今回ご紹介するのは、原告が、被告に食品缶詰の製造を委託したところ、被告が製造した缶詰から虫(ゴキブリ)が発見された事案です。原告は、緊急事態の対応のために、専門業者に危機管理コンサルティング業務を依頼して費用を払い、また、クレーム等の対応のための交通費及び宿泊費、クレームに対する謝罪のための手土産代等並びにクレーム対応のための会議室代等の費用についても支出し、これらが相当因果関係がある損害であるとして、被告に損害賠償を請求しています。
静岡地方裁判所令和4年11月8日(平成29年(ワ)第868号他)TKC 25594349
事案の概要
事実関係
裁判所の判断
解説
食品の異物混入のようなショッキングな事態が発生した場合には、企業イメージの毀損を防ぐために、危機管理コンサルティングサービスを利用したり、顧客に手土産を持参したりするなどの対応を取ることも検討の対象になります。しかし、そうした対応のために支出をしても、民法上の原則に従えば、債務不履行における損害賠償請求は、法的な因果関係がある範囲に限られることから、法的に必要な範囲を超えている支出については、相手方に損害賠償請求はできないことになります。
そこで、契約書においては、上記のような費用についても損害賠償の範囲に含まれることを明記しておくことも考えられます。
この問題は、食品への異物混入に限らず、個人情報の漏洩などの事態についても同様にあてはまる可能性があります。損害の範囲について明示的に諸々の費用を列挙した契約書はあまり見かけませんが、委託先との契約を締結するにあたっては、諸々の事態を想定して、慎重に契約書の内容をレビューしておくことも一案です。