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#8「島守のうた」脚本

●【場面十三、戦争が終わったら】

荒井「皆、どれだけの思いで、敵の砲弾をかいくぐって、この会議に参加したのでしょう。そしてまた、重責をおって、それぞれの村に帰って行きました。」
島田「ご無事を祈りましょう…。」
小渡「知事、荒井部長、またいつ敵の砲撃があるかわかりません。壕の入り口は危ないですので、さあ中へ。」
島田「ああ。」

(島田と荒井が戻るとそこには数名が残って、煙草をふかしている)

島田「皆さんはまだ残っていらっしゃいましたか。」
具志堅「いえ、ちょっと雑談を。」
島田「ほう。」
具志堅「戦争が終わったらと。知事はこの戦争に勝ったら第一番に何をなさいますか。」
島田「おお、そうだな。…三日三晩飲み明かすよ。」

(皆で大笑い)

具志堅「さすが豪快でいらっしゃる。」
小渡「…荒井部長はいかがです?」
荒井「…う~ん。私はタオルを肩にゲタを履いて、水浴びかお風呂に入ります。」
小渡「おお~いいですね。」
嘉数「この戦争に勝ったら、知事は大栄転され、内務大臣は間違いないでしょう。」
小渡「内務大臣!」
具志堅「では、その時は、私を東京の真ん中の警察署長にご推挙ください。」
島田「それはおやすいご用だが、具志堅さんは東京より、ワシントンの警視総監の方がいいのでは?」
具志堅「ワシントンの警視総監!」
荒井「具志堅さんがワシントンの警視総監。それはいい!」

(皆で大笑い)

具志堅「米国に勝った後、先勝祝賀会は焼け野原でもいいから首里城でやりましょう。」
小渡「そうですね。魚や肉、野菜は島尻から持っていきますから、首里はお酒を用意してくださいよ。」
島田「では、首里城で三日三晩飲み明かすとしますか。」
具志堅「仕方ありません。お付き合いいたします。」

(皆で大笑い)
(突然、具志堅の表情から笑顔がなくなり、真剣な顔に)

具志堅「…しかし何よりもまずは復興。」
島田「そうですね。この戦争で、文化も産業も命も…多くが失われました。」
具志堅「でもね、知事、荒井さん。沖縄の人間はたくましいですよ。必ず復興を遂げてみせます!」
島田「…そうですね。…具志堅さんが言うのなら間違いないでしょう。」
荒井「であれば知事、具志堅さんは、ワシントンの警視総監ではなく、むしろ農商大臣の方が適任では?」
島田「それもそうですね。」
具志堅「私は構いませんよ!この沖縄を復興させた後には、またのんびり縁側で酒でも呑みたいものです。」
島田「のんびり美味い酒が呑める…私もそんな世の中であって欲しいものです…。空襲警報も艦砲射撃も心配せず、夜空に輝く星を眺めながら、のんびりと…。」

(島田と共に皆が空中を見上げる)

荒井「では、そろそろ。」
嘉数「解散しますか。」
島田「みなさん、ゆっくり休みましょう。」
具志堅「知事も。」

(解散し、荒井部長一人)

荒井「戦争に勝ったら…。」

●【場面十四、荒井宅(回想)】

(家族に手紙を書く荒井)
荒井「家族みんな元気で暮らしているとしらせをいただき、嬉しく思います。お父ちゃんは、沖縄で一人、さびしいよ。人事異動に期待していたが、移動はなく、少々残念に思っております。
お父ちゃんのことは心配しないでください。2メートルくらいの土をかぶせた立派な防空壕が出来上がりました。サイパンが墜ちたので、沖縄も危ないかもしらんが、そちらも同じことです。いつ空襲があるか分からんから、常に準備しておくことが大切です。栃木のおばあちゃんは元気でいましたか?日野のおばあちゃんやおじいちゃんも皆元気でおりますか?
家族みんな、くれぐれも怪我に注意し、体を丈夫にしてください。
……今年中には移動できると思います。」

(手紙を書き終えて、悩むが出せずにいる。そのままポケットにしまうまでが回想。
壕のシーンに戻り、出せなかった手紙をもう一度取り出す)

荒井「また家族みんなで暮らしたいよ…。」

島田「荒井さん?」
荒井「知事、まだ起きていらっしゃいましたか?」
島田「どうにも眠れなくて。」
荒井「どうです?一局?」
島田「囲碁ですか。私は囲碁が苦手で…。」
荒井「コツがあるんですよ
島田「ほぅ」
荒井「囲碁の本質は智・仁・勇です。智とは何が正しいかを識ること。仁とは相手を思いやること。勇とは勇気をふるって打ち込むこと。」
島田「何か難しそうやなぁ」
荒井「やってみればわかります。さぁさぁ」
島田「ふむ。では、一局」

――次章へ続く――

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