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松江市民は、島根原発についてどう考えるべきか? 投稿者:上田創史(松江市民)

はじめに


上定市長は「現状は原発に頼らざるを得ない」として、原発再稼働を容認されました。しかし、その理由として挙げられている、原発は安い・原発がないと電気が足りない・二酸化炭素の削減に必要、というのは、単なるイメージであり、その具体的な根拠は示されておりません。
 
市長や地元の議員に、直接聞きましたが、誰に聞いても原発に頼らざるを得ないという理由やその根拠について答えらる人はいません。それにも関わらず、原発に頼らざるを得ないという姿勢を崩さないのは、明らかに矛盾する態度です。自分の所属組織との関係性から、自分のポジションを守るという、立場主義的なふるまいであると考えざるを得ません。
よって、ほとんどの松江市民は(原発を積極的に活用したいという人以外)は、頼らざるを得ない理由は現時点では確認できないので、再稼働に反対・もしくは再検討を求めるべきです。

 
以下に、文章をまとめましたので、ご覧いただければと思います。
 
現在の公開資料からは、現状は原発に頼らざるを得ないという事が成り立たないということを以下の文章から指摘致します。
 
上定市長の判断表明↓
https://drive.google.com/file/d/1PDq7q7xwmAzOhGPlMk7mH9tnNEUWqs2F/view?usp=sharing
松江市のホームページに、上定市長が再稼働を容認された経緯が簡単にまとめられており、現状は原発に頼らざるを得ない、という理由について以下の3点が示されておりましたが、その根拠などについて、公開資料や議事録からは確認できませんでした。
           
1.   エネルギーコストの低減    ⇒低減できるのか不明
2.   電力の安定供給              ⇒安定供給に繋がるのか不明
3.   二酸化炭素の削減             ⇒二酸化炭素の削減に繋がるのか不明               
※1.島根原子力発電所 2 号機の新規制基準に係る安全対策の事前了解及び島根原子力発電所 2 号機の再稼働へ向けた政府方針に関する理解要請への対応についての市長発言(2022 年 2 月 15 日)

 

エネルギーコストの低減について

1.    これからのコストへの影響(再稼働の有無によるコストへの影響)
再稼働した場合(火力燃料費の削減、ウラン燃料費の増大など)
再稼働せずに廃炉にした場合(原発維持費、運転費の削減など)
のそれぞれのコストの変化を比較することが必要だが不明である。
{このうち一部しか情報公開(※2.住民説明会資料:中国電力P33)されておらず、これらのコストに関連する正確な情報(燃料の取引価格の設定・減価償却費など)が分からなければ、コストへの影響が判断できない}

以上のことを踏まえて、なぜ再稼働によりエネルギーコストの低減ができると考えるのか?

2.   これまでかかった費用も含めたトータルコスト(島根原発のコスト)
 
島根原発2号機のコストは非公開になっています。
・追加安全対策費として9000億円(2・3号機合計)(※3.2023/11/01中国新聞)という莫大な費用が発生している。また、10年以上停止しており、その間全く発電していないにもかかわらず、毎年500~600億もの維持費(1・2号機合計)(※4.2017/8/21中国新聞)が発生し続けており、相当コストが高くなっていることが見込まれる。

住民説明会で参考資料(※5.住民説明会資料:資源エネルギー庁P28)として示されている原発のコスト(新規発電設備のコストであり、今回検討対象である10年以上停止している島根原発とは全く条件が違うので、そもそも参考にできないが)の試算方法が、実際とはかけ離れている。

①    追加安全対策費が約1300億円程度で試算されている(モデルプラント出力120万
kWで試算){※6.経済産業省:基本政策分科会に対する発電コスト検討に関する報告P104(2020年試算から引用)}⇒島根原発は追加安全対策費9000億円(2・3号機合計、2号機出力82万kW)

②    福島原発事故関連の廃棄物処理費用が未計上で試算されている。
※7.経済産業省:基本政策分科会に対する発電コスト検討に関する報告P108

日本原子力学会の福島第一原子力発電所廃炉検討委員会がとりまとめた『国際標 準からみた廃棄物管理 - 廃棄物検討分科会中間報告』によれば、発生する L1~L3 廃棄物量は 783 万トンと推計されている。
1999 年の原子力部会中間報告に基づけば、110 万トンの BWR 型原子炉廃炉で発 生する L1~L3 廃棄物 8790 トンの処分費用は 178 億円である。建設工事費 デフレーターで2023年現在に換算すると 250 億円1、1トン当たりの処分費用は 285 万円となる。単純計算では 783 万トンの廃棄物処分には 22.3 兆円が必要となる
※8.2024年11月20日第43回原子力小委員会への意見書P7,8

③    事故発生頻度が4000炉・年で試算されており、事故費用が矮小化されている。
※9.経済産業省:基本政策分科会に対する発電コスト検討に関する報告P117
日本における実際の事故発生頻度は500炉・年程度である。

以上のことを踏まえて、なぜエネルギーコストが低減できると考えるのか?

3.   再生可能エネルギーのコスト
 
(原発を再稼働させず廃炉にして、再エネで置き換えていった場合を想定)
住民説明会の資料などでも引用されているIEA(国際エネルギー機関、OECDの下部組織)2022の発表資料では、原発の運転延長(再稼働と同等、建設費用などを除く)と再生可能エネルギーと蓄電池を含めたコストはほぼ同じ。
※10.原発と再エネのコスト-国内外の議論の最前線 東北大学東北アジア研究センター
明日香壽川教授P3,P12

以上のことを踏まえて、なぜ原発利用によりエネルギーコストが低減できると考えるのか?

まとめ
コストに関する情報公開がほとんどされておらず、エネルギーコストの削減に繋がるのかが不明です。また、原発のコスト試算(新規設備のコスト試算なので、そもそも参考にならないが)が、現実とかけ離れすぎています。

電力の安定供給について


 
1.    エネルギー源の多様化として、原発を選択肢に入れることが、電力の安定供給につながるのか不明

エネルギー源を多様化することにより、安定化につながる要素もあると考えられるが、その一方原発を選択肢に入れることで、東日本大震災による原発の過酷事故の時のように、日本中の全原発の停止に繋がる可能性が生じることについての想定がない。
※11.住民説明会資料:中国電力P19
補足:島根原発の耐震基準は820ガル、2016年の鳥取県中部地震は震度6弱、1494ガルを観測
※12.原子力規制委員会 中国電力株式会社島根原子力発電所2号炉の発電用原子炉設置変更許可申請書に 関する審査書案に対する科学的・技術的意見の募集の結果についてP6-9
 
多面的(安定化・不安定化の両方の要素があるなど)であり複雑(様々な燃料や国際情勢など)な要素が絡むので、実際のシミュレーション(国際情勢による燃料の輸入状況の変化、事故発生頻度などの様々な要素を踏まえて)をしなければ、安定化に繋がるのかどうかの評価ができず、判断できない。
多様化すれば安定化するのではないか?という抽象的な考え方のみでは、実際には異なることもあるので、リスクをとってでも手に入れるメリットがあるとして、政策決定ができる判断材料にはできない。
 
以上のことを踏まえて、なぜエネルギー源の多様化として、原発を選択肢に入れることが、電力の安定供給に繋がると考えるのか?
 
 
2.過去に電力がひっ迫したとされるが、原発の再稼働が電力の安定供給につながるのか不明

2021年に電力がひっ迫したとされるが(※13.住民説明会資料:中国電力P24)、実際には一年のうちの、数日間の中の数時間である。またひっ迫した原因の分析も具体的に示されていない。
稀頻度の厳気象に対しては、まずは需要調整(電力の使用に関する注意の呼びかけ、大口顧客に対しての対応など)が、充分にされていたのか?という分析が必要だが、それに関してはなにも示されていない。また、原発再稼働の遅れによる電力供給計画の不備が生じていたのであれば、それは計画の問題でもある。
その他、様々な理由が考えられるが、まずはなぜひっ迫したのかという詳細な分析がなされて、それが説明されなければ、有効な対策として原発の再稼働が必要であるということにはならない。
 
以上のことを踏まえて、なぜ原発再稼働が電力ひっ迫の対策となり、電力の安定供給に繋がると考えるのか?
 
3.再生可能エネルギーの安定性

例えば、海に囲まれた他国との系統連系がないという条件が、日本とよく似ているオーストラリアは、2030年までに再エネ比率82%(現在も原発ゼロ)という高い目標を掲げている。ヨーロッパだけでなく、近年諸外国では、再エネのみによる電力の安定供給を実現しつつある状況がある。
 
以上のことを踏まえて、なぜ電力の安定供給のために、原発に頼らざるを得ないと考えるのか?
 

まとめ
原発を選択肢に入れたエネルギー源の多様化が、電力の安定供給に繋がるのか不明。
過去に電力がひっ迫した時の、詳細な分析が示されていないので、その対策として原発再稼働が必要だという事は意味が分からない。
  

二酸化炭素の削減について


 
1.    原発の再稼働が二酸化炭素の削減につながるのか?
 
原発は二酸化炭素排出量が少ないとして、再稼働により約260万トンの排出量削減(火力発電量の減少などによる)ができると示されている。※14.住民説明会資料:中国電力P40
しかし、それは部分的な視点によるものであり、全体的な視点(広範囲・長期)から、二酸化炭素の削減ができるのかどうか?ということについては示されていない。
原発再稼働(大規模且つ出力調整不可能な発電設備)による、他の発電設備に対する電力の出力調整により、再エネ事業縮小への影響がでる、原発のバックアップ電源としての火力発電所の維持など、原発の再稼働は全体的(広範囲・長期)に影響が及ぶ。以上の事から、リスクを背負って再稼働をしても、かえって二酸化炭素の増加につながることも予見される。
また、二酸化炭素を削減できたとしても、放射性廃棄物が新たに増加することも、判断材料として加えなければならない。
上記のことを裏付けるものとして、2020年科学雑誌ネイチャーにて、世界123ヵ国25年間のデータ分析の結果、原子力発電量の多さは、CO2排出削減に影響を与えないという研究も公表されている。(一方再生可能エネルギー導入量の多さは、CO2排出削減に影響を与えるとされている)
 
※15.Benjamin K. Sovacool, Patrick Schmid, Andy Stirling, Goetz Walter and Gordon MacKerron (2020), “Differences
in carbon emissions reduction between countries pursuing renewable electricity versus nuclear power” Nature
Energy, Vol.5 928-935
 
以上のことを踏まえて、なぜ原発の再稼働が二酸化炭素の削減につながると考えるか?
 
2.温室効果ガス排出削減コスト
また、コストについての関連性もあるが、IEA2022の発表資料では、温室効果ガス排出削減コストは、原発運転延長(再稼働と同等)よりも再エネ新設の方がはるかに安く、最大で6分の1になっている。
※16.原発と再エネのコスト-国内外の議論の最前線 東北大学東北アジア研究センター
明日香壽川教授P3,P15
 
以上のことを踏まえて、なぜ二酸化炭素の削減のために原発に頼らざるを得ないと考えるのか?
 
まとめ
原発の再稼働が二酸化炭素の削減につながるのかどうかは、部分的な視点のみではなく全体的な視点(広範囲・長期)からの検討をしなければ、リスクを背負い再稼働をしても、かえって二酸化炭素の増加につながることが考えられる。
※また放射性廃棄物の増加も忘れてはならない。
以上、それぞれの質問に対して、内容を踏まえた上でお答え頂きますようお願い致します。
 
※1.島根原子力発電所 2 号機の新規制基準に係る安全対策の事前了解及び島根原子力発電所 2 号機の再稼働へ向けた政府方針に関する理解要請への対応についての市長発言
https://www.city.matsue.lg.jp/material/files/group/20/20220215shityohatsugen.pdf
※2.住民説明会資料:中国電力P33
https://www.pref.shimane.lg.jp/bousai_info/bousai/bousai/genshiryoku/juuminnsetumeikai.data/tyuugokudennryoku.pdf
※3.2023/11/01中国新聞
https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/379835
※4.2017/8/21中国新聞
https://www.hiroshimapeacemedia.jp/?p=75756
※5.住民説明会資料:資源エネルギー庁P28
https://www.pref.shimane.lg.jp/bousai_info/bousai/bousai/genshiryoku/juuminnsetumeikai.data/shigenenerugi-tyou.pdf
※6.経済産業省:基本政策分科会に対する発電コスト検討に関する報告P104(2020年試算から引用)
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/cost_wg/pdf/cost_wg_20210908_01.pdf
※7.経済産業省:基本政策分科会に対する発電コスト検討に関する報告P108
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/cost_wg/pdf/cost_wg_20210908_01.pdf
※8.2024年11月20日第43回原子力小委員会への意見書P7,8
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/pdf/043_04_00.pdf
※9.経済産業省:基本政策分科会に対する発電コスト検討に関する報告P117
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/cost_wg/pdf/cost_wg_20210908_01.pdf
※10.原発と再エネのコスト-国内外の議論の最前線 東北大学東北アジア研究センター
明日香壽川教授P3,P12
https://www.ccnejapan.com/wp-content/20230214_CCNE_Asuka1.pdf
※11.住民説明会資料:中国電力P19
https://www.pref.shimane.lg.jp/bousai_info/bousai/bousai/genshiryoku/juuminnsetumeikai.data/tyuugokudennryoku.pdf
※12.原子力規制委員会 中国電力株式会社島根原子力発電所2号炉の発電用原子炉設置変更許可申請書に 関する審査書案に対する科学的・技術的意見の募集の結果についてP6-9
https://www.nra.go.jp/data/000365205.pdf
※13.住民説明会資料:中国電力P24
https://www.pref.shimane.lg.jp/bousai_info/bousai/bousai/genshiryoku/juuminnsetumeikai.data/tyuugokudennryoku.pdf
※14.住民説明会資料:中国電力P40
https://www.pref.shimane.lg.jp/bousai_info/bousai/bousai/genshiryoku/juuminnsetumeikai.data/tyuugokudennryoku.pdf
※15.Benjamin K. Sovacool, Patrick Schmid, Andy Stirling, Goetz Walter and Gordon MacKerron (2020), “Differences
in carbon emissions reduction between countries pursuing renewable electricity versus nuclear power” Nature
Energy, Vol.5 928-935
https://www.researchgate.net/publication/344482658_Differences_in_carbon_emissions_reduction_between_countries_pursuing_renewable_electricity_versus_nuclear_power
※16.原発と再エネのコスト-国内外の議論の最前線 東北大学東北アジア研究センター
明日香壽川教授P3,P15
https://www.ccnejapan.com/wp-content/20230214_CCNE_Asuka1.pdf


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