出世する「駒」
暇だったので説文解字をなんとなく眺めていた。説文解字とは中国の昔の漢字辞典である。漢文は読めないのでざっくりと眺めていただけだ。
「駒」という漢字の説明に「馬二歳曰駒」と書かれていた。「二歳の馬のことを駒という」と訳せるだろうか。それに続けて「三歳曰駣」とある。駣のほうは日本ではほとんど見かけなくなった漢字であるが「駒」は今でも割とよく見かける言葉だ。「駒」とは二歳の馬を限定で指す言葉だったらしい。
ちなみに一歳の馬のことは𩡧というらしい。年齢によって馬のことを呼び分けすぎである。
ここでの馬の年齢は数え年なのか満年齢なのかよくわからないが、0歳の馬の記述がなさそうなのできっと数え年だろう(つまり生まれた年が一歳)
さて、今の日本でこの「駒」を使う単語といえばなんだろうか。そうである。「若駒ステークス」に他ならない。ゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』において重賞レースでもないのにトウカイテイオーのストーリーの育成目標になっていることでおなじみの「若駒ステークス」である。
現実世界における。同レースではトウカイテイオーのほかにもディープインパクトが出走して優勝したり、武豊が2002年から2006年まで五連覇したりと何かと話題性のあるリステッド競走だ。
若駒という言葉を上述の理解のまま解釈すると若い二歳(今の馬齢で言うと一歳かも)の馬となり、三歳馬のレースの名称にふさわしくない。
このままでは名称を変えることを目的とした署名活動が行われてしまうかもしれない。
当然ながら若駒がふさわしくないというのかといえば決してそのようなことはない。手元になぜかあった漢和辞典[新訂版](旺文社、昭和49年)には二歳の馬の意も掲載されているが、馬の総称という意味も掲載されている。こちらの意味を採用すると若駒はただの若い馬という意味以上のものをもたないことになる。
若い馬を指すだけだったはずの「駒」が気づけば日本においては馬全体を担う幅の広い言葉になっているのは面白い。さらに言えば「駒」は2010年に常用漢字になるという出世まで遂げている。
淘汰されてしまった「𩡧」や「駣」と確固たる基盤を確立した「駒」。この差はいったいどこから生まれてしまったのだろうか…
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