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”恋人達のペイヴメント”に見る文化の違いと色認識

1984年の秋に発売され今も愛され続けるラブソング、高見沢さんの甘いボーカルにやられた女子も多かろうと思われます。

♪あゝ街の灯が 冷たい風ににじむ 
世界中に誓えるのさ 愛してるのは 目の前の君だと
♪あゝあの頃は若さをもてあまし いつか若さに もて遊ばれた
二人の蒼い季節(シーズン)

歌詞を見た時に、あれ高見沢さんのは“青いシーズン”じゃなくて“蒼い”なんだ、青と蒼は何が違うのかな、と疑問が浮かびました。この蒼いとは青いと違う色なのでしょうか?アルフィーの 碧空の記憶 の碧とは違うアオなのでしょうか?

青・蒼・碧:同じ色かな?

日本語と中国語の漢字辞典で調べてみました。

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は緑っぽいのも含む青色で元々の意味は灰・白の色もある様です。
顔面蒼白、の蒼は確かに真っ青ではなく暗い色ですね。

はヒスイの様な青緑、日本語では藍色に近い緑色とあります。

は日本語では晴れた空の様な色。藍系から黄味を加えた緑までを言う、とありますが中国語では深緑もしくは薄い青とあります。このページに解説が載っているので 興味ある方はどうぞ(この画像もそちらから借りました)。

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中国では普段に使ういわゆる アオ は藍色と言います。
空の色も、海の色も、光の三原色のアオも 藍色 です(ランスゥァーの様な響きです)。日本語だと藍色と言えば深い黒っぽい青のイメージですよね。この様に文化によって違う色の解釈はたくさんあります。オレンジ色とOrangeは違う色かもしれないし、レモン色、はレモンを見たことない人間には通じないと言うことです。

文化や言語によって色の数は違う

色を表す言葉はどんな風に出来る・進化するのかを研究している人類学者・言語学者はたくさんいます。
これまででわかったのは経済・産業が発展している文化では色の数が多く(言葉として存在しているという意味で)発展していない文化(かつては“未開の地”やら“原始的”やら呼ばれた文化)では少ないということです。
パプアニューギニアのある部族では5色、アマゾン奥の民族では3色、と私たちが普段使う色数から考えると“それで足りるの?”と思う少ない数が認識・言語化されています。
私たちが住む、いわゆる工業化されている社会(先進国とも言われますがちょっと語弊がある様な気がしますね)では大体色を11種類の言葉で認識している様です。黒、白、赤、緑、黄、青、茶、オレンジ、ピンク、紫、と灰色です。
でも色鉛筆や車、ペンキ、生地などのリストを見るとそれ以上にたくさんありますよね。そしてそのどれもが、なんとなくは想像できる色です。
ターコイズと聞いて赤系を思う人はいないでしょうし、マスタードと聞けば黄色っぽいかな、と想像はつきます。

文化を共有することは、色の名前・イメージなどを共有しているのと同じことなのでしょう。
簡単にいうと、信号機の3色は赤青黄・・・でも私たちはその“青”を考えるときはしっかりと  が見えている。日本人だからです(笑)。茶色と言ってミルクティーの乳白した茶でもなく、緑茶の爽やかなミドリでもなく、赤茶っぽい紅茶色を思い浮かべる。中国やスペインでは茶色をコーヒー色と表現することもあります。白人は白くないし、黒人も黒くない、そして誰にも肌の色と実際の黒・白色の違いは分かっています。

言語=思考なのか

言語学者のSapir とWhorfは言語が思考を作る、との仮説の中(言語相対性理論と言います)で人間の思考・世界観はそれを形作る言語が多大に影響すると言っています。その言語の中に表す言葉がないならば、その物の存在自体を認識できない、もしくは認識に限界があるのでは、と考えたわけです。

その仮説に当てはまる様な例もあるのですが、5色しかない色以外が見えない・判別できないわけではないでしょう。ニューギニアの人たちは紫とかベビーピンクなどの言葉がないからと言って、その色自体が認識できないわけではないですね。オレンジ色を赤と呼ぶか黄と呼ぶか、部族によって違うかもしれませんが、オレンジと赤が同色に見えているわけではありません。

言語=思考とならない例は多々あります。簡単な例は”旨味”でしょうか。英語には甘い、辛い、塩辛い、酸っぱい、苦いしかない味の表現に最近 Umami が加わりました。それまで日本人が旨味として区別していた味をアメリカ人が感じられなかったわけではなく(まぁトンデモない味音痴は多いですが)言葉がなかっただけだったので日本語のUmamiが追加されたわけです。言葉がなかったから味がわからなかったわけではないのです(もっと言うなら今は言葉があるから味がわかるのか、と言うとそんなこともありません)。

それぞれの文化の中で色の名前がどんな風に生まれるのか、それがどの様に私たちの思考回路に影響しているのかはまだよくわかりません。
しかしながら、色の名前がたくさんある同じ文化の人とのコミュニケーションは取りやすいのは事実です。
私たちには説明せずとも、高見沢さんの“揚げないトンカツ”のこんがりキツネ色がどのくらいの茶色なのか、綿菓子のピンク色は桜井さんか坂崎さんのピンクかもしれない、でも高見沢さんのピンクじゃない、のはわかります。同じ文化に生きているからです。

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恋人たちのペイヴメントの 蒼いシーズン はどんなアオだったでしょうか。私たちは高見沢さんが見たのと同じ様なアオを思い浮かべているでしょうか。

青春真っ只中の17歳のピュアな元気のいいアオではなく、もちょっと上、20代かな〜30代かな〜くらいのアオ。ちょっと人生の薄暗い部分も含むアオ。暮れ行く空の冬の寒さと白く冷たい空気を思わせるアオ。

うまくいかなかったことや色々あったであろうややこしい苦難、そんな時間の流れを受け止めて、今世界中に君だけを愛しているよと大きな(高音で)誓う高見沢青年のアオ。

そんな二人の木枯らし吹くペイヴメントに似合うのは、蒼。  

青でもない、碧でもない、蒼。

この一文字のチョイスに天才・高見沢さんの繊細な感性が光ります。

♪白い冬 凍える夜は 君を包む外套(コート)になろう

ああーーん、シマリスもコート欲しいです〜。

シマフィー

皆さんも高見沢さんに愛を誓ってもらおう!

参考文献

Comrie, Bernard. “Language and Thought | Linguistic Society of America.” Linguistic Society of America, linguisticsociety.org/resource/language-and-thought. Accessed 25 Nov. 2020.

Gibson, Ted, et al. “The World Has Millions of Colors. Why Do We Only Name a Few?” Smithsonian Magazine, 19 Dec. 2017, smithsonianmag.com/science-nature/why-different-languages-name-different-colors-180964945/.

“Jenny’s Crayon Collection.” Jenny’s Crayon Collection, jennyscrayoncollection.com/. Accessed 25 Nov. 2020.

漢典 | 漢語字典, 漢語詞典, 康熙字典, 說文解字, 音韻方言, 字源字形, 異體字. zdic.net/. Accessed 25 Nov. 2020.

99bako. “「青」「蒼」「碧」三つの「あお」の意味と色の違い | 言葉の救急箱.” 言葉の救急箱, 8 Nov. 2019, 99bako.com/2305.html.

“色彩知覚と色名の習得②-言語の進化に伴う基本色名の増加順序 | 心理学コラム.” 心理学コラム, 9 Apr. 2020, jwu-psychology.jp/column/1-4-1.html.

“デビュー45周年を迎えたTHEALFEEが、年の締めくくりに3人そろってTBSラジオに参上!.” TBSラジオ FM90.5 + AM954~何かが始まる音がする~, 11 Dec. 2019, tbsradio.jp/437395.




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