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「値引き」が法律上問題となる場合

 商品やサービス(以下「商品等」といいます。)を「値引き」することは、商品等を販売する際に日常的に行われているものであり、値引きする際に法律に違法するかどうかを検討することはあまりないかもしれません。
 確かに、多くの場合において「値引き」が違法になることはありませんが、次に述べるように、一定の場合には、「値引き」が法律上問題となる可能性があります


1.抽選値引きの場合

 抽選などにより値引きを行う場合には、その値引きは、景品表示法における「景品類」に該当する場合があります。
 まず、値引きについては、経済上の利益ではあるものの、「正常な商慣習に照らして値引又はアフターサービスと認められる経済上の利益」であれば、景品類には当たりません(「景品類等の指定の告示」1項但書)。
 他方で、値引きがされるかどうかを、懸賞(抽選などの偶然性を利用して定める方法、または、特定の行為の優劣又は正誤によって定める方法)によって決める場合や、値引きを「同一の企画において景品類の提供とを併せて行う場合」には、「景品類」に該当するとされています(「景品類等の指定の告示の運用基準について」6項4号)。
 景品類に該当する場合には、その景品類は、景品表示法が定める上限を超えて消費者に提供してはなりません

2.二重価格の場合

 値引きを、値引き前の価格と合わせて表示する場合には、景品表示法における有利誤認表示に該当する場合があります。
 同法では、「商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」は、有利誤認表示として規制されます(5条2号)。
値引きされた価格を表示するにあたって、過去の値引き前の価格も合わせて表示することで、お得感を演出する場合には、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」との比較対照である必要があり、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」ではない価格と比較する場合には、有利誤認表示になる可能性があります。
 「最近相当期間にわたって販売されていた価格」の考え方については、消費者庁の「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」で明らかにされています。

3.ダンピング(不当廉売)にあたる場合

 原価を下回るような大幅な値引きにより、他の競合事業者の商品が全く売れなくなってしまうなどの場合には、独占禁止法に違反する場合があります。
 もちろん、企業の効率性によって達成した低価格で商品を提供することは問題にはなりません。しかし、他方で、企業努力や正常な競争過程を反映するものではなく、端的に採算を度外視した低価格により、他の事業者の顧客を獲得することは、体力のある大規模事業者が、他の小規模事業者を倒産に追い込んで市場から排除する手段として用いられかねません。
 具体的には、「正当な理由がないのに、商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することであつて、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの」(独占禁止法第2条第9項第3号)、及び、「法第2条第9項第3号に該当する行為のほか、不当に商品又は役務を低い対価で供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること」(不公正な取引方法第6項)が規制の対象となります。

4.著しく有利な条件で購入できると告げて、消費者を営業所に来訪させる等の場合

 消費者に対して、「あなたは特に選ばれたので非常に安く買える」などと告げて、その消費者を営業所に来訪させて契約を締結する場合、特定商取引法の規制に服する場合があります。
 具体的には、消費者に対して、電話、メール、SNSでのメッセージなどにより、他の者よりも著しく有利な条件で商品等が購入できると旨を告げて、営業所その他特定の場所への来訪を要請し、呼び出した場所で契約を締結する場合には、特定商取引法では、原則として「訪問販売」と扱われます(特商法施行令1条2項)。これは、実際に消費者が値引きで商品等を購入できたか否かを問いません
 「訪問販売」に該当する場合には、所定の書面の交付義務や、クーリングオフに応じる義務など、重い負担を負うことになります。なお、上記の方法で、事業者が、消費者に対して電話をかけることを要請する場合には、消費者から電話をかけた場合でも「電話勧誘販売」として、訪問販売と同様の規制に服します。

5.利益の供与にあたる場合

 商業上の必要性がないにもかかわらず、正常な価格から値引きをして商品を販売した場合には、正常な価格との差額について利益の供与(いわば、「贈与」)があったものと扱われる場合があります。
 こうした利益の供与については、刑法上の賄賂罪(197条以下)、背任罪(247条)、会社法上の株主に対する利益の供与(120条)として問題になるだけでなく、税法上も贈与税の対象になる場合があります。

6.業種ごとの法律で規制されている場合

 一部の公共性を帯びる業種では、業法で値引きをすることが禁止・制限される場合があります
 たとえば、タクシーでは、その公共交通機関としての性格を踏まえ、運賃・料金の割戻しが禁止されています(道路運送法10条)。電気通信事業法は、電気通信役務の提供について、不当な差別的取扱いをすることを禁止しています(電気通信事業法6条)。他にも、保険医療機関は、患者が支払う料金を値引きすることが禁止されています(療担規則第2条の4の2第1項)。

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