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「酒」

◇「餓死したんだ。そいつプロのドラマーを目指してた」

伯父から貰ったウイスキーはその人が持って来たモノだと言う。

ある日、久しぶりにその人から伯父に連絡が来て唐突に飲む事となり開封したこのウイスキーは最後の贅沢だったのかもしれない。

餓死したのはその飲みの後、しばらくしての事だった様だ。

その話を聞き、現代にあって餓死?どういう状況?生活保護は?自死?色々考えたが、音楽に魅せられた自分にはその理由も何だか解る気がした。

一般的な定年を遥かに越え七十過ぎてもプロドラマーを目指した想いを感じ素直に胸が痛んだ。

生涯、人に知られる事がなかった無名のドラマーは寿命近くの年齢となり、伯父へ自身の存在を残して逝ったのだ。

少なくとも最後、伯父と一緒に飲んだ日にはそう決めていたに違いない。


◇「コレお前にやるよ」

伯父はそう言うと飲みかけだけど半分以上残ったウイスキーを僕を差し出した。

それは自分で自分の誕生日プレゼントとして毎年買っていたウイスキーだった。当時は大手スーパーに常備されており6,600円で買えたが今では全く手に入らなくなってしまった。

そのウイスキーも残り僅か。熟成が進んだのか今ではとんでもなく良い香りがするから勿体無くて飲めなくなってしまった。

その伯父も今年八月で三回忌を迎える。毎年その日に舐める程度飲んでいこうと、とりあえず今は思っている。


◇20年前に近所の百均で買ったお猪口。日本伝統の切子を真似たお粗末で粗雑なそのお猪口を、今は大切に持っている。

当時、冷酒用の徳利とセットで持ってたが、こちらは経年劣化により手に持った瞬間バラバラに砕けてしまった。

残ったお猪口を大切にしてるのは、死んだ親友と最後に交わした酒を注いだ器だから。

その日は壊れてもいいモノだからと思って持って行ったのに、今では後生大切にしているという不思議。


◇「古酒」

泡盛は瓶内熟成する。3年以上寝かせると「古酒」と呼ぶ。

家に20年程前からある泡盛がある。購入当時から10年古酒だったので少なくとも30年は経過している筈だ。

この泡盛は人に譲って貰ったもの。ある日、突然酒を辞めると言うので根刮ぎ貰ってきた内の一本。

友人と言うか、盟友というか、仲良かった様な、メチャクチャ仲悪い様な、不思議な人から譲り受けた何気無い一本。

そしてこの文章を書いている最中に思いついた。

この泡盛は「俺」か「彼」の葬式で開けたいと思う。その時には熟成に熟成を重ね、この世のモノとは思えない円やかな味に仕上がっているに違いない。

それを味わうのはどちらになるのか。
その日までの楽しみを作っておくというのも悪くない気がする。

負けられない戦いが此処にある。

(彼に話さずに勝手に始めた戦いだけど)


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