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演出家ミハイルの瞳
ロシアの高名な舞台演出家、ミハイル・フセインと話をする機会があった。
私の質問
「舞台を志す日本の若者に、何か助言を頂けないでしょうか?」
ミハイルは両手をひらめかせる。言葉に悩んでいるようだった。咽の奥をゴロゴロ鳴らし、肉付きの良い、重たそうな口を開いた。
「賢明であることです。この世界にはペテン師が多い。見聞を広め知恵を獲得するのです。すれば、騙されることはない。騙されなければ、真実に向かい続ける事が出来ます。迂闊に先人を信じない事です。物事を判断するのは先人の目ではない、あなたの目です」
別れ際、彼は私の持つ文庫版チェーホフの『三人姉妹』にメッセージとサインをくれた。何を書いてるのか、今もさっぱり分からない。
恰幅が良く男らしい体格の彼だが、その瞳は誰よりも傷付きやすい、臆病な子どものそれだった。
以上、演出家ミハイルの瞳の話。