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『死霊の恋~クラリモンド~』原作:テオフィル・ゴーティエ


1.『死霊の恋~クラリモンド~』作品本編 

※本作は投稿にあたり、原作を大幅に意訳しております。ゴーティエの世界観を壊さない意訳を心がけていますが、ご了承ください。

2.登場人物

ここで『死霊の恋』の登場人物をご紹介したいと思います。ドール劇にするにあたって、演じてくれたドールさんにまつわる話【ドールオーナーpoint💡‬ ̖́-】も含め、お楽しみいただけたら嬉しいです。

我が家のドール達にはみんな、それぞれ名前と設定がありますが、オーナーの胸の中で大切に秘めていたいという気持ちがあるので、Xでもお迎え時以外では個々の名前はなるべく伏せさせていただいています。

ドールオーナーとして私がウェットかドライかというと、Xでの写真投稿では基本的にドライですが、普段うちの子可愛いしている時の脳内は限りなくウェットです。

・ロミュオー

作品の主人公。若き司祭。クラリモンドに魅入られ、彼女との享楽的な生活と司祭としての清貧な生活の二重生活に苦悩する。

【ドールオーナーpoint💡‬ ̖́-】
ロミュオー役の彼は元々、我が家では司祭の設定のドールさんで、今回の『死霊の恋』のキャスティングで1番最初に浮かんだ方です。作品中で『司祭の僧衣を脱ぎ捨て、一緒に参りましょう』とクラリモンドが誘惑するシーンがありますが、彼自身、僧衣以外の衣装を身に付けたのは今回が初めてでした。
悩める表情に満ちたかと思うと、クラリモンドとのツーショットでは愛情のこもった優しい表情を見せたり、「シニョール・ロムアルド」としての貴族的な自信に満ちた華やかさであったり、今までオーナー自身が気付かなかった彼の魅力を今作でたくさん見せてくれました。

・クラリモンド

作品のヒロイン。豪奢を愛する美女。評判の高級娼婦で、吸血鬼。以前から探し求めていた運命の恋人、ロミュオーだけをひたすら一途に愛した。

【ドールオーナーpoint💡‬ ̖́-】
SD DWCヘッドの01(起)と05(眠)で二人一役でした。眠り目のクラリモンドを演じてくれたのは実は男の子(SD13 少年)です。元々、眠り目の彼の幻想的で幽玄な雰囲気に、この世ならざるものの美しさを感じていて、いつかそういうテーマの写真を撮りたいと思っていたところが始まりで、この作品に繋がりました。
メインのクラリモンドを演じてくれた彼女はとにかく表情が素晴らしく、オーナーが意図せずとも心で描いていた表情を必ず自然にしてくれたのが、撮っていて印象的で、とても新鮮でした。

・セラピオン

ロミュオーの師。とても厳格で、信仰心が熱い。
洞察力にたけ、苦悩するロミュオーに多くの助言を与える。

【ドールオーナーポイント💡‬ ̖́-】
原作のセラピオン師は、ロミュオーと父と子ほどの年齢差がある初老の司祭として書かれているのですが、そこはドール劇なので、若くてかっこいいお兄様に演じていただきました。笑
厳格で悪や邪心を憎むセラピオン師について、ドール劇ではロミュオーを心配する優しい師である部分を強調しましたが、原作では冷徹で残酷な一面を持つ人柄がロミュオーの目を通して書かれています。
ロミュオーとクラリモンドからすれば、2人の恋を邪魔するヒール役だからそのように見えているのかもしれませんが、なかなか残忍無慈悲です。
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原作自体、主な登場人物はこの3人のみで、吸血鬼との恋に悩む若き司祭と、その司祭を正しい道に教え導く厳しい師が対話的かつ、時に対立的に書かれています。

3.原作者 テオフィル・ゴーティエと彼が生きた時代背景について

ピエール・ジュール・テオフィル・ゴーティエ (Pierre Jules Théophile Gautier,1811年8月30日 - 1872年10月23日)は、フランス詩人小説家劇作家。文芸批評、絵画評論、旅行記も残した。日本では「ゴーチエ」とも表記される。

「テオフィル・ゴーティエ」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』Wikipediaより一部抜粋

テオフィル・ゴーティエは19世紀にフランスで活躍した作家、詩人、批評家で、ボードレールにより『フランス文学の魔術師』と評されています。

愛と美、死や幻想に満ちたドラマティックかつロマンチックな作風です。

彼は若かりし頃はロマン主義、後年はロマン主義から脱し、高踏派としての思想を築きました。

高踏派とは、ゴーティエによって生み出された主義の一つで、「芸術のための芸術」とよばれる唯美主義が特徴です。

当時、フランスは七月革命直後の人身動乱の時期であり、政府は文学を政治的な道具として利用しようとしており、一般の出版物に厳しい弾圧を加え始めていました。

ゴーティエ自身の評論なども、その弾圧を受け、掲載禁止になった事にたいする激しい怒りをきっかけに、彼は自身の文学は、政府の考えるような功利主義ではなく、美そのものの確立を目指すと力強く主張し、元々、画家を志した事もあるゴーティエは造形美術の手法で文学を成そうとしました。

文学のテーマとして、怪奇譚や幻想は17世紀の古典文学や、18世紀の理念文学では禁止されていましたが、19世紀ロマン派によってジャンルや文体の自由化と共に解禁されました。その改革をいちはやく利用したゴーティエは、ホフマンの強い影響を受け、愛と死をテーマにした幻想的な作品を多く残しています。

しかし、ホフマンに比べ、ゴーティエの作風は不気味な要素がなく、ほとんどが愛と美を基調としており、死すら美しい愛に殉じた描き方をしています。

ゴーチェはさらにすべての幻想を造形的な美をもってよそおう。それはさながら絵である。

『死霊の恋/ポンペイ夜話』田辺貞之助訳(岩波文庫)あとがきより引用

彼はロマンティック・バレエのための台本をいくつか書いていて、中でも『ジゼル』が有名です。『ジゼル』は村娘ジゼルが死後、精霊ウィリとなっても愛を貫く幻想的な物語で、ゴーティエらしさに溢れています。

ゴーティエは幼少期は貧家に生まれ、成人後も家族を養うために苦労を重ねましたが、明るく温厚で楽天的な人柄で、友人達からは「テオ」の愛称で呼ばれていたといいます。一方でたいへんな迷信家だったそうで、晩年の幻想的な作品にはその傾向が現れているとされています。

娘のジュディエット・ゴーティエも作家で、大変な美貌の持ち主として知られていたそうです。

今回、ドール劇化させていただいた『死霊の恋』以外にも、旅先のポンペイ遺跡で青年が二千年前の美女と恋に落ちる『ポンペイ夜話』、駆け出しの役者が悪魔と出会う『二人一役』、17世紀に実在した男装の麗人をめぐる熱烈な恋の物語『モーパン嬢』など、多くの幻想的な作品がありますので、興味がある方はよろしければ一度、読んでみてください。

《参考》




 

4.吸血姫 クラリモンドの愛

クラリモンド

ロミュオーが初めてクラリモンドに出会う教会での幻惑的なシーンで、彼女は絶世の美女で、この世のものならざる雰囲気を纏っており、眼差しで語りかけ、ロミュオーを誘惑します。

その時点で魔性の者という印象なのですが、
後ほど、彼女の正体は巷で非常に有名な高級娼婦だと判明します。

非常に豪奢な生活を送り、その美しさから上流貴族をパトロンにして、優雅で堕落しきった生活を送っていると評判で、ロミュオーが彼女について知った時から既に、クラリモンドにまつわる『吸血鬼、はたまた不老不死の大蝙蝠』という恐ろしいは巷で流れていました。

クラリモンドは退廃的で堕落しきった生活を送りながらも、心はどこまでも純粋な女性だったようで、長年探し求めていた運命の恋人、ロミュオーにようやく出会えたにも関わらず、彼は司祭の道を選び、疲れきったクラリモンドはとうとう死んでしまいます。

人も羨む豪奢な生活を送り、多くの恋人にかしずかれながらも常に満たされず、空虚だった彼女の心を初めて満たしたのが、純粋な青年司祭ロミュオーへの熱い恋と情熱だったのでした。

不思議な事に、ロミュオーが口付けするとクラリモンドは一瞬、蘇り、愛の言葉と意味深な予告をして、その体は再び死者に戻ります。このシーンは原作の中でも非常に官能的かつ幻想的です。

その後、ロミュオーとこの世に未練を残したまま死んだクラリモンドのあまりに強すぎる愛と思いが、彼女を本物の吸血鬼にしてしまいます。

既にこの世ならざる者である彼女は、人の生き血をすすらなければ生きていけない事が物語の中で徐々に明らかにされていきます。

愛するロミュオーと少しでも長く一緒にいたいが為に、人の生き血をすすらなければならない。最初はロミュオー以外の男の血をすするつもりでいたが、それでも、恋する人が出来た今は他の男に触れるのすら耐えられない。だから、ロミュオーの血をただひとしずくだけでいいから頂かなくては…。それでも愛しい人を傷付けるのはしのびない。

原作では、ロミュオーを一途に愛するクラリモンドの揺れ動く苦悩と壮絶な悲しみが美しい表現で書かれています。

死しても恋する人と共にありたいという美女の姿は、有名な落語の怪談噺『牡丹燈籠』に相通ずるものがあります。

セラピオン師とロミュオーによって墓を暴かれた彼女は、ロミュオーに裏切られた悲しみでいっぱいになったに違いありません。

恨みの言葉を残して、二度とロミュオーの前に姿を現さなかった彼女ですが、実際は未だにロミュオーに心を残し、虚空をさまよいながら影のようにずっと彼の側にいて、ロミュオーがこの世を離れる日を待っている…そんな風に思えてなりませんでした。

5.『死霊の恋』のは映像、舞台化作品が意外と少ない

 『死霊の恋』は読者の頭の中でとてもイメージしやすく、美しいロマンチックな作品であるにも関わらず、意外とこれまでに演劇や舞台、映画化などされている例が非常に少ない作品だったりします。

映画・ドラマ化作品として、確認出来たのは海外でたった2作品で、そのどちらも原作に忠実という訳ではなく、コメディパロディ化されているようです。

日本国内では、
2018年、2022年に熊川哲也氏によってバレエ化、

芥川龍之介訳による『クラリモンド』を、狂言師・石田幸雄氏が舞台化しています。

ゴーティエ及び『死霊の恋』のいちファンとしては、かなうなら、宝塚歌劇団やNetflix作品、原作に忠実な洋画として見てみたいなぁというのが切実な願望です。

6.ゴーティエ作品に合いそうなクラシック音楽

独断と偏見で、ゴーティエ作品を読む際にBGMとして聞いていただきたい、おすすめのクラシック音楽を紹介したいと思います。

  • フランツ・リスト『愛の夢 』…第3番が有名ですが第1番、第2番も含め非常に美しい旋律の名曲です。

  • フレデリック・ショパン 『幻想即興曲』

  • エクトル・べルリオーズ『夏の夜』…べルリオーズはゴーティエと友人関係にあり、この歌曲はゴーティエの詩集『死の喜劇』の6つの死に基づいています。

  • エクトル・ベルリオーズ『幻想交響曲』

  • J・Sバッハ『マタイ受難曲』

  • シューベルト 『セレナーデ』

リスト、ショパン、べルリオーズ、シューベルトはいずれもロマン派の偉大な作曲家ですが、ゴーティエの幻想的な作風は、ロマン派の音楽と良く調和します。

7.作品ギャラリー

『死霊の恋』のお気に入りの画像を集めたギャラリーです。
※画像の無断使用、無断転載は固くお断りしています。

忘れられぬ人
本編未使用だったもの。


このクラリモンドを見つめるロミュオーの眼差しがとても優しくて、1番好きな画像です。
夢の中
秘密
優しき師

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