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#10「島守のうた」脚本
●【場面十八、日本兵】
上里(老)
「そして…島田叡沖縄県知事、荒井退造沖縄県警察部長は、二度と我々の前に姿を現すことはありませんでした。
それからしばらくして、轟の壕に残されていた我々を待ち受けるのはまさに地獄のような惨劇でした。
島田知事、荒井部長が去った後、轟の壕に陸軍の大塚曹長を隊長とする日本兵の一団がなだれ込んできたのです。」
兵士A「これからこの壕にいる者は大塚曹長に従ってもらう。」
兵士B[壕から勝手に出ることもならん。」
上里「しかし、壕を出なければ我々はどこで食糧を手に入れれば…。水をくみにもいけ
ません。」
兵士A「黙れ!貴様、誰が命を懸けて戦っていると思っている!」
兵士B「お前らがここを出入りすると、敵に探られてしまう。」
大塚「…皆さんの中にもし壕の外に出ようとする者がいたら、我々はスパイとみなし、容赦せず発砲します…ということです。」
上里「そんな…私たちを守ってくれるんじゃ…。兵隊さん、ここにいる人たちは、敵の艦砲射撃がおさまった頃合いをみて、芋やサトウキビを探しにいきます。ここから出られないとなると、何を食べていけば…。」
兵士A「これも戦争に勝つため。お国のために尽くすのがつとめだろ。」
兵士B「多少のひもじさくらい我慢しろ!」
上里「ひどい。」
大塚「食糧といえば、我々も激戦の中ここまでやって来たので、食糧がありません。ここは皆さんに、軍に協力してもらいましょう。おい!」
兵士A「はい。…さあ、持ってる食糧を出すんだ!」
兵士B「さっさとしろ!」
(日本兵、住民に拳銃をつきつけ脅し、食糧を奪い取る)
子供「じいちゃん、じいちゃん、サーターカムン。」
祖父「静かにして。サーターカムンって沖縄の言葉使ったらスパイにされるよ!」
子供「じいちゃん、サーターカムン!サーターカムン!」
祖父「待ちなさい。我慢しなさい。」
子供「サーターカムン。」
(泣きだすこども)
(おじい、包み紙の中の黒砂糖を、日本兵に見られないように、孫に与える)
祖父「少しだけよ。」
子供「もっと食べる。じいちゃん、もっと食べる。」
大塚「おい!子供を泣かすな!この壕に人が居るのが敵に知られてしまうじゃないか!今度泣かしたら撃つぞ。」
子供「じいちゃーんー。」
祖父「お願いだから泣かないで。」
大塚「いくら言ってもわからんのか!なぜ泣く。」
祖父「この子は、この黒砂糖を欲しがって。」
大塚「貸せ。」
(包み紙から黒砂糖だけを奪い、包み紙を捨てる大塚)
子供「「あ、返せ!黒砂糖、返せ!僕の黒砂糖、返せ!」
(日本兵につかみかかるこども)
大塚「ええい、うるさい!」
(子供を射殺する大塚)
祖父「あ!なんてことを!あああああ。」
大塚「黙らんか!」
(祖父、声押し殺して泣く)
上里「そんな。なんで?味方のはずなのに…。」
大塚「いいか、お前たちもこうなりたくなければ、おとなしくしていろ。」
(赤ちゃんが泣く)
(住民たちのヒソヒソ声)
(泣いている赤ちゃんを抱いている母を責める)
住民A「子供を泣かすな。」
住民B「またあいつらがやってくる。」
住民C「静かにさせて。」
住民D「誰か黙らせろ!」
(赤ちゃんの口をふさぐ母親)
(赤ちゃんの泣き声がやむ)
上里「何をしてるんですか!」
母親「坊や…。」
(壕内に響くうめき声と押し殺した泣き声)
上里「…ここは…地獄…。…知事さん…。」
(轟の壕を標的とした米軍の容赦ない爆撃)
(米軍の爆撃は長時間)
上里(老)
「ガソリンの入ったドラム缶に爆薬をしかけ、壕の中に落とし込む…そんなアメリカ軍の攻撃が一週間も続きました。
壕の中は、爆薬がさく裂し、引火したガソリンが辺り一面に飛び散り、この攻撃により、死傷者は増え、閉じ込められた避難民たちは、食糧もなく、餓死者や病で倒れる者も続出しました」
上里(二人)「…私は…おびただしい死者の数に…ただただ己の無力を痛感し、気力も失せていた。」
上里「…私もそのうち死ぬのだろう。」
――次章へ続く――