エージェンティックAIが次の大きなトレンドかもしれない、という話
今、エージェンティックAIがアツい
「エージェンティックAI(Agentic AI)」という言葉をご存知でしょうか。自分は、この考え方が次の大きなトレンドになるかもしれない、と感じています。きっかけは弊社Polyscapeで始めたAI/DX事業およびAIを用いたゲームQA事業で見えてきたニーズでしたが、最近になって世界のAIパイオニアが口々に語っているところを見たことで、その考えが確信に変わりつつあります。
例えば、11月5日に公開された20VCによるSam Altman(Open AI CEO)のインタビューでは、エージェンティックAIが以下のように言及されています。
また、言わずと知れたAIの権威 Andrew Ng(CourseraやGoogle Brainの創業者であり元スタンフォードでのAI教授)によるAgentic Reasoningについての動画が公開されてますが、そんな彼もAgentic AIをExciting Trend(エキサイティングなトレンド)と評しています。
今回の記事では、そんな注目のキーワード「エージェンティックAI」について調べたことや最近発見したことを書いていきます。
エージェンティックAIとはなにか
2023年12月14日に公開された、OpenAIの研究者らがAgentic AIについて論じているホワイトペーパー『Practices for Governing Agentic AI Systems』では、エージェント性(Agenticness)を
と定義しています。平たく言うと、複雑な目標をその環境に適応しながら解決をする主体のことで、AI以外にも用いられることもある概念です。エージェント性が高いAIシステムを、本記事ではエージェンティックAIと呼ぶことにします。
この説明だけだとよくわからないので、Andrew Ngが提唱しているエージェンティックAIによるワークフローの例を見てみます。
通常のAIサービスでは、プロンプトに対して一方的に結果が提示されます。Midjourneyなんかがわかりやすいと思いますが、プロンプトを与えると画像を生成してくれるようなAIのワークフローが 典型的な Non-Agenticなワークフローです。一方、エージェンティックワークフローでは、同じ目的に対して、エージェントが適宜質問をしたりアウトプットを出したり外部ツールを使ったりして、それを人が見て指示を出したりフィードバックを出したりすることでエージェントが適応的に問題を解決します。
エージェンティックワークフローが、通常のゼロショット的なワークフローに対して精度が優れているということは、学術的にも証明されています。コーディングのタスクでは、エージェント的なアプローチを用いたほうが、ゼロショット的なワークフローよりも総じて精度が高いことが検証されています。
これは感覚的にも理解できます。Non-Agenticなワークフローでは、プロンプトエンジニアリング力が求められますが、エージェンティックワークフローでは人間と話しているような形で、感想を言ったりFBを与えたりすることができるため、技術のわからない人でもより直感的に良い結果を得ることができます。
業務効率化SaaSの時代は、たしかにそろそろ終わるかもしれない
先日、20VCのチャンネルで約400億円調達したCHOCOのCEO Daniel Khachabが口にした「SaaS is DEAD.」というキャッチーなフレーズが話題になりました。この動画の中でもAgentic AI およびAgentificationというトレンドについて説明されています。
個人的には、「開発をベンダーに委託するのではなくソフトウェアそのものを使った量に応じて課金するサービス」という意味での広義のSaaSはおそらくこれからも生き続けると思いますが、狭義のSaaSーすなわち、特定の業務フローを前提とした特定の業務効率化のためのSaaSといったものの多くは、近い将来エージェンティックAIに代わられるであろう、という見解を持っています。
たとえば確定申告という業務を例にとった場合、今までのアプローチは、確定申告を行う人が使って便利なサービスやツール群を作るといったものでした。しかし、これからは、確定申告というワークフローそのものを、自ら外部のツールを利用しながらユーザーとコミュニケーションをすることでこなしていく、「確定申告をするエージェント」のようなものが主流になっていくのではないかと考えています。通常の税理士と同じく、自然言語をインターフェースとして、ユーザーと必要なやりとりをしてくれます。
実際、こういったものは、簡単なものであれば、対象となる業務フローの完全理解者さえいれば、Difyのようなツールを使って比較的簡単に構成できてしまいます。確定申告は一つの例ですが、これから起こる変化は、そのような一定複雑性が高く、業務に関する専門知識が必要な領域に対して、次々にエージェンティックAIを提供するサービスが現れるということです。
現時点ではChatGPTに「私の今年の確定申告手続きをやって」と言ってもできないように、各業務について人間が詳細にフローを設計したりモデルをトレイン(インコンテキストラーニングも含めた広義の学習)したりしないといけないため、それを作るのにもそれなりに時間がかかります。何も作りこまずプロンプトひとつで全てをやってくれる汎用エージェントはもう少し先でしょう。
これはさらにその先のトレンドですが、汎用エージェントがすべての業務特化エージェントおよび業務SaaSを食うというのが、次の次に来る流れだと思います。「うちのWEBサイトを今の業務内容に従って最新状態に更新して」「口座に2000万入れておいたので、◯◯のログイン情報でアクセスできます。それを自由に使って、年間1億の売上を上げる事業を作って」といった複雑性の高いタスクを事前のワークフロー構築なしで実行できるようになる汎用エージェントが、いつかは来ることになるでしょう。その質が平均的な人間の質を超えればそれはもはや特異点のようなもので、歴史の主体が人間からAIに変わると言っても過言ではないでしょう。
自分の周りでも見えてきたニーズ
ゲームコンテンツ事業から始まった弊社Polyscapeですが、ゲーム開発におけるQA作業といった煩雑な作業をAIにやってもらう自動QAソリューションPolyQAをはじめとしたAIサービスを手掛ける様になっていく中で、AIに関しての様々な相談をいただくようになりました。今ではそれを「AI/DX事業」として事業部化して、拡大の準備をしています。(WEBサイトにはまだ載せられてないですが、これから正式公表していく予定です)
日々そういった案件に触れていく中で様々なお客様とお話をする機会がありますが、最近になって、以下のようなお話をいただくことが増えました。
LINE接客をAIにやらせたい
ゲームデバッグをAIにやらせたい
求人エージェントの提案をAIにやらせたい
飲食店の予約の請負をAIにやらせたい
カスタム香水の調香と販売をAIにやらせたい
オンライン試験の不正検知をAIにやらせたい
これは、多くの企業が、AIによって既存ワークフローの自動化を試みているということの現れだと考えています。すべてではないですが、これらは「既存の業務フローを効率化するAIシステム」というよりは、「人間がやっていた業務そのものを行うAIシステム」であることが多く、今後の業務システムのニーズがそちらにシフトしているのではないかという気付きに繋がりました。そういったことから、業務を行うAIという考え方が単なるバズワードではなく、お金を払うニーズがあるものだという実感が伴ってきました。
2000年からの10年が企業が自分の業務フローを実現する個別ソフトウェアをベンダーに開発さあせる「ソフトウェアベンダーの時代」だとすると、2010年からの10年は、共通化された業務フローをクラウドソフトウェア化し、ソフトウェアの開発リソースではなくソフトウェアそのものをサービスとして使うごとに課金するという「SaaSの時代」でした。
そして、2020年からの次の10年は、「エージェンティックAI(エージェンティフィケーション)の時代」になると考えています。
エージェンティックAIのさらなる可能性
今回紹介したエージェンティックAIの多くは、「従業員の仕事を代わりに行うAIエージェント」ではありますが、それらの仕事を「人間と同じように」やるわけではありません。むしろ、エージェンティックAIの恐ろしいところはそれを人間とは全く違うアプローチ、すなわち、人間以上の物量と速度でこなすことができることです。
冒頭のサム・アルトマンのインタビューの中でも、エージェンティックAIには人間ができないやり方でタスクをこなすことができるのが面白い、という言及があります。
例えば レストランを自分の代わりに予約してくれるエージェントがいたとします。普通に思いつくのは、人間の秘書のように1件1件電話をかけて予約を確認してくれるエージェントですが、300件のレストランに一度に電話をかけてスペシャルメニューがあるかどうかや好きな食べ物があるかなどを調べることができたらどうでしょうか。人間であればとてもできた技ではないですが、エージェンティックAIであれば、並列に行うことができるので、3分もかからず完了するでしょう。
弊社が提供するゲームデバッグの領域でも、ゲームのオートプレイエージェントを開発していますが、人間との違いとして、24時間働かせ続けることができるので、人間とは比べ物にならない物量と並列数でこなすことができます。さらに、ゲームでは倍速再生などもできるため、5倍の速度で10並列でゲームデバッグを行うデバッグエージェント、といったことも夢ではないかもしれません。
これから自分たちがやろうとしていること
この部分に関しては近々情報を出せたらと思いますが、PolyscapeではエージェンティックAIというものの可能性を会社としても追っていき、AI/DX事業の拡大を続けるなかで様々なお客様のニーズに向き合い、共通ニーズの抽出と有力なドメインの発見、筋の良さそうな仮説の検証とサービス化を行う予定です。
まだ構想段階ではありますが、そんな中で弊社が持っているゲーム的なアプローチとの組み合わせや、エージェントとキャラクターIPを組み合わせるといった実験も行っていこうと考えています。
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