある。ただ、重いしどこで針がとぶかわかんないですし、どこで傷つくかわからないというリスクはありますけれど、それは全く苦ではないというか。

とは言いつつ、家に帰って知らない傷がついていると鬼凹み、というね(笑)。

―傷についての話で言うと、レコードはバイナル(ビニール)とスチレンがありますが、スチレンは耐久性がなくてすぐ傷ついてしまいますよね。それでノイズが出てしまう。

R:ちょっと専門用語で言うとキューバーン、キュー出しの時にサッて音がついて焼けるんです。自分がプレイしてそれをつけるのは許せるんですけれど、買った時についてると落ちますね。だからよく言うんですけど、キューバーンを除去する機械があれば、大金持ちになれるという(笑)。

―スチレン盤をかけるのはいやですか?

R:つい最近までいやだと思ってたんですけれど、どうしてもスチレン盤でしか出てない曲があるので、それはかけたいなって。逆にキューバーンを楽しむようにしています。ただ曲の頭がとれないくらい擦れちゃうとプレイに影響があるので(笑)。だけど、それは仕方ないものとして考えています。一緒に戦う戦友というか、仲間として。いやもう、キューバーンは戦いの証だよね、戦ってる。とは言いつつ、またしても家に帰ってついてなかったキューバーンがついていると鬼凹み、というね(笑)。でも僕、昨日偶然発見したんですけれど、絶対ビニール出てないと思った盤が出ててたんですよ。

―それはなんですか?

R:オフレコです(笑)。僕が手に入れてから公開します。もうびっくりしました。絶対出てないと思ったんで、うわーって思って。やっぱりビニールはあがりますね。

US盤を買ってスチレンだった場合、日本盤は絶対ビニールなんで同じ曲を日本盤で買ったり。もしくは、ヨーロッパ盤。

日本盤で探すのが好きで。独自のスリーブもついてますし。何が面白いかというと、US盤と尺が違ったり、US盤はブレイクが入ってないけど、日本盤だとブレイクが入っていたり。ものによっては多分エディットが違うものもあったりするのかな。MUROさんがそういうことおっしゃってたと思うんですけれど。日本盤ってやっぱり面白いなって。独自のカッティングだったり、独自のジャケットをつけて。

でも、音に対しては、音がとてもクリアというか、アメリカのファットな感じよりはきれいに。どちらかというとヨーロッパ寄りというか。それは細かい話があるんですが今度話します(笑)。

それからスチレン盤でも、いいスチレンと悪いスチレンが僕の中にあって。ビニールに近いスチレンだなとか、これはもう本当のスチレンだなとか。

―からっからの軽いやつもありますよね(笑)。 

R:Ramseyとか(笑)。

―僕は大好きな曲なんですけど、Ramsey & Companyの「Love Call」が。

R:あれはからっからだよね。The・スチレン(笑)。

―ダンサーさんとの関係をお聞きしたいです。RYUHEIさんはダンスバトルのイベントでよく回されていたりしますよね。

R:実際、バトルでDJはほぼしてなくて。バトルの後のパーティとかで回してます。ダンサーさんにはよくしていただいてます。僕もダンサブルな音が大好きなんで「こんな嬉しい事はあるのかな」と思ってます。

―お客さんがほぼダンサーさんだけのイベントでRYUHEIさんが回してるのを見たことがあって、あの時はすごかったです。60人くらいが一斉にぐるぐる踊っていて。

R:嬉しかったです。僕が好きでかけているもので踊ってもらえる、ということほど嬉しいことはないので。

―最後にSoul Mattersに来ていただくお客さん、特にクラブカルチャーになじみのない人に向けて、メッセージがあればお願いします。

R:音に身を委ねてみるのもありかな、という。ただただ、音にだけ身を委ねて、DJに身を任せてみるのもいいかなって。

―そういう空間は、日常生活にあまりないですからね。

R:うん、なかなかないので。そこから、もしかしたらすごく楽しいって思うかもしれないし。まず身を委ねてみて、一歩ステップを踏み出してみてはどうですか、という感じはあるよね。

でも、日常生活だったりイベントだったりで音楽を聴いたり踊ったりというのは、人間の基本のハートビートというか、それにマッチしていると思うので。だから自然なことだと思うので、来て欲しいですよね。

―ありがとうございます!
(インタビュー後編はコチラです)

追記:Ryuhei The Manさんの5年ぶりとなるオフィシャルMIX CD『NEXT MESSAGE FROM JAPAN』は9月9日発売!ぜひお聴きください!


島 晃一の執筆仕事一覧はこちらから。https://note.com/shimasoulmatter/n/nc247a04d89ed

島 晃一(Soul Matters / CHAMP)
Twitter:https://twitter.com/shimasoulmatter

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島 晃一 (映画・音楽ライター、DJ)
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