短編・第三回時女一族web合同(梗概のみ)
かみなりこわい
秋ごろ・夜・季節外れの大雨
許嫁ということもあり、この頃は神子柴宅・久兵衛の部屋にお泊まりしていた。
部屋には布団が二つ敷かれ、片方にはキュゥべえが肩から下を掛け布団で覆い、うつ伏せの格好で枕元の灯籠だけを灯りにして本を読んでいた。
キュゥべえが読んでいるのは、最近になって見つかったばかりの神子柴と時女一族について記された古文書だった。
神子柴家特有の崩し字で解読には専門の知識や経験が必要になるが、キュゥべえたちには問題なかった。
世代を経て、すべての個体が記憶を引き継いで共有できるキュゥべえたちにとって新しい情報や発見はなかったが記録が存在しそこにどの様な事実が書いてありまた、書かれていなかったかが重要だった。それらを、自分たちのクラウド上に存在する実際の記憶と照合すると言う意味もある。
隣の布団では静かが彼のまねをして同じような格好で絵本を読んでいた。
本は、里の外から持ち込まれた比較的最近製本されたもので、題名は「ごんぎつね」だった。
文字はすべてひらがなで記されていたので、静香も一人で容易に読むことができた。
久兵衛と静香がページをめくる音と外の雨風に揺れる雨戸、そして遠くからゴロゴロという雷鳴だけが聞こえていた。
時折、聞こえる遠雷の音を気にしつつも、絵本を読み進める静香。
やがて、物語は佳境へ――ゴン狐が平十にいつもの様に、彼の母がなくなる寸前に食べさせるつもりだったウナギをごんが食べてしまった償いにと山菜やキノコを持ってきたのを見つけた平十が「また、イタズラをしに来たな」と思い、火縄銃の狙いをつけるシーンに入っていた。
平十の指が引き金にかかり、静香が『どうなっちゃうんだろう?』とドキドキしながら次の行に視線を移そうとした時だった。
家が震えるほどの轟音と雨戸の隙間から入り込むほどの雷光が起きた。
その途端、静香は悲鳴を上げて隣の布団/久兵衛の懐に飛び込んだ。
仔猫の様に身体を縮こませて震える静香に久兵衛は呆れたように「アレはただの自然現象だよ」と諭したが、彼女は一向に出て行こうとしない。
再び雷鳴と雷光。静香の震えは余計にひどくなり、しかたなく彼は左手で静香を抱き寄せた。
「(本当に人間の幼体は手間がかかる)」
それから、しばらくして。
静香は耳を抑えて、自分の身体を久兵衛に寄せた。
接触により伝わって来る、彼の体温と心音に意識を傾ける。
そして、いつの間にか眠ってしまった。
彼女が眠ったのを見ると、久兵衛は自分も眠るため灯篭の火を吹き消して、睡眠に入った。
両手で静香の頭を抱きかかえ、自分の膝をおり身体を三日月の様に丸めて静香の小さな体を包み込むようにして眠った――愛情はもちろん、打算があるわけでもない。本能に基づいたきわめて動物的な行動。
その夜静香は、よくは思い出せないが、何か暖かいものに包まれている夢を見た。