答えのない時代を切り開くのは総合格闘技としてのデザインだ/Takram・Lobsterr 佐々木康裕さん
武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科
クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論
第14回目の授業は、Takramの佐々木康裕さんの講義でした。
佐々木康裕(ささきやすひろ)さんについて
ビジネスデザイナー。Takramではデザインとビジネスの知見を組み合わせた領域横断的なアプローチでエクスペリエンス起点のクリエイティブ戦略、事業コンセプト立案を展開。2019年3月、スローメディア「Lobsterr」を共同創業。“ビジョナリーブランディング“を行うPARADEの取締役、ベンチャーキャピタルMiraiseの投資家メンター、グロービス経営大学院の客員講師(デザイン経営)も務める。
著書/共著に『パーパス 「意義化」する経済とその先』(NewsPicksパブリッシング)、『D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略 』(同)、『いくつもの月曜日』(Lobsterr Publishing)等。
https://ja.takram.com/
あ、あのLobsterrを立ち上げた方だ…!
まず、これは私のとても個人的な感想なのですが、佐々木さんの経歴を拝見した瞬間、「Takramの方だ!えっこの方がLobsterrも運営されているの?!」と非常に驚きました。
なぜならLobsterrが配信している「Lobsterr Letter」は私が1年以上前から購読しているメールマガジンで、横断的な分野からピックアップされた情報、あらゆる属性を意識した切り口(年代、性別、職業、地域など)の広さに感動していたからです。しかも毎週、一切手が抜かれず、ずっと良質かつボリューミーなメルマガなんです!!!
一体、どんな視野で世界を見ている人がこのメルマガをつくっているんだろう・・・?とずっと気になっていました。その共同創業者が佐々木さんだったなんて、、!と、盛り上がった状態で、佐々木さんのお話を聴いていました。
伊藤忠からデザインの大学院へ
まず、佐々木さんのファーストキャリアは伊藤忠商事から始まります。入社してから一貫して新規事業開発に携わられてきた佐々木さんですが、あるときイリノイ工科大デザイン修士学科(通称ID)への留学を決められます。
それは、大前研一氏が翻訳した『ハイコンセプト』から大きな刺激を受けたことが影響しています。佐々木さんが取り上げられた『ハイコンセプト』のエッセンスは下記です。
「機能」だけでなく「デザイン」
「議論」よりは「物語」
「個別」よりも「全体の調和」
「論理」ではなく「共感」
「まじめ」だけでなく「遊び心」
「モノ」よりも「生きがい」
「これまでは属人的に新規事業を開発していたけれど、もっと体型的なサイエンスとして学びたい」という思いから、IDを選ばれました。
答えの見えない時代に必要なのは、総合格闘技としてのデザイン思考
そしてIDでは、VUCAという不確実性の高い時代において、新規事業を生み出すためのアプローチを学ばれました。
その一つに、PuzzleとMysteryという考え方があります。
[ Puzzle ] [ Mystery ]
論理思考 システム思考・デザイン思考
資源投入で解決可能 ◀︎▶︎ プロトタイピング
答えがある 答えがない
Puzzleは、答えが提示されているミッションを解決するような時には使えたアプローチでした。しかし、今は答えが見えない時代です。パンデミックや気候変動などさまざまな問題が立ち並んでいます。その際には、Mystery型のアプローチを取る必要があります。Mystery型は、何か一つのフレームワークに頼るのではなく、複数のフレームワークを組み合わせて活用したり、学祭的に取り組む方法です。
これを佐々木さんは「総合格闘技」と称されていました。
実際にIDで学ばれていたフレームワークには、「イノベーションメソッド」「行動経済学」「ビジネスモデル設計」「多様性あるチームのマネジメント」「文化的コンテクストの探索」などがあり、その幅広さに驚かされました。そしてこの瞬間、「なるほど!この視野の広さがあるから、あの良質なLobsterrが生み出されているのか!」と腹落ちしました。
▼購読されていない方はぜひ!無料です。無料のクオリティではないのに無料です。
https://www.lobsterr.co/
どうすればグローバルアジェンダを解決できるのか?
そして、佐々木さんはお話の中で、気候変動やジェンダー、人種、多様性の問題といったグローバルアジェンダにも触れられました。
このようなグローバルアジェンダを解決するためには、ひとりひとりが自分とは関係のない遠い話だと思うのではなく、まず自分事として捉えることが必要だと仰ります。そして、その問題を、一つの視点からではなく複合的に見つめ、俯瞰的に捉えることが重要である。これを行うためには、他者を理解したいというスタンスや、共感力がベースとして大切になってくるとおっしゃられていました。
ここまできて、佐々木さんが「Lobsterr Letter」というメルマガに熱量を持って取り組まれ、無料で提供されている理由が見えた気がしました。
メルマガを一度読んでいただければわかるのですが、日本とは遠く離れた国の話やさまざまな年齢、国籍、職業の人の話が取り上げられます。私にとっては、初めて聞く情報ばかりで、毎回「へ〜〜!」と声を上げながら読んでいます。
私は自分の研究やビジネスに活かせそうだと思って初めは購読していたのですが、購読回数が積み重なっていくうちに、これまでよりもずっと、地球上のさまざまな地域に住む人やいろいろな立場の人に思いを馳せるようになりました。環境問題やメンタルヘルスの問題については、小さくですが自分で行動を起こし始めていることもあります。
また、感銘を受けたメルマガの内容を家族や友人に送ることが多々ありました。内容がとても良いので、友人も「わあ!こんなことが起こっているんだね!」と驚いてくれることがしばしばあります。
普通、見たこともない聞いたこともないことに思いを馳せ、共感することは非常に困難です。しかし、一度でも見聞きしていれば一気に関心は高まり、地球の裏側の人のことにも共感しやすくなります。
こういった土壌をつくっていくために、佐々木さんたちは今週も「Lobsterr Letter」を配信されているのかな〜〜、と勝手に捉えました。
いつだって、「知ること」から解決の糸口は見つかると信じて、これからもも私はいろいろなことを知ろうと思います。そして知ったことは、稚拙でも形にし、実行していきます。実行から前進する。実行から、大きな学びが得られる。これが武蔵美のクリエイティブリーダーシップコースで得られた、一番大きな学びかもしれません。