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#5「島守のうた」脚本
●【場面八、新しい知事】
(暗い表情を浮かべ、新しい県知事を待つ県庁職員)
職員A「はぁ」
職員B「どうした?そんなに深いため息をついて。」
職員A「昨日の新聞。」
職員B「あぁ…あれね…。」
記者「知事、市長頼むに足りず。役所はあってなきがごとし!」
職員A「本来であれば、県知事指揮のもと内政・経済・警察の三部長が、戦場行政を分担して担うべきなのに…。」
職員B「知事が去り、県民からは見放され。」
職員A「この非常事態に、県も市も何をやっているんだか。」
職員B「今はただ、その重責が荒井警察部長一人の肩にのしかかっている。」
職員A「赴任される新しい知事はいったいどういう人なのかなぁ。」
職員B「また、すぐに前の県知事のように、本土に逃げ帰るに決まってる。」
記者「いやいや、そうとは限らないですよ。もうすぐこの島は戦争になる。それを承知で沖縄の地を踏まれた…。おそらく決死の覚悟でいらしたのでしょう。」
職員A「まさか…。」
職員B「内地からわざわざ死ぬ覚悟で沖縄へ…?」
記者「それに、今回の新しい知事さん、調べれば調べる程面白い人物なんですよ。」
職員B「面白い?」
記者「兵庫出身で、学生時代は、中学、高校、大学と日本野球界最高峰の舞台で活躍され…。」
職員B「野球選手だったんですか?」
記者「名選手です!」
職員A「へぇ~。」
職員B「あ、いらした…。」
(島田叡、てるてる坊主の歌をくちずさみながら登場)
島田「てるてる坊主、てる坊主、明日天気にしておくれ~♪」
職員A「なんだ?てるてる坊主?」
職員B「雨も降ってないのに…?」
記者「面白い人だ。」
(ざわつく職員たち)
(暗い顔の職員たち)
(島田、周りを見渡した後、一旦下がり、髪を整え、軽く咳払いをし、皆の前に立つ)
島田「ええ…本日から沖縄県知事に赴任した島田叡です。相次ぐ空襲の下、県民保護の困難な勤めを命がけで果たす日々、県職員の皆さんは、苦労も多いことと思います。
これから何度、大きな試練を経るかもしれない。ですが、本当の奮闘はこれからです。一緒になって共に勝利への道に突進しよう。
沖縄県は目下、全国民の耳目を集めている。敵機の空襲を最初に受け、戦火の中を戦ったのだから、沖縄県から率先垂範し、全国民の士気を高揚させよう。
無理な注文かもしれないが、先ず元気にやれ!…明朗にやろうじゃないか。」
(大衆から拍手が起こる)
(荒井、具志堅のもとに歩み寄る島田)
島田「どうも。島田です。」
具志堅「知事自ら恐れ入ります。こちらは、沖縄県警察部長の荒井退造部長でございます。」
島田「…荒井さん…あなたが…。」
具志堅「そして私は、那覇警察署長をしております。具志堅宗精と申します。」
島田「具志堅さん。…荒井部長、具志堅署長、今までご苦労なさったでしょう。
この非常に緊迫した状況で、これからは、知事も部長も課長も思い切ったことを言い、創意と工夫を重ねて、良心を持ってやりましょう。力一杯!早く!」
荒井「はい。」
具志堅「ありがとうございます。」(小さな声で)
知事「断而行鬼神避(だんじておこなえばきしんもさく)!」
荒井「は?」
知事「私の座右の銘です。皆さんとともに、よく考えて力を尽くしていきたいと思います。
どうか私に皆さんのお力をお貸し願いたい。」
(お互い目を合わせさらに固く握手を結ぶ)
二人 「はい!」
知事「では…。」
(島田は嘉数、小渡らとはける)
(島田を見送る荒井)
荒井「…。」
具志堅「荒井部長…この知事なら…。」
荒井「ああ。」
具志堅「この知事は我々を見捨てない。この人になら最後までついていけそうです。」
荒井「………この知事となら…死ねる。」
(荒井を見てうなずく具志堅)
記者「明朗元気でやろう!覇気満々、着任第一声!明日の見出しはコレだ!」
(うなずきながら、仕事に戻る記者たち)
(沖縄新報の当時の新聞の画像見せる。または、当時の新聞のコピーをお客に既に配布しておく)
記者「曇ったガラスは不快である。そういった感じがこれまでの県庁内の空気で、県庁は割りきれない沈鬱の中で泳いでいた。ところが島田知事が着任した途端、この曇りは払拭され、明朗さが躍動した。」
――次章へ続く――