あなたの企業が海外進出をはじめる理由
はじめまして、いっしきです。私は高校卒業後のしばらくの期間を、カナダで過ごしていました。夏は涼しくてすごしやすい地域ではあるのですが、バーベキューと映画ぐらいしか土日の楽しみがないことに耐えられず、とうとう日本に帰国してしまいました。日本が好きで、日本で生きていたかったんです。
しかし、その後の学生時代は英語メインで論文を漁ることになったり、社会人になってからもグローバルカンファレンスに関わる仕事を頻繁に任されたりと、なにかと海外が関わることになりました。元海外在住経験者というのは、こういう宿命にあるようです。
私は特にといって才能がある人間ではありません。20代でいくつかの起業を行なうも失敗。ソフトウェアエンジニアとしてそれなりに認められるも、圧倒的な才能を目の前にして現場を離れることにしました。安定した大企業に入社したこともありましたが、結局はベンチャーへ移り、そして30歳で経営幹部にまで上り詰めるも、すぐに失敗して降格。
さまざまな失敗と成功があったのですが、現在は中小企業にて海外事業部の責任者という宿命通りのポジションに落ち着いています。結局はここが私の行き着く場のようです。ただ、こんなフラフラのキャリアではありつつも、ここ十年弱ほど、海外に対して薄くアンテナを張り続けていました。
そうして、変化する環境を遠巻きに眺めているうちに、日本の企業こそいま海外に進出すべきであるという想いを抱くようになったのです。記事を書くことで、企業人のみなさんに届けられないかと思い立ちました。
一番最初であるこの記事は、海外事業のファーストステップです。もしあなたの企業が海外事業を始めるとしたら、海外事業部を新設するとしたら、どういう裏付けを持ってそれを始めればいいのでしょうか?役員や上司へ進言する立場にあるとするならば、彼らに一体どういう説明をすべきでしょうか?
本記事では、そのヒントになる情報をまとめてみました。
なぜ、あなたの企業は「新しいこと」を始めなくてはいけないのか?
企業は、時間経過とともに要求が厳しくなるものです。社員は年齢が上がるほどいい給与や役割を与える必要があるし、株主がいるなら株価や配当が上がることを望むでしょう。提供しているサービスに対する需要はいつ減ってもおかしくないため、停滞すればいつか従業員の給料が賄えなくなる日が来ることになります。
したがって、企業は原則として成長し続けることが求められています。現代の社会で、企業の成長の規模を図る指標は「お金(資本)」ですので、収益を増やすことは企業が継続し続ける上での命題といえます。
企業が成長し続ける手段はいくつかありますが、代表的なものといえばやはり社会への貢献が挙げられるでしょう。企業はサービスを社会に対して提供すれば、その対価として収益を得ることができます。
そのサービスとは、美味しいコーヒーが飲める空間と時間の提供(カフェ)であったり、本格的なタイ料理の提供(タイ料理店)であったり。結婚相手の提供(結婚相談所)であったり、何か学ぶ仕組みの提供(学校)でもいいでしょう。
これらは、品質を向上したり、販売価格を変えたり、宣伝を強化したり、業務を効率化して原価を下げたりなどして、サービスが提供する本質的な価値を変えずに収益改善を図るという戦略があります。これを「垂直展開」といいます。
例えば、製造工場や倉庫に足を運び、作業のボトルネックを調査して生産性を改善したり、手作業のIT化を進めることで人件費削減したり。提供価格を下げたり、品質や認知度を上げる活動に投資したり。どんな小さな企業でも、どんなに売上が悪い企業でも、この垂直展開に関わる何かしらの努力を行っているに違いありません。短期的な成果を求めて実践していることがあるならば、十中八九はこの戦略の範疇に収まる何かである可能性が高いでしょう。
垂直展開は日々の業務の中で行なう重要な活動ではありますが、限界もあります。垂直展開というのは、どれだけ工夫しても「ある領域におけるサービスの利用者・売上高などのシェアを奪う」という戦略であることに変わりはなく、得られる収益には限界が決まっています。限られた顧客・売上を奪い合うパイ取りゲームになります。
例えば、東京都渋谷区代々木で地元に愛される量販店があったとします。彼らが代々木の人口である約23,000人を超える人々をターゲットに商売を行なうことは難しいでしょう。日本の世帯可処分所得は平均約300万円なので、それを超える消費を代々木の全ての人々に求めるのは無謀といえます。一人の人間が一日に使える時間は24時間ですから、量販店への滞在時間に一日30時間を使わせようとなると宇宙の法則を覆す必要があるでしょう。
また、世の中は常に変化し続け、需要も変化します。例えば、電卓が普及すると、そろばんの需要は当然低下します。もし、日本の全小学校がランドセルを禁止すれば、ランドセルは一切売れなくなるでしょう。
永遠に需要があるサービスは限られており、いつかはその需要が競合に奪われたり、社会に変化によって総量が減ってしまうという前提で企業はサービスを提供しなくてはいけません。企業は常に、新しい事業をはじめることで、サービス成長の限界、需要衰退のリスクに対処すべきという外圧がかかっているという状況です。
「新しいこと(新規事業)」には、どんな手段があるのか?
まったく異なる事業領域に進出するならば、競合するサービスに負けない競争力を得るために、多くの投資が求められます。資本力での闘いでは、巨大企業の参入によって簡単に負けてしまうでしょう。
既存のサービスで培ったノウハウや資源を活かす形でサービスづくりを行なうことで、資本力に依存しない方法で新しいサービスづくりを行なうのが鉄板の戦略です。これを「水平展開」といいます。
水平展開にはいくつかの手段があります。ECサイト「Amazon」は当初、本のみを販売していましたが、今日では家電や食品、デジタルコンテンツに至るまで幅広い商品を対象に販売しています。これは、彼らがネット上での決済が行える顧客基盤が強みとして活かせると判断し、本を買わない人々も顧客にできるよう水平展開を行った事例といえます。
コンビニチェーン「Family Mart」は海外にもあり、ほとんど共通のブランドとラインナップを展開しています。海外では流通に関わる資産はあまり活かせませんが、ブランドと商品開発の技術は強みとして活かせると判断し、日本国外の人々も顧客にできるよう水平展開した事例といえるでしょう。
既存のサービスのノウハウや資産を、別の国と地域へ水平展開する「海外進出」もまた、新規サービスづくりが求められる企業における水平展開の手段の一つと言えます。まったく新しいことでなく、国内で培ったものの何が価値として活かせるのかを判断し、海外の現地市場にて新たにサービス化し提供することが海外事業のミッションになります。
次の記事では、いくつかある選択肢の中で、あえて海外事業を選ぶ理由を紹介します。