漫画より小説や映画が好きになったのは
(はじめに。こんなタイトルではあるが、本記事は漫画についての記事でもある)
漫画畑だった人間が小説や映画を好んで買ったり観たりすることが多くなったのは、一本で終わるものの割合が多いからだ。
もちろん、漫画だって一巻完結のものはあるし、小説や映画だって続きものはある。けれどもその割合の違い故に手に取る比重が変わっていったのだ。
一度で終わりの味わえるものが好きだ。漫画は基本的には連載という形をとるので続きものが大半で、前提である。ドラマやアニメシリーズだってそうだ。
しかし小説は一冊で、映画は一本で物語の始まりと終わりを味わえる。それがたまらなく気分が良い。だから続編というものは基本的に欲しない。
ただそれを考慮して、高校を卒業してからは全一巻の漫画に魅力を感じることが増えた気がする。実際、全一巻もしくは5巻以内で完結する、心から愛する作品に出会っているからであり、それらは死ぬまで注ぐ愛の量が不変だ。
本記事では前々から気になっていた作品を、ようやく購入し読み終えたので紹介したい。3作の沙村広明作品だ。読了後、自身の中で寝かせ、感想を綴りたくなるまでに落ち着いたので記事を書くに至った次第である。
・「ブラッドハーレーの馬車」
この作品はとても有名である。悪名高いといってもいい。そのわけは、あまりに残酷で苛烈な内容、重たく許容しきれぬ読後感という評判ゆえだ。
性加害の乱暴さという一点を軸に政治的要素を交えた人間ドラマとして描かれる物語。露悪的な作品かと聞かれると判断が難しい。中盤で明かされる設定の根幹を鑑みると、あまりに非道い仕打ちや仕組みは現実味の薄い部分もある。終盤の展開も、人によって少し見方が変わる要素だと思う。
とはいえ、そもそもの制度としてに疑問を抱くというよりはそこを起点に人間模様を見せることに重きを置いている節があるので、つっこむのは無粋かもしれない。
この作品は一話完結の群像劇。加えて、それが一視点でなく多くの角度・立場から描かれている。善人悪人だとかいう括りもあるにはあるのだが、感情移入させるような作風ではないので、俯瞰でその推移を眺めるといったもの。
栄枯盛衰の側面を含む部分もあるからして、本作は想像より心を抉るような作品には思えなかった。ある程度幅広く創作物に触れているならば読了は簡単だろう。だがしかし読後の感想は気になる。一人一人違った答えが出る筈だ。
好きな作品かと聞かれれば一重には言いづらいが、買ってよかった一冊とは思う。少なくとも沙村広明さんの美麗な絵が堪能出来る点では強く勧めたい。
一番好きな話を聞かれても答えるのは憚られるが、第二話の間取りが分かるシーンは戦慄を覚える巧緻さで感嘆した。
一番苦手なのは第七話だ。あのラストは余韻が凄まじい。
余談として。レスリーとステラという二人の女性が巻頭にカラーで描かれているが、表紙の少女は本編には登場しない(恐らく)。これも一つ面白い点だと思う。群像劇ゆえの方法。
個人的には終盤で登場するキャラクターの過去の姿ではないかとも考えている。
・「春風のスネグラチカ」
こちらは前述の「馬車」とは打って変わって、万人に勧められるハートフルな作品、と言いたいところだが、表紙のライトな純愛を想像して読み始めると痛い目をみる。
おしゃれな作風で、美しい絵柄には違いないのだが、かなりヘビーな作風というのは「馬車」と同じだ。残酷だけど静謐で、不思議な温もりを併せ持つ作品。歴史に明るい方ではないのだが、それでもかなり楽しく読み進めることが出来た。舞台ゆえにボリュームがあり読み応えはバッチリ。哀愁のある、短く纏めた大河小説のような。IFの話の広げ方は、史実をベースにした作品づくりとしても敬服する。
あとがきもクスリと笑える内容で個人的な満足度の高い一作だった。
・「樫村一家の夜明け」
こちらは岡村星さんという沙村広明さんの奥様である漫画家の方との共作。夫婦揃って同じ職業で、かつ一緒の作品を作り上げるというのは珍しいのではないだろうか。
沙村さんが一編、岡村さんが二編という3つの短編集である。
表紙が一番好みだ。
以上、一冊で終わる沙村広明作品を紹介した。沙村広明さんの作品はほとんど全てに性描写が見られるのでそこだけは注意してほしい点ではある。
最も好きな作品は「春風のスネグラチカ」だ。この一冊は誘引力が高く、圧倒的に惹きつけられた。胸を張って人に勧めることが出来る。
是非時間があれば読んでみてほしい。
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