カロリー制限食VS糖質制限食
「カロリー制限食VS糖質制限食、違いは何?」原則的には「疾病疾患の原因別に食事法を分ける」のが重要です。
例えば、インスリン分泌障害でやせているのに、高血糖の場合や中性脂肪高値の場合は、糖質を制限することによって改善が期待できます。
一方で、「肥満」だけに注目して、それを改善させるためにはどちらがいいのでしょうか。
結論から言えば「カロリー制限食」です。というよりも、一般的な糖質制限食は、カロリー制限食に内包されると考えています。 カロリー制限食は「全体のカロリーと脂質の摂取量を減らす」という方法で、糖質制限食は「炭水化物は減らすけどたんぱく質と脂質は制限しない」という方法です。
炭水化物や糖質は一切口にしないという、非常に厳格な糖質シャットアウト派の方もいますが、一般の人が気軽に参考にできるような普遍性や継続性は劣ると思います!
「糖質制限食」と「カロリー制限食」を比べた臨床研究はいくつかありますが、有名なのが「DIRECT試験」です。本試験は、糖質制限食の優越性を示すためにしばしば引用されるのですが、結果の解釈にいくつか注意点があるので、丁寧に見ていきたいと思います。
糖質制限、カロリー制限「以外」の手も!
本研究では、減量効果だけではなく、中性脂肪、HDLコレステロール、LDLコレステロールの推移に関しても解析が行われています。
中性脂肪、HDLコレステロールに関しては、糖質制限食の方がカロリー制限食よりも、明らかに(=統計学的に有意に)改善させていましたが、LDLコレステロールに関しては差がありませんでした。
これらの結果を見ると、確かに糖質制限食の方が全般的に良い結果が出ています。けれど3点ほど、気になることがあります。
1. 本試験は、「糖質制限食」と「カロリー制限食」の対立という構図の中で語られがちですが、「地中海食」の健闘も見逃せません。その理由として、論文の著者は、食物繊維の摂取量が多いことと、飽和脂肪酸が少ない(オリーブ油や魚油が多い)ことを指摘しています。
「不飽和?オメガ?トランス?どの脂肪酸が危ないのか」でも解説した通り、どの脂肪酸を摂取するのかはかなり重要なポイントです。それを考えると、「脂肪はなんでも制限なく取っていい」という糖質制限食のスタンスを、無条件で肯定することはなかなか難しいことです。
2. 次に気になるのは、一般の生活を送る限り、 「糖質制限食」と「カロリー制限食」はしゅん別できないケースが多々あるということです。
例えば、ランチにたらこスパゲティやチャーハンを食べるとします。そのとき、ダイエットを意識するとしたらどうすればいいでしょう。たらこだけ食べるとか、チャーハンのご飯だけを残すなんていうことは不可能です。恐らく対応策としては、食べる量を減らす、ということになると思います。これは「糖質制限食」であるし「カロリー制限食」でもあります。
「私は糖質制限派なので、そもそもそんなものは食べない。昼は定食にしている」という場合も同じです。ダイエットのためには、定食のおかずや小鉢の量を減らすのではなく、主食のご飯の量を減らすことになるはずです。これも「糖質制限食」であり、総カロリーが減っているという意味では結局「カロリー制限食」なのです。
仮に残したご飯の分を補うようにたんぱく質や脂質を本来より多めに取るのであれば、確かにそれはカロリー制限食ではありません。
しかしその場合、塩分(たんぱく質をおかずとして増やせば、自動的にプラスで摂取することになる)や好ましくない脂肪酸の摂取量も上昇するでしょうし、尿酸値などにも目配りする必要が出てくるでしょう。
一般の人にとって「糖質制限」と「カロリー制限」がしゅん別しにくいのであれば、「糖質制限にしなくてはいけない」とか、「カロリー制限にしなくてはいけない」と無理にどちらかを選択する必要はないのです(本稿は糖尿病などの疾患のない健康な人が肥満を解消、予防するためにどうするかという趣旨であることをここでもう一度強調しておきます)。
基本的には、食べたいメニューを選べばいい。ただし選んだ上で、ダイエットのためにはどうすればいいのかを工夫すればいいのです。
メニューによっては糖質制限食になったり、カロリー制限食になったり、その両方になったりする。そして地中海食やDASH食のメリット(不飽和脂肪酸や魚介類)も意識しておく。そうやって融通無碍(ゆうずうむげ)に食生活を組み立てて対処していくのが、最も心情的に無理がなく、継続しやすいでしょう。
3. そしてこの、「継続しやすい」というのが最も重要なポイントであり、DIRECT試験で図らずもつまびらかにした最大の注意点だと私は考えます。
確かに糖質制限食は、最も減量効果が高いのですが、試験開始から5カ月後ぐらいをピークにして、少し体重が戻っていきます。これはカロリー制限食も同様です。
本試験の目的は、各食事法の効果を明らかにすることですが、2番目に大切なメッセージは、「各食事法だけを厳密に続けていくことは難しい」ということだと私は考えます。
前述したように、そもそも各食事法を2年間完遂したのは、カロリー制限食で90.4%、地中海食で85.3%、糖質制限食で78.0%であり、それ以外の人たちはドロップアウトしているのです。それらのデータも含めれば、特に完遂率が低い糖質制限食は、もっと効果が弱まってしまうでしょう。
実際に糖質制限食は継続が難しく、1年後にはカロリー制限食との体重減少効果の差が消えてしまうという報告もあります(2)。
確かに「減量を試みて、早く結果が出る」ということは一見すると好ましいことです。しかしこの結果を見る限り、だからといって、それがモチベーションを維持し続けることに成功している、とは言えません。
そもそも肥満も一朝一夕に生じたものではありません。何年にもわたって、少しずつ体重が増えてきたという人がほとんどでしょう。であれば、肥満の解消にも、それ相応の時間をかけるべきなのです。
例えば高血糖を急激に是正すると、糖尿病性網膜症が悪化することが医学的にも分かっています。長年続いた高血圧を急激に下げれば、やはり立ちくらみやふらつきが出てきます。体は長年かけて少しずつ肥満の状態に適応してきたのだから、肥満の解消にもゆっくり適応させながら、ソフトランディングさせるべきなのです。
急激な減量はリバウンドを招きやすく、リバウンドすると減量に対する意欲や自尊心を失う結果になるのも非常に有害です。
肥満を解消することは、短期的に成功すればいいという話ではありません。「できるだけ健康で人生100年時代を乗り切る」ためには、とにかく持続可能であることが大切になります。
拙速に結果を追い求めるのではなく、長めの射程を持った考え方、戦略が必要になってくるのです。