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他人の頭で考える、集合知の思考術

最近、ビジネスシーンで意思決定をする際、「他人の頭を使って考える」ということを意識するようにしています。この思考法について、ようやく自分でもモノにできてきたように感じるので、今回はそれについて書いてみます。

人の意見を聞くのは簡単なことではない

ビジネスにおいて、人の意見をきちんと聞くということは、簡単そうで難しいことです。特に、自分がプロジェクトの意思決定の全権限を持っている意思決定者である場合、「人に聞く義務」はないので、わざわざ自分が決定権を持っている中、なぜ人に聞く必要があるのか?と思うこともあるかも知れません。

特に、リーダーの経験が浅い人や初めて意思決定者を任されるような人には、うまく人に意見を聞いて意思決定の質を上げるということが苦手な人が多い印象があります。また、人の意見を聞くとその通りにしないといけなくなる、意見を聞いておいて取り入れないのは相手に悪い気がする、人に意見を聞くことで干渉されがちになってしまう、といった理由で、人の意見を聞いて意思決定をすることに苦手意識を持っている人も少なくはないでしょう。

過去に自分が権限委譲をした人の中で、「自分の中ではもう結論は決まってるけど、メンバーの当事者意識を上げるためにメンバーに聞いてる」という人がいました。本人的には良かれと思ってやっていることだとは思いますが、これは、「聞いているフリ」をしているだけです。人のモチベが下がるのは、全く意見を聞かれないよりも、意見を聞かれて、それがことごとく無視される時です。こういうことを続けていると、聞かれた側は「どうせ言っても聞いてもらえないし」ということでむしろ当事者意識が下がってしまいます。
じゃあ人の意見が微妙と思っている時もたまには意見を取り入れるムーブを意識した方がいいのか、というと、そういうわけではありません。

そこで必要なのが「他人の頭で考える」という思考法です。

他人の頭で考える思考法

ビジネスシーンにおいて人の意見を聞くべき最大の理由は「自分のアウトプットの質を上げるため」です。この一点に尽きます。相手のモチベを上げるためと言った理由ではなく、完全に自分のために聞くという意識がポイントです。自分のアウトプットや意思決定の質を上げるために他の人頭脳や知識を使う考え方を自分は「他人の頭で考える」思考法と捉えています。人の意見を聞くというよりは、あなたの脳みそのリソースをちょっと借りるよ、という行為に近いです。

PSYCHO-PASSに出てくるシビュラシステムのように、人の脳を相互接続しているイメージです。あるいはAWSのように、大きなコンピュータリソースの一部を間借りして仮想コンピューティングを立ち上げるイメージです。

PSYCHO-PASS「シビュラシステム」(https://wired.jp/branded/2019/09/03/animax-psycho-pass-ws/)

チームに複数の人がいるということは、集合知(たくさんの人の知性を集めると、より優れた知性が生まれること)の機会があるということです。他人の頭を使う思考法によってチームの力をうまく活用すれば、意思決定の質も一人では到達しない領域に到達することができます。

今まで人の意見を聞く話をしてきましたが、他人の頭で考えるという行為は、単に他人の意見を聞くという行為とは似て非なる物です。この思考法にはいくつかポイントがあり、それを実践することで最大の効果を発揮します。

意思決定の手綱はあくまで自分で握る、という意識

1つ目のポイントは、あなたが意思決定者である場合、「最終意思決定の手綱はあくまで自分が握っている」という意識を強く持つことです。この意識が薄いと、「意見を聞いたら相手が意思決定に介入し、自分の意見を通すことができないのではないか」という怖れが生まれ、他人の頭を使うことから逃げてしまいます

人の頭を使うために意見を聞くと、時に自分の出そうとしている結論と反対のことを言われることがあります。この時にありがちなのが、意思決定者のあなたが、「自分はそう思ってないんだけどな」と議論を戦わせて相手の納得させようとすることです。最終的に出した結論に納得してもらうことは重要ですが、あなたが意思決定者があれば、意思決定の過程で意見を聞いた相手と議論を戦わせすぎてもよくありません。あくまで意見を聞く目的は自分のアウトプットの質を上げるためなので、その観点では議論をするという行為がむしろ非効率なことがあります。相手がこちらの意思決定における前提や背景、目的や優先度を理解しているとは限らないからです。議論を戦わせる代わりに、「なんでそう思うの?」と理由を尋ねたり、自分が前提としていない 背景や想定(Assumption)を聞き出すことが重要です。同じAssumptionで違う結論が出てくる場合もありますが、Assumptionがそもそも違うことにより結論が違う場合、本来あなたが考慮すべきことが抜けている可能性があります。

あなたが意思決定者で、他人の頭を使って意思決定の質を上げようとする場合、あくまで自分が意思決定の手綱を握っていることを忘れずに、極端な話、相手をコンピューティングリソースとみなして自分に無い観点や考え方を引き出すようにましょう。

「理由」と「結論」を分別する

先の「議論をしすぎない」ということとも関連をしますが、他人の意見や考えを聞いた場合、相手の言い分の「理由」と「結論」を分別する、ということが他人の頭で考える上で非常に重要なポイントです。あくまで結論を出すのが自分なので、相手の言う結論自体は実際のところほとんど重要ではありません。5人に聞いて5人が自分と別な結論を支持したとしても、あなたの目からみて彼らの話を聞いて新しい発見がなければ、結論を変える必要はありません。

ポイントはその人がその結論にたどりついた際に、自分の前提やプロセスとどのように違うかを見つけ出すことです。そのために、なぜそう思うのか、という深堀りが重要です。そのようにして他人の頭から出てきた新たな前提やプロセスを自分の前提に統合して、もう一度考え直すことで新たな結論を得ることができます。(その結果、結論が変わらないことも多いです)

逆に、自分の意見を聞かれた際には、私は結論ではなく理由やプロセスを重視して喋るようにしています。自分が権限委譲している相手や、意思決定者にとっては特に意識します。あくまでその人に結論を出してもらいたいので、自分の結論は参考程度に、と釘を差しておくことが多いです。

意見を聞くのではなく、情報と観点を集める

いままで、人の意見を聞く話をしてきましたが、実際のところ他人の頭で考えるのは人の意見を聞くということとは違います。意見を聞いているというよりは、集合知を活用するため、他人の経験・頭脳・知識を使って意思決定のための情報と観点を集めるという表現が近いです。

観点というのは、「短期で見るとGOかもしれないが、長期で見るとNOT GOである」「売上だけ見るとGOかもしれないが、社員の士気を鑑みるとNOT GOである」「事業的にはGOかもしれないが、資本政策を鑑みるとNOT GOではある」という、同じ情報であっても、意思決定の結論が変わりうる「切り口」のことです。

情報というのは、「日本では◯◯が人気だが、アメリカではすでにブームが去っている」「◯◯さんはこの決定に反対していたのでこの決定がくだされたら彼の士気が下がるだろう」「とある顧客と話したときに、◯◯というコンセプトがとても刺さっていた」という、同じ観点であっても、意思決定の結論が変わりうる「材料」のことです。

意思決定というのは、「どっちがいいかよくわからない」という不確実性がある環境で、持っている情報観点に通して、目的が達成される可能性の高い選択肢を選ぶという行為です。情報や観点が少ないと、目的が達成されているようで達成されていなかったり、そもそも目的の達成につながりにくい選択肢を選んでしまったりします。

一般に、観点と情報は多ければ多いほど意思決定の質が上がります(決定の難易度が上がりますが)。特に、観点に関しては自分の頭だけであげられる数には限りがあるので、集合知の活用をおすすめします。

アフリカに行くかどうか迷ってる人の意思決定モデル図

そして、時に、GOでもNOT GOでもない、新たな結論を出してくれる頭をもつ人もいます。これは先の定義でいうと、「選択肢」を増やすという行為にほかなりません。選択肢の多さにより意思決定の質は単調増加するので、選択肢を増やしてくれる人の頭は非常に貴重な資源です。

他人の頭で考える思考法の実践

「他人の頭で考える」思考法は、チームでのコラボレーションのひとつのあり方です。時間をかけてディスカッションして創発させていくといった、別な集合知アプローチもあるので、この思考法がすべてではありません。しかし、この考え方はうまく使いこなせると、非常に強力な集合知アプローチになります。

基本的には「他人の頭で考える」思考法は意思決定の質を上げていく目的で使えるものですが、他人の頭の使い方がさらにうまくなれば、他人の頭をうまく使って考えてもらっている間に、自分は他のことを考える、といった「自分の頭の計算リソースをセーブしてさらに総量として多くのことを考えていく」といった思考をすることも可能です。このように、集合知としてのチームの使い方がうまくなれば、仕事の質やスケールはどんどん上がっていきます。

大抵の場合、自分の思考だけでは重要な観点や情報が抜けていたりするので、これがうまく機能していれば、チームメンバーの意見は自然と、本質的な形で意思決定に取り入れられることになります。それは副次的な効果として、「この人はちゃんと(取捨選択するうえで)自分たちの意見を聞いてくれる」というチームの印象にもつながり、結果としてチームのモメンタムを高めることになるでしょう。

このようにいろいろな効果が見込める「他人の頭で考える」思考法を、ぜひ仕事の中で実践してみてはいかがでしょうか。


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