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#2「島守のうた」脚本
●【場面三、荒井の奮闘】
上里(老)
「一九四三年七月、部長さんは、沖縄県警察部長として珊瑚の島に降り立ちました。」
警察A「気をつけー!礼!」
上里(老)
「しかし、戦況は悪化の一途をたどり、軍は沖縄に十六か所の飛行場建設を計画。建設作業にあたるのは当然…沖縄県民。
矢継ぎ早に来る軍からの住民の動員要求に、部長さんをはじめ警察部は困惑していました。」
軍人A「飛行場は沖縄本島北部・中部・南部、そして離島にも作られる。人手はいくらあっても足りぬ!警察部はすみやかに住民を動員するように!」
警察A「軍の要求は無茶だ!我々は住民の生活事情や食料増産の人員も考えなければならない!」
軍人A「飛行場の他に陣地、作業道路も作らねばならん!急ぎ労働者を調達するように!」
警察A「軍は県民をなんと思っているんだ。沖縄県民は消耗品じゃないぞ!」
荒井「落ち着け!とりあえず。少佐以上の要求は私へ回せ。大尉までの要求は君のところで処理してくれ」
警察A「はい!」
上里(老)
「そんな警察部をさらなる試練が襲うのでした。一九四四年、政府は「沖縄に戦火が及ぶ子公算大である」と、戦闘においてあしでまといになる一般住民の県外疎開を決定。
「六十歳以上と十五歳未満の老幼婦女子は、本土や台湾へ集団疎開させるように」との通達が届くのでした。」
警察A「ちょっと待ってくれ。急に疎開と言われても、ただ本土や台湾へ住民を送り込めばいいというわけにはいかない。
疎開をした後の生活のことも考えなければ…それに、疎開受入先との打ち合わせも必要だ。」
荒井「本来であれば、内政部が請け負うべきだが…」
警察A「部長、我々はどうすれば!?」
荒井「疎開は国の至上命令だ!隅々にまで徹底させるため、我々警察部の組織力、機動性を活かすしかない!各部に協力を要請しろ!」
警察A「はい!」
役人「学童疎開に関しては、我々内政部と各国民学校校長とで推進いたします。」
荒井「お願いします。…各警察署はすみやかに担当地区で講演会や座談会を開き、疎開の趣旨を説明するように。」
警察A「はい!…皆さん、敵が次にこの島に上陸してくる公算は極めて大きい。
そうなれば本島は決戦場となり大変危険です。今のうちに。本土か台湾のいずれかへ退避して欲しい。」
老人「何をバカなことを…。こんな年寄りが身寄りもなく、知らない土地で生きていけると思っているのか?」
妊婦「主人や息子と離れたら、幼子を連れてどうやって暮らしていけばいいの?」
青年「もう既に海には敵の潜水艦がウヨウヨいると聞くぞ!」
婦人「沈められて海のモクズになるのはまっぴらよ!」
警察A「部長、県民の疎開への動きは鈍く、多くの県民が、どうせ死ぬなら、一家そろって沖縄の土になる…と…。」
荒井「まつ毛に火がついてからでは遅い!とにかく、警察官は徹底し、疎開の必要性を説いてまわりなさい。」
警察A「はい!」
軍人A「県外へ疎開だとぉ?沖縄人はけしからん!我々軍がこうして沖縄で頑張っているのに、何を好んで食糧事情の悪い他県へ引き上げるのか!」
青年「そうだ!友軍がなんとかしてくれる。」
妊婦「兵隊さんが守ってくれるわ。」
警察A「無責任なことを平気で言いおって…。」
荒井「軍も住民が疎開するよう協力するようお願いしたい!」
軍人A「(身をひるがえしてハケ)」
荒井「(独り言)…住民も…軍も…我々警察官も…みんな怯えている。」
上里(老)
「そして、部長さんは警察官の家族を率先して疎開させ、疎開の気運を一気に動かそうとしました。」
荒井「激戦のただ中で、妻子を残して職責を全うすることは難しい。
後顧の憂いなく任務を遂行するには、まず家族を安全な場所に疎開させなければならない。
この局面を理解した上で、思い切って妻子を疎開させてもらいたい。…わかってくれ。」
上里(老)
「部長はまず率先垂範と、自分の家族を本土へ疎開させ、それに続けと警察官、県庁職員の家族が疎開を始めたのでした。」
荒井「紀雄…京子…元気でな。きよ子、頼んだぞ。」(船に手をふる)
上里(老)
「一九四一年十二月、マレー作戦、ハワイ真珠湾攻撃で始まった大東亜戦争であったが、米国軍の圧倒的な戦力を前に日本は苦戦を強いられていた。
一九四四年七月にはサイパン玉砕。『次は沖縄』とささやかれる中、沖縄県では荒井退造警察部長を中心に、県民の県外疎開が進められていた。」
(少数の疎開船に乗り込む住民。荒井退造や警察官数名が誘導している)
上里(老)
「そんな状況である事件が…。」
役人「荒井部長、学童たちを乗せた対馬丸から連絡がありません!」
荒井「なに?」
上里(老)
「学童疎開船対馬丸が沈められ、県外疎開の気運はいっきに停滞。
既に制海権は米国に渡り、県民はひたひた迫ってくる不気味な戦況を肌で感じながらも、疎開に伴う不安にたじろいでいた。
…『海で死ぬよりは、故郷沖縄で死にたい』と。」
(呆然とする荒井退造と警察官)
――次章へ続く――