2024年3月某日のこと
私は物事に白黒つけるのが好きじゃない。必ず物事にはグラデーションがあって、共感性が高めに備わっていると自負している私には、どっちが悪いか、どっちがより優秀か、どっちがより使いやすいか、などを決め(つけ)るのが苦手なのだ。
だから勧善懲悪の物語はあまり好まないし、能力的に厳しいことは大前提だが、裁判官のような仕事は適職から最も遠い位置にあるだろう。
この性格は妊活にも支障が出た。妊娠検査薬を使えない。いきなり陽性 or 陰性の事実を自分に突きつけることが怖いのだ。
生理が来る場合、徐々に腹痛がやってきて、もうすぐ生理が来ることがわかる。今回もダメだったか……と心の準備ができた状態で、数日後に生理が来るから、自分に与える傷が検査薬を使う場合よりも浅く済ませられる。一度使ったときにめちゃくちゃダメージが大きかったのだ…….。
そんな怖がり、事実を知るのを先に延ばしたがりの私が検査薬を使わなければならないときが来た。排卵から二週間と2日過ぎてもまだ生理が来ない。いつもの私ならあと1週間はのんびり生理が来るのを待つのだが(その間に徐々に腹痛が来て生理が来るのがいつものパターン)、翌日に会社の飲み会がある。翌週は引っ越しを控えていた。
人工授精をした翌日に排卵を起こす注射を打っているから排卵日は間違いない。けれど私は周期が長いから3週間空くこともざらにある。まさに確率は五分五分。
もし授かっているならアルコールは飲めないし、授かっていないならみんなと楽しく飲みたいと思った。むしろ生理が来るなら、めちゃくちゃ飲んで憂さ晴らししてやるぜくらいに思っていた。
よし、検査薬を使おうと腹を決めた。行ってきますと夫に敬礼をしてトイレに行った。
尿をかけて目をつぶったまま3分数えた。永遠に事実を知らないまま、この3分の時間の中に迷い込んで、もう一生出てきたくないと思った。けれど永遠の3分なんてなくて、ちゃんと誰にでも平等に3分がやってきた。
恐る恐る目を開けた。
線があった。
わーーーーーー!!!!!!
叫んで、夫を呼んだ。
「もうできないもんだと思ってたーーーー!!」泣きわめいた。
夫に「悲しんでいるのか喜んでいるのかわからないよ」と笑われた。
毎度生理が来ることが当たり前になっていたから、歓び半分、信じられない気持ち半分だったと思う。
それから数か月たち、現在妊娠7か月になった。今ではぽこぽこうにょうにょ動いている命と一心同体で過ごしている。
この子は秋生まれになる予定なのだけど、生まれる前にあなたはもう私たちに歓びをもたらしてくれたよ。2024年の春のことをこの先忘れない。