知らない街
ろくでもない、奇妙な街の話。
この街は新興宗教が多い。自転車放置件数全国一位、誰しも一度は自転車を盗まれる。人身事故は日常茶飯事。凶悪犯罪が多く、時々知人がいなくなる。大袈裟な物言いでは決してない。私はこの街で育った。
小学校高学年にもなるとクラスに「泥沼の関係性」があったりする。子供同士ならまだしも、そこに大人が介入した場合も少なくない。
中学生の頃、夏休み。テレビである中学校の窓ガラスが全て割られている事件が報道された。モザイク処理がされていた。登校日、私が通う学校だと分かった。体罰も横行し、脳震盪を起こす学生もいた。
年に一度は全国報道される凶悪事件が起こる。理不尽な天災や事故に強烈な一撃を加えられた事もある。
誰も彼もが何かに飢えていた。貪欲が過ぎる人間が多かった、とも言える。私は高校卒業と共に、この街から逃げ出した。
私が去ってから、街は「浄化作業」が始まった。黙殺されていた犯罪は摘発され、駅のホームも自殺防止用に改装された。自転車はそもそも放置出来なくなり、新興宗教の看板は外された。
帰省する度に、この街はその個性を失っていく。思い出の場所は消え去り、人も入れ代わり、今。
そこには知らない街がある。
喜ぶべきか、哀しむべきか、誰も教えてくれない。
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