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隠した部分を表に出すということ


アネクドート(ロシアのブラックジョーク)が好きだ。

Q: 資本主義が破滅の淵に立たされているというのは本当ですか?
A: 原則としてその通りです。そして我々は彼らの一歩先を行っています。

Wikipedia

アネクドートという単語は「公にされなかったもの」という意味のギリシャ語「アネクドトス」が由来だそうである。

アネクドートが好きだということは誰にも話したことがないので、私以外には誰も知らない。つまりこのことは、私にとってのアネクドトスであった、と言ってもよいかもしれない。(過去形にしたのは今ここに書いているからだ)

同じようなことは他にもたくさんある。

私はソ連時代のロシアのデザインが好きだ。ロシアに限らず、各国のプロパガンダポスターを見たりするのも好きだ。
プロパガンダポスターには凝縮されたその国の意志が詰まっている。明快で勢いがあり、そして静かだ。受け手側に思考の余地がある。そこがプロパガンダ映画とは違う。


私がこういったことを人に話さないのは、あえて共有するような話題でないこともあるが、それ以上に、自分が変な人間だという印象を相手に与えたくないからである。

もし私が率直に自己紹介をするとしたら次のように話すことになると思う。

「私の趣味は昔の写真や葉書や軍事郵便を見たり集めたりすることと、読書です。特に好きなのはロシア文学ですが、太平洋戦争や共産主義がテーマの作品もよく読みます。それから1930~1940年代の映画を観るのも大好きで、その頃のハリウッド俳優に関しては、下らないゴシップなども含めて割と把握しています。政治的にはリベラルで、反社会的な思想は持っていません」

初対面で相手にこんなことを言われたらどう思うだろうか。私だったら絶対にそれ以上深く関わりたいとは思わない。初対面でなかったとしてもかなり戸惑うと思う。

そんなわけで私は、こういったことは自分の家族を含め、人前では一切話さないようにしている。

実際の自己紹介ではたいてい、読書や料理、旅行が好きだと話す。私は周囲から口数が少ない人間だと思われている。自分の話をするよりも人の話を聞く方が好きだ。その方が気楽だし、そもそも私が本当に話したいことはとても少ない。そして、それについて誰かに話したとしても、引かれることはあっても理解はしてもらえないだろうことが分かっているからだ。
別に悲観している訳ではない。きっと誰にでも、大なり小なり表に出せないものは存在しているだろうから。

このブログに関しても、開設した時の私は当たり障りのないことを書こうと思っていた。当たり障りがなく、誰かに(できれば大多数の誰かに)共感してもらえるような内容にしたいと考えていた。

それなのにどうしてこのような、明らかに万人受けしない奇妙な記事を書いているのか。

戦後80年のこの年に、ここで私なりに戦争というテーマを取り上げていきたいと考えるようになったのが、その理由である。何の前触れもなくいきなりそういった記事を上げることで、他の記事を通してここに来て下さった方へ奇妙な印象を与えたり、何らかの誤解を招いたりすることは極力避けたいと思ったのだ。

この記事を読んで、あるいはこれから上がるであろう戦争に関しての記事を読んで、もし嫌悪感や不快感を抱く方がいたら、申し訳ないと思う。そして、そんな場合には、そっと離れて、それっきりこの場所のことは忘れてもらえたらと思う。先にも書いたように、私は政治的に何か偏った思想を持っている訳ではないし、誰かに何かを押し付けようとか、傷付けようとか、多様性の逆を行こうなどという意図はない。

ここでアネクドートをもうひとつ。

Q: アメリカとソ連の間の言論の自由についての憲法の違いは何ですか?
A: 原則として違いはありません。しかしアメリカではスピーチの後の自由も保障されています。


ロシア関連のジョークでロシア的倒置法というのがある(もちろんこれもWikipediaに載っている)。ロシア的倒置法は、既存の文章のはじめに「ソビエトロシアでは」を付け加え、主語と目的語を逆にして表現する。この記事のタイトルに主語を加えた一文を例にとるとこうなる。

私が隠した部分を表に出す。
⇒ソビエトロシアでは、隠した部分が私を表に出す!

不思議な話だが、今の私の心情としてはロシア的倒置法の奇怪な言い回しのほうがしっくりくる。人の個性というものはきっと、その人の中の隠された部分にこそ存在している。そして本当の自分を表に出す(表現する)ということは、とりもなおさず、その隠した部分を曝け出すということでもあるのだと思う。

有難いことに、ここはソビエトロシアではない。なので、慣れないけれどもできるだけ率直に、自由に書いていきたいと思っている。もし読んでもらえたなら、それだけでとても嬉しい。

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