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地球にやさしいお買い物

 食品販売は、フレッシャーとの闘いである。
 ここでいうフレッシャーとは新卒新入社員のことではない。一日でも、一秒でも賞味期限の長い食品を手に入れようと奮闘するお客様のことだ。

 あなたはスーパーの冷蔵庫、牛乳などを並べてある大きなあのクーラーから下半身が生えているのを見たことがないだろうか。
 いつ見てもギョッとする。「えっ!? 人間が冷やされてる!?」と思ったら客である。少しでも新しい牛乳を手に入れようと、冷蔵庫の深みを探るため上半身をダイブさせた結果、合体怪人フレッシャーマン、クリーチャー化したなれの果てだ。

 だがこれは客側に賛同する人も多いのではないか。
 少しでも日付の新しいものを手に入れるには、陳列の奥から取ること! というのは、もう言い出されて10年以上はたっているし、賢い主婦の知恵どころか一般常識にまでなってしまった気がする。
 しかし、ここはただ、販売あるあるの愚痴をタレ流す場なので続けさせてもらう。
 フレッシャー行為、当然、売る側は抵抗するのだ。なにしろ返品率にかかわってくるのだから。店の赤字になるということだね。
 なんの瑕疵もない立派な商品が、たった一日売れなかっただけで、あとはじろじろ賞味期限を見られて弾かれ、新しいのから売れ、一日だった日付のズレが二日三日一週間、と伸びて行って返品の日までじっとそこに残っているのだ。繰り返すが、何の瑕疵もないものが。
 個人的にはもう、陳列棚にめいっぱい手を伸ばして、底の方から取ろうとする様が、見ていてイヤになってきた。奥からどころか、陳列を全部かき混ぜてひっくり返し、一個だけお買い上げしていく人もいる。お客帰った後には、「蒲田くんと命名された時のゴジラが通っていった街並み」みたいな惨状の商品棚になっている。
 単純に言えばもう、ものっすごくみっともない。 
 買う立場であっても自分はあれ絶対やらないぞと、固く固く心に誓っている。

 店の赤だけではない。フードロスという問題がある。
 フードロスについて眉間にシワよせたニュースキャスターが難しい問題ですと言うたびに、「そんなん商品前から取るだけで何割か解決や!」と憤ってしまう。
 本当にどうしても新しいものを買わなければならないのか、ちょっと考えてくれるだけでいい。

「これ賞味期限いつまで?」
「二週間ほどですねー」
 と、こっちがせっせと袋詰めをしている最中に、菓子列をいじっていたお客がついに次の日付をほじりだしてしまう。
「あっ、こっちのが一日新しいわ、こっちに変えて」
「…………はい」
 これを! 笑顔で! やらないと! クレームになる! 覚えておこう。お客様はいいご身分だ。
「では、こちらのお日もち今月末になりますぅー」
「あ、大丈夫よ、今日食べるから」
 ギャグかな?? やべーわ笑いどころがわかんなかったわ。最初にお客が弾いた商品でも、期限切れまで二週間はあった。

 そう言えば、思い出した。
 そのお客様に悪意はなく、思い込みから来る軽い言葉だった。が、だからこそなのか、軽く言われてやけに傷ついた言葉があった。
 新しい日付のものを探しながら、そのお客様はこう言ったのだ。
「でも、古いのは店員さんたちで食べてるんでしょう?」
「いいえ?」
 あらっ、と言って、客は気まずそうな顔をした。そうなんですよ。うちではね、ちゃんと会社に返すし廃棄になるんですよ。確かに安く買えるようにしています。会社だってゴミに出したくないので。せっかく作ったものだし。でもそうそう毎日同じものばかり買えないですよ。
 余ったやつは店員さんが安くで買うから……
 それを言い訳に、今まで遠慮なく新しいものを取っていっていたのだろう。廃棄と聞いて気まずくなった分、いいお客様だ。でもね。
 別に店員のおやつまで心配して、わざわざ残してもらわなくても結構ですのよ。
 我々はお客様から売れ残りを下賜されて喜ぶと思われたくないのである。まるで貴族が下働きのものに食べ残しを振る舞うように。なるほど、店員とは現代の奴隷なのだなぁ。

 今は地産地消という言葉とともに、前から取るようにと指導している小学校もあると聞く。いいことだ。いい試みだ。素晴らしい。シマシマ大絶賛する。
 そして、必要以上には漁らず、使いきれるなら一番新しい日付にこだわらないということも実践していただくとありがたい。
 それはフードロスを軽くするとともに、あなたの振る舞いをゴジラじゃなく見せることになもなるのだから。

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