今回ご紹介するのは、あるウェブサイト上での違法な情報発信により被害を受けたと主張する原告が、「whois情報公開代行」サービスを提供する被告に対し、当該サービスが、ウェブサイト運営者の連絡先情報を秘匿し、結果、ドメイン登録者が違法な情報を発信することを手助けした(幇助した)として、不法行為に基づく損害賠償を請求した事案です。請求は棄却されています。
東京地方裁判所令和2年11月25日(平成31年(ワ)8875号)West Law 2020WLJPCA11258001
事案の概要
事実関係
裁判所の判断
解説
本件は、弁護士ドットコムが報じていた訴訟の判決です。whoisサービスは、ウェブサイトの運営者の氏名や住所を特定するにあたって重要な役割を担うサービスです。しかし、whoisサービスに登録された情報は、誰でもアクセスできることから、特に個人が運営するウェブサイトでは、自分の氏名や住所をwhoisサービスに登録して、全世界にさらすことに抵抗を覚える人も少なくないと思います。そこで、実際の運営者に代わって、whoisサービスの情報を代理で登録し、公開してくれる「whois情報公開代行」サービスが利用されることがあります。
しかし、「whois情報公開代行」サービスは、同時に、違法なウェブサイトの運営を行おうとする者によって、自分の正体を隠すための手段としても用いられかねず、その場合には、違法なウェブサイトの運営を容易にしていると判断される場合もあるかもしれません。この点、原告代理人弁護士は、「正確な情報を提供せずに登録手続きを代行するのは、違法な事業活動に用いられることを想定しているからに他ならない」と批判しています。
さて、「whois情報公開代行」サービスは、通常の使用方法では全く問題のないサービスであり、悪用するユーザーの行為についてまで、サービス提供事業者が責任を負うことになれば、あまりにも幇助の範囲を拡大するものであって不当と言わざるを得ず、新たなサービスの開発を委縮させる可能性すらあります。例えば、極端な例では、「ホームセンターが、挙動不審な客に包丁を販売したところ、客がその包丁を使って銀行強盗をしたら、そのホームセンターも責任を負う」かのような議論になってしまいかねません。従前は、この点は、Winnyの事件(最高裁平成23年12月19日刑集第65巻9号1380頁)で中立行為による幇助として議論されているところです。最高裁は、次のように述べています。
本判決は、「whois代行サービス」のIT技術につき、悪用する者がごく一部にいるだけでは、不法行為の幇助にならないことを認めたという点で一定の意義を有する事例といえます。