ビューティフル
「来年、教育実習なんすよね」
「へえ、高校?」
「中学っす。三週間。マジ億劫ですわ」
柳井君は教員を目指す大学生だ。何故億劫なんだろう?
「俺子ども嫌いなんすよ」
「じゃあ何で教員目指すの」
「碌な先生がいないから禄でもないガキが育つんですよ。だから俺が碌な先生になろうかと」
変な発想してる子だなぁ。学生生活に良い思い出が無いのだろうか。
「俺、小5の頃の担任が変な奴で、道徳の時間映画鑑賞してたんすよ」
「良い先生じゃん、楽しそう」
「いや名作とかならいいんすけど、ゼイラムとか見せられたんすよ?トラウマっすよ全く」
ゼイラムと言えば、私の世代より上の特撮映画だ。グロテスクなカルト映画。それは確かに偏屈な先生だ。
「映画鑑賞、私もあったなぁ。私はサウンドオブミュージックだった」
「世代モロ出しっすね」
「いや全然世代じゃないよ。失礼でしょ」
「でも、子どもの頃観る映画って、やっぱ特別なんすよね。一生残るっていうか……例えばっすよ、自分に子どもが出来たとして、その子にとっての初めての映画、何を見せたいっすか。4、5歳位を想定して」
話を逸らしたな。でも興味深い質問だ。
「なんだろう。でもアニメとかじゃない?ドラえもんとか」
「日和ってますね」
「攻めも何も無いでしょ」
「俺はね、ガタカっす」
ガタカ?SF映画の?難し過ぎないか?
「その時分かんなくてもいいんです。いつかその子にとっての特別な映画になってほしいんすよ。何か困難に直面した時とか、自分の運命に打ちのめされた時とか、その時ふと思い出して、その子を前向きにしてくれたら」
私にとってはアラビアのロレンスがそれだ。自分の経験を鑑みると柳井君の意見にも頷ける。
「じゃあ、私やっぱあれかな、ライフイズビューティフル」
「いや、トラウマでしょ。子ども可哀想っすよ。えげつねぇ…」
何でだよ。