夢の中の善と悪
これは夢の中で起きた話
それは突然訪れた
ある日見ず知らずの誰かのドナー適合者が私だったという話
生きたままのドナーだったので腎臓または肝臓だったのでしょう
病気の妻のドナーになってくれと適合者は君しかいないのだと旦那さんに頭を下げられた
私はただ普通に生活をしていただけでそのご夫婦とは面識もなければ名前も知らない
本当にただ見ず知らずの赤の他人であった
私は昔から刃物が怖った
刃物に触れることは避けてきたし大人になってからも必要最低限しか触らない
料理で刃物を扱うときは人一倍慎重に扱うし使ってもすぐに片付ける
私はそれぐらい刃物が怖くて手術とは体に針を刺しメスで体を切ることである
私の善とする良心は人を救いたいと願いながら私の心は生きたまま体にメスを入れることに心底怯えた
例えば家族や親友大切な人のドナーになれと言われたらどれだけの恐怖に怯えようともこの身を差し出すだろう
メリットやデメリットではない
それだけの決断を下せる感情や想いがあるからだ
ただ赤の他人にどれだけのメリットや理由を探してもそれだけのものを見つけられなかった
例えばお金を積まれたら?
人身売買として金銭的やり取りは違法とされているし病気の人からお金をとって自分の体を差し出す…?
自分の善がそれを良しとしないだろう
ただただ自分の良心と一生自分の決断を憎まないように本当の自分が苦しいと叫ぶ心を押し殺して誰かに体を捧げるのか?
……さてこの夢に答えはない
けれど起きてからずっと考えた
私の心の苦しみを押し殺して誰かを助けるか
他人の…ヒト1人の命を見捨てるのか
どちらの選択をしたとして私は一生このことを思い出し泣いて生きるのだろうと思った
生きたままのドナーだ、多少の後遺症が残っても私が臓器を提供して死ぬことはない
けれど私が提供しなければ見ず知らずの人が数ヶ月後には1人亡くなる
これを事実だけで天秤にかけたとき両者が生き残る方が正義だと思う
そこに感情をのせたらどうなるだろう
相手には生きたい生きて欲しいという感情を
私には恐怖と他人を助けるべきだという良心を
他人のために自分の体を犠牲にするにはどれほどの意味と理由と感情が必要なのだろう