見出し画像

第六章 恩返しはどこへ行く?_004

04.社会への還元とは何かを知る


とある施設の高校生の治療を担当していた時のことです。
ふとこのような希望を耳にしました。

大学に進学したい」と。
(当時の私は一般家庭の子どもと同様に軽く考えていました。
進学したいのならば頑張れば良いではないか?と)

少しでも役に立ちたいと、
気楽に学習指導のボランティアを引き受けました。
まさかこの歳(40代後半(当時))になって、
かつて学生時代の食い扶持を引っ張り出すとは思いもよりませんでした。
しかも無料付きです。

このことをきっかけとして、
各施設内の子どもの教育環境や、
そこに内在するさまざまな事象を観察して回りました。
貧困と教育に関する調査研究です

これらの子どもの中には、小中学校にまともに通っていない。
通学しても保健室に引きこもったり、
義務教育下での教師からの直接的な指導を受けていない。
一般家庭の子どもとは別に取り扱われることも

さらに相談する親や兄弟も(この世にいないという
無い無い尽くしの環境下で育つケースを、
たびたび耳にすることがありました。

担当した生徒が通っていた高校は、
地域で史上最低の偏差値の私立校でした。
しかも施設長がお願いして、
入学させてもらったと耳にしました。
のちに学校長を表敬訪問すると、規定の出席数さえカウントできればご褒美の高校卒の資格を与える場所であることを知らされたのです

時間を追うごとに、大学受験のために
取りこぼした質と量は甚大であることが、
明るみとなってきました。

この子は教えたらすぐに理解のできる能力を持っていましたが、
大学受験までの期間を考えると、
私一人ではとうてい時間が足りないことに気づき始めたのです。

このことによって、
覚えの知らない焦燥感にかられ始めました。
なぜならこの子たちは、失われた勉強時間を(後伸ばしする)浪人生活によって補うことを許されないプログラムの中で生かされているからです

このため、施設周辺の地域住民に学習ボランティアを募り、
地域活性化プログラムを作るトライアンドエラーをしてみたいと、
施設長に思いを述べました。

すると施設長の働きかけによって、
相当数に及ぶボランティアが応募してくださいました。

この相互扶助の精神から集まってきたボランティアの姿を拝見し、この国はまだまだ捨てたものではないと、ひそかに安堵したものです。


さて、何度も何度も受験しては不合格が続きました。
しかしこの子は諦めずに最後の試験でようやく合格をつかみとり、
大学入りを果たしました。

このことにより、学習ボランティアたちは解散をしていきました。

しかし、なぜか私はこの子が大学を卒業し、
就職をするところまで見守り続けるというボランティアを継続させました


本当のところはなぜ見守るのか?
なぜ継続をするのか?
についての、明確な指針を持っていた訳ではありませんでした。

やがて大学卒業と同時に、
看護師と保健師のダブルの国家資格に合格し、
第一志望である公立の病院に就職することができたとの報告を受けました


ようやくこのプロセスを通じて、
徹底して税金(措置)を投入された存在が、
税金を納める存在(社会還元する)になったことに気づいたのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?