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地面に置いたナイフは輝いているかと殺せんせーは言った

 店の立場は弱い。
 昨今、モンスタークレーマーをビシッと追い返すカッコいい店がたまに話題になるが、話題になるほどたまにの武勇伝であるってことなのだろう。
 基本的には お客>>>>>越えられない壁>>>>>店 で常識。当たり前。古事記にも書いてあるレベル。
 客と店の立場とは本当に不思議だ。「無条件降伏しろ」と言って通じる関係は、他ではあまり見ない。今の時代、そんなんカノジョに言ったらまずは別れられる。
 いいなあ。シマシマもズバッと客をブッた斬りたい。
 んなこと言ってるからクレームになるんだけどもね!

 店側がすすんで全面降伏してるのは、お客様が大事だからだ。当然。
 客商売なので客あっての店だ。それはわかる。何も間違っていない。
 ただ、ここで言う「客」とは、金払ってもの買ってくれる人を指すのであり、通りすがりの人とか、ゴネる人とか、喚く人とかじゃないと思うんだがなぁ。
 大店になればなるほど、風評被害も怖がるので、ちょっとのトラブルも避けたいところなのだ。
 その結果、シマシマ定義で客じゃない人たちが暴れても大真面目に対応してしまい、成功体験からまた暴れん坊将軍する客が来るのだ。
 たとえ客が悪くて店員から注意されたとしても「ちょっとあの言い方はないんじゃない?」と、別方向からのクレームを重ねるというハメ技を持つ客すら現れる始末。我ら店員のゾンビ化が捗るという寸法である。
 そういえば、店員をナンパしてきた客が逆切れする事件もあった。
 個人的なお付き合いを望む、客と店員を超えた関係を求めておきながら、お断りすると「客に向かってなんだその態度」と言うのだ。
 そしてそれでも、店側が陳謝するという地獄絵図。
 シマシマ的にはひとつ言える。
 おまえ、モテないだろ。

 店の全面降伏といって思い出すエピソードがある。
 催事にはいろんなお店が来て、たいてい、美味しい匂いをさせている。
 お客様も大勢足を止めるところで賑やかにやっているのだが、なんだか騒がしいなと思ってそっちを見たら、どうやら客同士がモメているらしい。
 おばちゃんとおじちゃんが割り込んだ割り込んでないと喧喧囂囂。
 そのうちキレたおじちゃんが「うるせえこのクソババア!」と叫んでパッと帰ってしまった。残されたおばちゃん、口あんぐり。
「ンまあ! ンまあぁー! 侮辱されたわ!」
 ンまーンまーと騒ぐおばちゃん。
 必死で取りなす笑顔で、試食を差し出し「まあまあこれでも食べて、ねっ!」という催事のマネキンさん。
 釣られて一個つまくで口の中に放り込み、もぐもぐしながら尚も「ンまー」とやってるおばちゃん。
 話を聞いて飛んでくる社員。ビシッとお辞儀。
「大変申し訳ございませんでしたーッ!!」
 思わず笑うシマシマ。
 カオス。

 結局、おばちゃんは気持ちのやるせなさを散々社員にぶつけて帰っていった。
 客同士のやりあいで頭下げてくる店側も可笑しいんだが、よく言う事あるなと思っていたおばちゃんの主張はこうだった。
「わたしはね、紅白モールにきたのよ! 今日も楽しくお買い物しようと思って期待してきたのに、まさか紅白モールでこんな目にあうとは思わなかったわ!」
 社員は平謝りだったという。もうなんでもアリだな、と思ってシマシマさらにガハハと笑ってしまった。

 おそらく、店側の対応は間違っていない。店のブランドを守るための対応としては正解だと思う。ブランドをあてに来たお客様だからだ。
 でも、客観的にみれば笑い話なんである。笑うしかないやろ。
 まあ、自分が悪くなくても謝るシーンはいくらでもあるって「暗殺教室」で殺せんせーも言ってた。
 給料のうちか。
 そうか。よし。つけようぜ、がんばって謝る料!
 うちの安月給には、どこさがしてもその分乗ってないからな!

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