※写真はイメージです
あなたの普通は私の普通と同じではない。
そして、あなたが客で私が店員の場合、あなたの普通はトラップカードとしてその場に伏せてターンエンド、店員が踏んだら発動させることができる。
そんな話を前回いたしました。世知辛ぇなぁ。
当然なんですが、「こうあるべき!」という、譲れないこだわりを持つ人がクレームをつける率は高いです。こうあるべきなんですから。
強いこだわりを持つお客様は堂々と胸を張り、声高にクレームをつけるので、こちらが悪いのかと思ってしまうんですが……いややっぱり、それは普通じゃなくなくない? てことは色々とある。
※写真はイメージです
という、広告の端にちょっと乗せている文言がある。この文言が広告に出てきたのはいつぐらいからだったろうか。子供の頃、クリスマス近くになると新聞におもちゃ屋さんのチラシが入っていた。ワクワクしながらチラシを見ていると、人気玩具の下にその文字を発見した記憶がある。もっと書くと、
※写真はイメージです。広告と一部商品が違う場合もございます
と書かれていた。驚いた。子供心に不安になった。えっ、中身違うの!? 広告は今年の戦隊ものの合体ロボだけど、買ったら中にドラいもんが入っていたりする??
子供の頃は分からなかった。そこまで広告と中身がかけ離れて違えば立派に返品交換対象だが、実際には中身が同じでも、返品交換を求められることがあるなどということは。
絵を描く人ならわかるだろうが、実際描いた絵を見たまま印刷することは難しい。インクと印刷技術の縛りにより、描いている時には鮮やかに見えていた色が、トーンを落とすこともある。
広告もしかり。実際に買って開けてみると、広告と違う色に見えることはあろう。さらに言えば、合体ロボだった場合、広告デザインとして空を飛んでみたりしてることもある。「写真はイメージです。空は飛びません」
あるいは、武器の剣をかざしている。「商品は本体のみです。剣は含まれません」
これも見たことがあるぞ。嬉しそうにしている子供がキャラのコスプレをしている写真も横に添えられていると「モデルの服はついてきません」
つまりこれらは、全部入ったことのあるクレームなんだろう。
売り手は販促のために演出を凝らした広告を打つが、一定の客が持つこだわりはその意図を難なく貫通し、「言ったからには責任持て」を発動、ダメージを与えてくるものと思われる。
あれはたしか、何かの記念グッズだったと思う。ネコチャンぬいぐるみが売られることとなった。
ぬいぐるみは透明の箱に入れられている。薄いプラ製で座った形で、四角い箱にすっぽり嵌っていた。鼻っ面、左右の手足、背中、がそれぞれ箱の角に当たって安定している形だ。
これに、強い怒りをこめてクレームがついた。広告と違うというのだ。
「広告では、このぬいぐるみは右を向いている。なのに、買ったのは左向きだ!!」
おわかりいただけただろうか。
ポイポイ詰めたぬいぐるみの「前面」にシールを貼っていった結果、シールがついたことで「箱の正面」が現れた。鼻っ面は箱の正面を向けないため、右向きと左向きが出来たというわけだ。山ほど作ったぬいぐるみ箱は、左右どちらも存在していた。もちろん、ぬいぐるみ自体は何も相違ない。入っているものは広告通りだ。シールが右か左かだけで。売り手は「ぬいぐるみ」を売ったつもり、箱は容器だったのだ。客は「広告の品」を買ったつもりだったが。
中身が同じでも問題ない。こうあるべきのこだわりを遺憾なく発揮。
「広告の通りに出すべきでしょう!? 当たり前の話じゃない!」
信じられない、私こんなにひどい目にあったのに! という雰囲気でそのお客様は仰った。大声で。
「えっ、私、何か間違ったこと言ってる!?」
いえいえとんでもゴザイマセン。おきゃくさまのいうとおり。へへー。
ぬいぐるみは回収、詰め直された。ちなみに、それまでに結構売れていたが、同様のクレームはなかった。
この時、私は「写真はイメージです」の文言を思い出した。そして、その文言が書かれるに至った経緯も把握した。
予防線。
企業努力を予防線に使うのも侘しい話だが、クレームが起こるなら入れるしかないな。どこでお客様のトラップが発動されるかわからないのだから。
お客であるはずの子供が不安を覚えてもね。