香港つぶれた後、出現するか第二の金融都市
香港政府トップの行政長官に7月1日から、警察出身で強硬派として知られる李家超(ジョン・リー)氏(64)が就任する。李氏は中国の習近平政権が唯一立候補を認めた人物で、警察出身者が行政長官に就任するのは1997年の香港返還後、初めてだった。
香港は中国政府の西側社会への“窓口”として自由な取引や生活、言論などがほぼ認められてきた特別な社会として存在し続けていた。
こうした中で李家超氏は習近平政権に忠誠を尽くす強硬派の警察幹部として名を揚げてきた。特に2019年の逃亡犯条例改正案に反対する市民デモを香港の保安局長として鎮圧に力を注ぎ有名になった。最大200万人が参加したといわれるデモに対し催涙弾などを使い若者を徹底的に取り締まったのだ。また20年6月に「香港国家安全維持法(国安法)」が施行されると民主派の弾圧に力を入れ、中国共産党に批判的だった香港紙の「蘋果日報(リンゴ日報)」創業者を逮捕して同紙を廃刊に追い込んだり、香港議会選挙を前にした予備選挙で、民主派元議員ら53人を政権転覆の容疑で逮捕した。
これらの指導ぶりをみた習近平政権は、香港の行政長官選挙でナンバー2だった李氏を唯一の立候補者として認め、支持した。選挙管理委員会によると、投票率は97.4%で、中国政府は李氏への投票で結束するよう指示したため、民主派だけでなく親中派の候補者も出馬を見送らざるを得なくなったという。選挙は香港市民の投票ではなく選挙委員に選ばれた人々による投票となっていたため、支持は1416票、不支持は8票で李氏の圧勝だった。
当選した李氏は「国家安全条例」の制度を急ぎ民主派などへの取り締まりを強化することを示唆している。このため主要7ヵ国(G7)の外相は「政治的な多様性や自由を傷つける選挙プロセスに重大な懸念を表明する」との共同声明を発表し、香港の自治と市民の権利を侵していると非難した。
また国際ジャーナリスト団体の「国境なき記者団」は、民主派メディアが次々と運営停止にされたため世界180ヵ国の報道自由度ランキングで香港は2002年の18位、2021年の80位から、さらに順位を下げ、2022年は148位に落ち込んだ。
一方、裕福な知識層は、香港に見切りをつけ、イギリスやカナダ、オーストラリアなどに移住する人が増えてきたという。また香港は、自由な金融都市の地位を失いつつあり、変わってシンガポールなどが脚光を浴びてきた。李氏は「国家の安全と主権を脅かし、香港を利用して中国本土に浸透、破壊する活動」を“譲れない一線”と明言している。今後も厳しい取り締まりで対応することは確実なので自由都市・香港の復活は当分あり得まい。その間にアジアの金融都市として成長・発展してきた香港に代わり、どこがアジアの代表的金融都市として登場してくるのか、大きな注目点になっている。
国際金融センターを比較するランキング「グローバル金融センター指数(Global Financial Centers Index、GFCI)」の2022年3月版によると、1位はニューヨーク、2位はロンドン、3位が香港だ。それ以降は、上海、ロサンゼルス、シンガポール、サンフランシスコ、北京、東京、深?と続く。しかしながら、グローバルな金融機関では香港からシンガポールに役職員を異動させる動きが活発となっている。一時的なものも含まれるが、今年の4月にフランスの銀行ソシエテ・ジェネラルやアメリカの金融機関のシティーグループ、JPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカが一部の部門を香港からシンガポールに異動させた。
中国はせっかく育ってきた香港という“金の卵”を自らつぶしてしまったといえそうだ。その代償は決して小さくはないだろう。
【Japan In-depth 2022年6月20日】
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