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『家庭の事情』(★★★★☆)

流行作家のユーモア小説を映像化した、他愛もないプログラムピクチャーかと思いきや、いやはや。源氏鶏太による、小市民の悲喜こもごもを描いた原作を、ほぼ同じ年齢の吉村公三郎は、ベテランならではの安定した土台の上に、都会的な演出とリズムを重ね、見事にクールでモダンな快作、昭和中期のシティポップと呼びたくなる作品に仕上げています。

7年前に母親を失くした、父親と4人の姉妹からなる一家。
定年退職を機に、その退職金と一家の貯金、合わせて250万円を一人50万円ずつ分け合って、今後はそれぞれ経済的に自立した、自由な暮らしをしてみようとの父親の提案に、父と娘たち、彼らを取り巻く様々な人々の事情が絡み合い…。

吉村公三郎の作品では、前年の『婚期』でも見せた、屋内の模様を真上からの俯瞰で捉えるショット。今作でも座敷でちゃぶ台を囲む父と4姉妹の団欒、4畳半の室内を幾何学的な構図に落とし込んでいますが、それは画としての面白さだけでなく、いわゆるホームドラマの世界の中に没入しない一歩引いた、言い方を変えれば「冷めた」=「クールな」視点を作中に置くことに成功しています。

クールと言えば、そうした吉村公三郎の演出に負けず劣らずクールな、池野成のモダンジャズからなるサウンドトラック。
要所要所に挟まれる、子気味良いパーカッションのリズムが舞台を盛り上げる。夕闇の迫る街に流れるのは、modarn jazz quartetかと思わせる、ビブラフォンが印象的に響く、アーバンなスローナンバー。木造駅舎の時代の吉祥寺に、マンハッタンの雰囲気を漂わせます。

#映画 #映画批評 #映画レビュー

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