【おじさん大学院生の挑戦9】仕事との両立(の実態)
僕が最初に大学院への進学を考えたのは、40歳を少し過ぎた頃でした。
僕が働いていた職場は英語を使える人が多くて、しかも海外で修士号を取った人が複数いました。また、仕事がら論文を読んだり、研究者が集うシンポジウムに参加したりすることが多く、大学院という選択肢が身近にありました。僕も自分のスキルをさらに伸ばすために、これまでの経験をアカデミックな場で整理し、かつ専門と言えるような領域を作り上げたいと思うようになりました。
しかし、いざ進学について検討すると、なかなかハードルが高いことに気づきました。経済面はもちろんですが、何より時間の調整が難しかったのです。
大学設置基準では、1単位取得に必要な学びの時間は45時間とされています。例えば、ひとつの講義が90分として、それを半期の15回受講して2単位を取得するとします。ひとつの講義で必要な学びの時間は90時間、そのうち、講義に使われるのは22.5時間。つまり、予習・復習には90ー22.5=67.5時間、それを1回の講義あたりの数字を出すと、67.5÷15=4.5、つまり1つの講義に対して4.5時間となります。
大学院生が週に履修する講義は5~7くらいでしょうか。例えば、間を取って6講義とします。講義時間(1.5時間)+予習復習時間(4.5時間)=6時間が1つの講義に対して必要だとすると、単純に36時間の確保が必要です。
ここで目安となるのが法定労働時間です。労働基準法第32条により、原則「1日8時間、1週間40時間」と定められています。ざっくりと、この半分くらいの時間が学びに費やされる計算です。
もちろん修士1年は講義が中心、2年は研究が中心ですので、おおよそのざっくり計算ではあります。しかしながら、仕事をしながらこの時間を確保するとなると、月計算でざっくり140時間となります。
40歳ころの僕の仕事はシンクタンクでの調査や分析、資料作成などが中心で、カウントされない残業も多く、休日出勤は当たり前でした。繁忙期には泊まり込みもあります。仕事をしながら大学院へ行くことは現実的ではありませんでした。
その後転職した会社は、残業はほぼないシンプルな働き方が可能な職場でした。ちょうど労働関連の法改正が行われた働き方改革関連法の施行時期と重なっていて、労働時間管理が厳しくなった時代でもありました。同僚にも仕事をしながら大学院へ通う人がいて、この職場なら大学院へ挑戦できるかも、と思ったのも事実です。
しかし、そこでも進学しなかったのは親の介護があったためでした。当時は要介護1~2程度でした。テレワークやフレックスタイム制度を活用しながら働いていました。そのときの上司には感謝してもしきれないほどです。それでも、食事の準備や通院、身の回りのことをしながら仕事をするのはハードで、このときは進学のことなど考えられませんでした。
その後、親の状態がさらに悪化したため、施設へ入ることに。現在は週に1~2回の面会と諸々の管理業務のみになり、時間に余裕ができました。そして数年が経ち、進学を決意するに至ったのです。
では、現状の仕事と大学院の両立について、仕事から見るとどのような感じなのか。
前の記事にも書きましたが、いまひとりで会社を運営しています。経営者なので雇用における考え方の法定労働時間は関係ありません。なので、自分で仕事と大学院、両方の時間を調整しています。
ただ、基本的な考え方は「仕事優先」です。もし仕事と講義が重なり、どうしても調整できない場合は仕事を優先します。そのため、仕事の納期と学びや研究の時間が重なると、それは徹夜をすることになります。ただ、納期が終わればその後は爆睡できます。つまり、何をするにも自分の裁量なのです。僕は、このスタイルがとても性に合っています。
これは単に偶然なのかもしれないのですが、修士1年の春学期は、なんと僕は皆勤賞でした(笑)。社会人学生のくせにすべての講義に出ているのは、
かなり異質だと思われたかもしれません。時間をやりくりし、学費もすべて自分で出すのですから、サボるという発想は皆無です。それでも皆勤賞は我ながら「仕事は大丈夫なのか?」と思ってしまうところもあります(笑)。
余談はさておき、仕事側からみた場合、経営側に回ろうと、被雇用者の立場であろうと、時間の調整が可能な職場なのかどうかが重要です。できれば、テレワークやフレックスタイム制を活用できる職場であると調整しやすくなると思います。毎月の収支を想定し、営業活動やお付き合いもこなしながら、大学院に行けるとの見通しを立てられたのは、独立後の3年間の経験があったからかもしれません。「このくらいの仕事量ならば生計を維持しつつ、大学院と両立できる」という感覚が生まれたことが、受験を決めた最大の理由でした。
もちろん、それぞれ置かれた環境が違います。企業から派遣されるような場合は、そのような調整など無縁かもしれません。国費留学生の場合は、違うプレッシャーもあり大変でしょう。学部から上がってきた人は、就職活動と並行した研究活動になります。それぞれが、それぞれの環境から挑戦しています。僕の場合は仕事とのバランスを取りながらの学びと研究が楽しくて仕方がありません。