センパイ著者にききました#04/今村寛さん④(最終話)
2月に初の単著『仕事の楽しさは自分でつくる! 公務員の働き方デザイン』を出版した私、島田正樹が、同じ地方公務員として先に本を出版している「センパイ公務員著者」にインタビューをするシリーズ。
四人目は、福岡市に勤める今村寛さん。
今回のインタビューでは、今村さんが発信や著書を書くことをどのように考え、ときに悩んできたのか。そして新著のテーマともなっている「対話」についてじっくりお聴きしています。
◆生身の人間として発信していいんだよ
―― 有名人でも研究者でも小説家でもない私たち公務員が本を出すことに、どんな意味があると思いますか。
今村さん:そうですね。月刊「地方財政」の2019年の新年の展望だったかな、そこで書いたんですよね。ちょうど山形市の後藤さんの1冊目が出た頃です。諫早市の村川さんも1冊目を出した頃でしたね。公務員が個人で本を出すことが増えてきたことについて、そこでも触れているんです。
その時に私自身が思ったのは公務員が本を出すっていうこと自体が驚かれなくなりつつあるということ。昔は「えーっ」と驚かれましたけど、今は公務員が自分の名前で仕事に関係ないこと、個人としての考えや経験を本にして出すことが、あまり驚かれることではなくなったのかなと。
後藤さんも村川さんも島田さんもそうですが、公務員なんだけど「生身の人間」なんだということが伝わりやすくなってきたかな。
書いている内容がどうこうではなくて、公務員という「立場の鎧」を脱いで生身の人間として世の中に現れてきていることにすごく時代を感じるし、価値を感じますね。
―― 昔はそうではなかったということですか?
今村さん:私の『自治体の"台所"事情 "財政が厳しい"ってどういうこと?』も一応仕事のことだけど、後半は人生論になっているわけですね。ああいう感じの本は昔は書けなかったし、書いても読まれなかったかもしれませんね。
今これだけSNSとかで個人同士が生身で付き合えるようになってきたから、例えば、島田さんの本も島田さんという人を公務員としてではなくて、島田正樹個人として知っている人たちがいるじゃないですか。そういう人が「あの島田さんの本だったらきっと面白いから買おう」みたいなベースがあることで、出版社も出しやすいと思うんですよね。
で、実際に出された本を読んだら「あぁ、著者は公務員だけど、公務員として読むべきということではなくてキャリア一般論として十分に通用するじゃん」。そういう生身の一人の人間が書いた、しかも公務員なんだよというところが、すごくありがたいし価値があると思いますね。
私がさらに思っているのは、読んでいる人たちが、別に本を書けとは言いませんけど、生身の人間として情報を発信していいんだよというような勇気づけにつながっていると思うんです。
―― そういうことなんですね。
今村さん:公務員が何か言うと叩かれるからSNSは見るだけとか、町内会の会合も公務員だってばれると役員を押しつけられるから行かないとか、そういう公務員だからあまり目立ちたくないっていう人たちが世の中にたくさんいるんです。
だけど、いやそんなことないよ、公務員も生身の人間らしい表情を出してしゃべってる人もいるんだって分かってもらえると、「私も公務員だけどその前に一人の人間として社会で人と接点を持ちたいなぁ、喋りたいな」と思う人が増えるような、勇気をもらえるんじゃないかなと思うんです。
◆ちょっと脱いでごらん、脱いだら気持ちいいよ
―― 「立場の鎧」を着ている公務員がすごく多い、今村さんはそう感じておられる。
今村さん:そうですね。私自身は公務員という職業を鎧として着ている人がたくさんいるなぁと、重たいだろうなぁと。
―― 鎧を着ているというのはどういう状態なんでしょうね。
今村さん:鎧を着てる状態ですか。
―― 鎧ってメタファですよね。
今村さん:そうですね。公務員という肩書きに守られている。公務員でありさえすればその中身は何であっても問われないし、自分で疑問も持たない。「公務員です」ということで終わっちゃう。
守られているけれども、それ以上に中を詮索されないし攻撃もされないし、守りに強いんですよね。
だけど公務員であるということに縛られていて、一言発言しようものなら「役所の人が何か言った」みたいな影響力が強いこととか、自分が何かをやろうと思うときにすごく手かせ足かせになる、重たいっていうのはそういう意味ですね。
―― 仕事でもプライベートでも、その重みのために思うように動けていない人が多いんじゃないかと。
今村さん:そうですね。例えば、町内で公務員であると言えないとか聞くんですよね。公務員だと名乗った瞬間に町内会長やってよみたいな。だったら公務員だってバレないほうがいいみたい。
―― あー、わかる気がしますね、私も聞きます。
今村さん:だから公務員は公務員同士でつるむんですよね。そこは少し鎧を脱ぎ合える関係だから。公務員同士だったら分かり合えるって安心感があるんでしょうね。市民の苦情が大変とかね、議会がしんどくてとかね。公務員同士がつるんでるのも、普段そういった鎧を着ているからかなぁって。
―― そういう人たちに「脱いでいいんだよ」というメッセージになるんじゃないかと。
今村さん:そうですね。我々公務員が本を書くとかブログを書くとか情報発信をするということが、多くの公務員に「ちょっと脱いでごらん、脱いだら気持ちいいよ、脱いでも誰も取って食いやしないよ」って伝えるいいチャンスになっているなと思います。
―― 脱いで軽やかになるとどれぐらい動きやすいのか、何ができるかということは、分からないままの人たちが多いのかもしれないですね。
今村さん:本当ならそこも言語化できるといいんでしょうね。「脱いだらこんなに楽だよ」と脱いだ人たちがちゃんと発信をして「そんなに楽だったら脱いでみようかな」と思ってもらうみたいな。
島田さんも時々書くじゃないですか、公務員が実名でブログを書くことについてとか。あれは結構いいんですよね。どんなリスクがあるんですか。リスクもあらかじめ分かっていればリスクヘッジできるじゃないですか。
どうしてそのリスクをリスクだと捉えて匿名でやろうとしたり、あるいは何も書かない方に行っちゃうんですかって。そこはちゃんと島田さんなりの言葉で伝えてもらっているので、すごく私はありがたいことだと思っているんですよね。
―― ありがとうございます期せずして私の書いたものまで触れていただいて。
今村さん:私はあのくだりは昔から好きなので。はい。
―― ありがとうございます。
◆最後に
―― そろそろ終わりのお時間ですね。たくさんお話しいただきましたが、いかがだったでしょうか。
今村さん:ダラダラと話ましたけれど、今回島田さんと話してありがたいなと思ったのは、本を書いた事を取材してくれるということで、本を書くということについての私の思いを聞いてもらって。
「書く資格」のドキドキ感ですとか。そういったことを何か改めて言語化させてもらったことがすごくありがたいと思います。同じようにインタビューを受けた、村川さんとか後藤さん、牧野さんとかと一緒に話したいなーと思いますね。
それに代わって、島田さんの方でうまく発信をしてもらって、書くことの楽しさとか表現すること、あるいは「立場の鎧」を脱ぐ楽しさを、このインタビュー記事をとおして読み取っていただけたらなと思います。
私の本の中身よりも書くことを楽しんだ私のことを知って欲しいというか。実は、本の中にもちょっとにもちょっとそういう話も出て来くるんですね。
―― それは本を手に取った人のお楽しみということですね。
今村さん:そうですね。この「本を書いた人に取材する」という発想がとても島田さんらしくて面白いと思います。
―― おかげさまで、本を出したばかりの私にとって学びが多く、それでいてとても楽しいインタビューになりました。本日はお忙しいところありがとうございました。
【編集後記】
終始、圧倒的な量と質の「伝えたいこと」が内側からあふれてくる、そんな今村さんの言葉に耳を傾けながら、いかに「日ごろ用意していない言葉」を今村さんから引き出せるか。聴き手として問いかけの力量が試されるインタビューでしたが、読者の皆さんにとって、今村さんの「新しい言葉」は紡ぎ出されていたでしょうか。
一人の聴き手としては、「公務員が本を書く意味」「立場の鎧を脱ぐ」のお話の中で、公務員が生身の人間であることを社会に知ってもらうこと、公務員自身が生身の部分をさらすこと、その大切さを語る今村さんの言葉が熱っぽかったのが印象的でした。今村さんとしての公務員の変化に対する期待、そしてそのための「対話」の必然性とつながっていたのかもしれないな、その点、もう一歩踏み込んで問いかけたらよかったかなと思いつつ、次回お話する楽しみにとっておくことにします。
さて、4人のセンパイ著者にお話をお聴きしてきたインタビューシリーズ「センパイ著者にききました」は、これで完結です。お話をお聴きすること、その中で共同作業として新しい言葉を紡ぎ出すこと、その楽しさを改めて感じることができた企画でした。ご協力いただいた村川美詠さん、牧野浩樹さん、後藤好邦さん、今村寛さん、そして最後までお読みいただいた皆さん、誠にありがとうございました。
★過去のインタビュー
★今村寛さんの著書
★ご案内★
2021年2年に初の著書を出させていただきました。
主に若手公務員を対象に「公務員が充実した気持ちでイキイキと働くことが、住民の幸せにつながる」という信念のもと、「自分の人生のハンドルは自分の手で握ろう」というメッセージを込めて書かせていただきました。
そのあたりのことは、こちらの記事でもお伝えしています。
よろしければお手に取っていただけたら嬉しいです。
また拙著に関連する記事はこちらのマガジンにまとめて掲載していますので、併せてご覧ください。
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