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TとんでもPポイントOおつけしますねー

「じゃ、これちょうだい」
 やってきたお客様はそう言った。さて、どう断ろう。
 妥当なセリフだ。しかし、問題なのだ。これを言われた私は困ってしまった。今日はそんな話だ。
「じゃ、これちょうだい」
 私がこれを言われたのは、閉店後だったのだ。

 問題のないセリフの問題点。というものがあるとすればそれは、「TPOに合っていない」ということである。
 「TPO」。Time(時間)、Place(場所)、Occasion(場面)。今更説明するまでもなく、こちらをご覧の賢者様方はご存じだろう。
「おめでとうございます」は何の問題もないめでたいセリフだが、「おめでとーございまーす!!」で有名な芸人さんは「葬式に呼びづらいと言われたことがある」と語られていた。……そうだろうなあ。可哀想だが、気持ちはわかる。つまり、TPO。

 閉店時間のチャイムが鳴り、今日の営業は終了する。
 場所によってはお見送りもあるが、その時は「蛍の光」をBGMに、みんな閉め作業をするところだった。シャッターは半ば下されて警備員さんが出てくる。「お出口はこちら」と警備員さんが声を出し、同じアナウンスもガンガン流れ、とどめに「蛍の光」まで揃っているのだ、終わりの時間ということはよくわかる。正確には「もう過ぎてるから出て行ってね」、の意味なのだが。
 そしてやってくる、4タイプ。その1。天然で気づいてるタイプ。
 客が中にいて、店員が閉め作業とはいえいるのなら、まだ間に合う! と考えるお客様は、まあ、いる。普通にいる。
 あらやだ、そんな時間なのね気が付かなかったわ、と走ってきては
「まだいい?」
 と、申し訳なさそうに聞いてくるのは、そりゃあよございますよ。どうぞどうぞ。どの店もたいがいは対応してくれるだろう。毎度どうも。
 その2。天然で気づいてないタイプ。
 レジも電気も落とし、覆いのためにケースに布もかけているのに、えっまだいたの??? みたいな時間に来ちゃったお客だ。どこに潜んでいたの。
 優雅に店を物色しているお客様、ヒョイと布をはぐり、言うのである。
「じゃ、これちょうだい」
 帰ろうと思ってカバンひっつかんでいた状態の店員は途方にくれる。
「あの……今日はもう終わりの時間でございまして」
「えっ!? もう終わりなの!?」
 何故驚く。こっちがビックリしたわ。
 彼らは自然体だ。彼らにあるのは「自分が買い物をしている」その一点につきる。いつもは無い覆いがかかっていても、買い物の邪魔だから避けて物を取るだけなのだ。
 その3。知ってるし気づいているタイプ。つまり意図的。
 閉店後の布を取るくらいではない。路面店なら扉を閉め「本日終了」と掲げられていても、普通にドアを開けてくる。たとえ鍵をしめていても、ガタガタドンドン叩いて開けさせようとするので意味はない。「いるんでしょー? 開けなさいよー!」ドンドンドンドン、をナマで体験できる。
「すみません、今日は終わったんですけど」
「ああー? なんだ客に向かってその態度はー!」
 悪いことを悪いとわかってやってる意図的なタイプは簡単に見分けられる。恫喝してくるからだ。
 その4。知ってるが問題点に気づかないタイプ。
「は? なんで? 買いにきたんだけど?」
 店が閉まってるのは知ってるが、客が来てるなら売るでしょ普通何言ってんのという顔をされる。こちらも、今何時だか知ってるか?? という顔で迎えてしまう。ゾンビなんで。
 しかしこの場合、どう説明しても無駄である。「客がきてやったのに店が売ってくれなかった!」という、それだけ聞けば店側がおかしいような理論で訴えをされる時、「閉店時間はとっくに過ぎている」という背景の部分は問題点からカットされてしまうからだ。いや、初めから入ってないからだ。

 TPOはマナーの話らしい。主に着るものについて語られる事が多いようだ。
 冠婚葬祭だろうかビジネスだろうが、TPOを合わせていれば、自分の品を落とさなくてすむ。それを客の立場だと崩していいと思うのは、やはり、品性の問題だと思うんだけれども。どうでしょう?

 ちなみに、「もう終わりだから早く帰れ」の意味で広く知られる「蛍の光」は、日本文化で育った暗号なので、外国人観光客には一切効かないのが難点なのであった……

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