創作短編小説『赤い正真正銘』 ――9、赤い王道――
9、赤い王道
大阪から東京方面に向かう新幹線のぞみ号のグリーン車の中。先ほどまで陽気に話していたQと船橋。さもするとそれは他の乗客にとっては迷惑だったかもしれないが、日曜の割にはすいていたこともあり、周りには人がいなかったのが幸いだった。その二人が急に声を潜めて話し始めた。もし周りで二人の話に聞き耳を立てている人がいれば、ひょっとしたら身を乗り出したかもしれないほどの声で、Qは船橋に語りかけた。
「船橋さん、実はねえ、その太田さんも最初は新社長公募で応募してきたんだけど、やはり前例に漏れず、数ヶ月で無理だと判断したんだと思うんだよね。たぶん……」
「やめちゃったんですか?」
「普通の人だったら、そこで辞めるんだけど……。太田さんは違ったんだよ。社長に頼み込んだらしいよ。『数ヶ月、社長についてみて、今の自分には社長と同じことはできないと、よく分かりました。しかし、この会社がどれだけすばらしいかもよく分かりました。私はこの会社が大好きになりました。できれば私はこの会社で一から働きたい。その働きぶりを見て、いずれもう一度、社長の後釜に見合うかどうか、試してもらえませんか? ここに骨を埋めるつもりで精進します』って懇願したらしいんだよね、社長に直接」
「一から、つまり平社員からってことですか?」
「普通はそう思うでしょう? ところが、そこら辺がよく分からないけど、いずれ社長候補ってことを含みを持たせたのか? 管理職として雇ってほしいみたいな感じに社長に懇願したらしいんだよ」
「社長はそれをすんなり受け入れたと?」
「まさか、まさか。もちろん断ったんだよ。最初はかたくなに」
「で、今、いるってことは……」
「最後は、土下座してお願いしたって噂だよね」
「あー、また土下座ですか……。なんとも言葉が出ないですね」
船橋の沈痛なため息が漏れた。先ほど、会議室で太田の土下座を目の当たりにし、逆に太田に対する信頼が薄らいでいく自分を思い出していた。それはQも同じだったのだろう。船橋のため息に、ウンウンとうなずく仕草をみせた。
「最も土下座くらいでは、さすがの社長も動かされないだろうけどね。それよりも、私が思うのは……、社長は当時、相当疲れていたのかもしれないね」
「疲れ?」
「そう! だって、せっかく後進に道を譲ろうとしたのに、応募してくるヤツは皆すぐ辞めてしまう。もちろん身内からは誰も名乗りを上げてくれない。だったらもう、オレが最後まで、行き着くところまでやってやる……、とでも思っている矢先に彼が来た」
「太田さんが?」
「そう。で、彼もすぐ辞めるかと思いきやだ。彼は、新社長候補として社長とマンツーマンで一緒に回っているとき、一つのある特徴があったらしいんだよね」
「どんな?」
「かぎりなく『イエスマン』だったらしい」
「イエスマン?」
「そう、社長には絶対に逆らわないというか、イヤらしい言い方をすれば、おべっかばかりというか、お世辞が上手かったらしいんだよね」
「……」
「そんなお世辞にごまかされる社長ではないはずなんだけどね。だって、元々はナイフですから(笑)。だからダメと分かったときには、きっぱりと断った。でも太田さんはそれ以上にしつこかった、いうことなのかなあ~?」
「うーん?」
「おそらく社長は、何人もの応募者をみて、その挫折をみて、ちょうど疲れちゃったところに太田さんにゴリ押しをされて……。一人ぐらい良いか? なんて魔が差したのかな? って、これは私の勝手な想像だけどね」
「ウ~ン。たしかに『よいしょされて、嫌な気はしない。おべっか使われて嫌な気はしない。それがお世辞と分かっても……』って、ジャイアント馬場が言っていたらしいですけどね」
「ジャイアント馬場って、昔のプロレスラーの?」
「ええ、ジャイアント馬場はプロレスラーですけど、全日本プロレス(株)の社長でもあったんですよね。その弟子に大仁田厚っていうプロレスラーがいたんです。彼は若いときジャイアント馬場の付き人だったんですけど、馬場さんが彼をそう評したそうです。大仁田は馬場社長におべっか使うのが、かなり上手かったらしいんですよね」
船橋は少し自慢げに語った。船橋は昔からプロレス好きで、しょっちゅう後楽園ホールまで観戦に行くほどだったのだ。
言わずと知れたジャイアント馬場は日本人ながら209センチの身長を誇る昭和の偉大なレスラーだ。もともとはプロ野球の巨人軍にピッチャーとして所属していたのだがケガをして野球を断念、プロレスラーに転向したのだった。昭和世代の男の人なら一度は聞いたことがある名前だろう。Q自身はプロレスにはさほど興味が無かったが、流石に昭和世代、その名前に反応した。
「船橋さん、そのプロレスラーの大仁田って、電流爆破デスマッチとかやるひとだよね?」
「Qさん、よくご存じで! で、馬場さんはお世辞だと分かっていても、かなり大仁田をかわいがったらしいんですよね。ひょっとしたら、発毛クリニックの社長もそんな感じだったんですかね?」
「どうだろう? でも社長も若いころのナイフの時代ならともかく、年をとり丸くなってくると、その馬場さんじゃないけど、そんな気もおきたのかあ?」
「どうでしょう? でも、あの高身長の社長とずんぐりの太田さんが並んでいる様を想像すると……」
「ねえ、デコボココンビにみたいだったろうね。社長の高身長がより目立っただろうね」
「ですよね。わたしも今日初めて太田さんとあったんですけど、一目見てヤバイと思いましたよ」
「そんなに?」
「いやいや、そんな意味じゃなくて、体格的に健康に良くないだろうなって」
「ああ、そういう意味ね」
「わたしも昔、太ってたもんですからよく分かるんですよね。ああいう体型は、非常にまずいって」
「そうだよね。船橋さんはダイエットに成功して本まで出してるんだったよね。何キロやせたんだっけ?」
「半年に二十キロ、一年で三十キロです」
「えー! そんなに。じゃあ、もともとは何キロだったの?」
「一番重いときで九十七キロでした。もうじき大台の百キロに届く勢いでしたね」
今でこそ船橋も普通体型を維持しているが、少し前までは典型的なメタボだった。あるとき、胸が苦しくなり病院を受診。すると下った診断は高血圧に、糖尿一歩手前。さらには睡眠時無呼吸症候群だった。その時、それまでの不摂生を反省し体のメンテナンスの重要性を実感した。その流れで、ついでと言ってはあれだが「発毛クリニック」にて髪の復活を目論んだのだった。その経験から、船橋は心配顔で続けた。
「太田さんて、わたしよりやや低い身長で、あの体型ですから既に百キロの大台に乗ってると思うんですよね」
「だろうね、きっと」
「とすると、みるからに健康に悪そうですよね。わたしは会った瞬間から、そのことが気になっちゃって」
「そうだったの、船橋さん。いやあ、私はさっき、船橋さんが太田さんに会った瞬間から怪訝な顔をしていたので、何か気に入らないのかなって、横で心配してたんだよね」
Qが安堵したようにほほえんだ。
「いやいや、そんな顔してましたか、わたし? 心配で顔が引きつっちゃったんですね、きっと。ところで、そもそも太田さんって、元々はどこにいたんですか?」
「私もそこらへんは、そこまで詳しくは知らないんだけど、たしか元々はゼネコンにいたんじゃなかったかなあ?」
「ゼネコン?」
「ああ、なんでも東南アジアとかそっちの方での生活も長かったとか何とか? 耳にしたことあるなあ」
「東南アジア? わたしは全くそっちの方はわからんですねえ」
「私も同じだよ。一体全体どんな生活なんだろうね? さらに、太田さんはそっちの方に駐在していた経験をアピールしただけではなくて、嘘かほんとか『コネもある』みたいなことを自慢していたらしいよ」
「何のコネですか?」
「それもよく分からない話だよねえ? ただ、今現在、発毛クリニックがSDGsとかに力を入れているのは知っている?」
「ええ、もちろん。頻繁にSNSで発信していますよね」
「で、その関係で結構、発毛クリニックさんは海外活動も盛んなのよね、最近」
「そう言われば、SNSでみたことありますね。カンボジアでしたかね?」
「そうそう、その通り。カンボジア政府に協力して、表彰されたこともあるんだよね」
「そうなんですか?」
「ウン。だから発毛クリニック社内ではもちろん、専門部門をつくっている。船橋さんがSNSでよくみている『共育/TOMOIKU』って部門がそれだね。noteでも名前を変えて発信しているね」
「それだけ、本気で力を入れているんですね」
船橋は大きくうなずいた。近年、発毛クリニックは本業の発毛事業の他に社会貢献活動に尽力していた。その一つがカーボンニュートラルを目指したSDGsだった。国内はもとより、カンボジアなど海外にも活動の場を広げていた。
「ああ、それで、わかった! 今、思ったんだけど……」
Qが突然、両手をポンとたたいた。少し驚きながら、聞き返す船橋。
「何がですか?」
「もしかしたら、社長はその関係があって太田さんが何か役に立つと思ったかもしれないね? 東南アジアに進出するに当たって」
「ああ、そういうことですか?」
「いや、全然わかんない。これは勝手な私の想像。でもあの社長が土下座くらいで心動かされるわけもないよね、やっぱり。きっと先まで見越した考えがあったんじゃないかと思うのよね。だとすれば、この仮説がすんなり来るかな? と……」
「実際に、太田さんがカンボジアへ進出するために何かしたんですか?」
「どうだろう? そこまでは詳しく聞いていないね。ゴメン、私の勝手な思いつきで変なこと言っちゃったね」
「いえいえ。でも結局、太田さんはいずれにせよ、もともとは髪とは全く関係ない企業にいたってことなんですよね」
「ウン、それは確かだね。もっとも、公募で外部から新社長に応募してきた人たちは太田さんだけでなく、髪と無関係のところにつとめていた人が多かった、ってきくねえ」
Qの説明を聞きながら、ある程度を理解した船橋。しかし、やはりどうしてもあの社長が、なぜ太田を雇ったのかは理解できなかった。社長ほどの人が、なぜあのような太田を雇い入れたのか、やはり船橋は心に引っかかるものを感じざるを得なかった。なぜなら部外者の船橋からみても、社長は絶対的な経営者で、尊敬するに値する人物だと思っていたからだ。社長の切り開いてきた歴史は、まさに努力のたまものであり、その成功の道しるべはあたかも「王道」と呼ぶにふさわしいと、船橋は考えていたからだった。奇しくも、これはあのジャイアント馬場社長が築き上げた全日本プロレス(株)がファンの間で「王道」と呼ばれていたのと同じであった。そんなことを頭に思い浮かべながら、船橋は話を元に戻した。
「ところでさっきの話に戻りますけど……、馬場さんと発毛クリニックの社長さんは、どうしても私の中で重なるんですけど、背も高いし、何となく風貌も似ているような?」
「風貌はよくわからないけど、今の確固たる地位を気付いてきた。大きな会社を作ってきたのは二人とも共通しているよね」
「ですよね。社長と馬場さんは、何より勝負服の色が同じなんですよね。社長は赤いネクタイ、馬場さんはそれこそ赤いトランクスに赤いシューズ。燃える赤、熱い赤ですよね。そして、どちらも社長として大きな会社を作り上げた。それこそ血もにじむような努力をして道を切り開いてきた。まさに『王道』といえる道を、苦労してつくってきたんですよね。二人とも」
「王道ねえ。たしかにそうだね。そんな社長も、やっぱり丸くなったのかなあ? いよいよその王道を継承させようと思ったわいいが、なかなかお眼鏡にかなう人がいない。唯一残ったのが太田さんで、正直、社長も苦肉の策だったのかもしれないね」
「かもですね? でも、それで雇ったわいいですけど、一から、平からならともかく、いきなり管理職って、他の社員の手前風当たり強いんじゃないですか? 少なくとも元々の従業員はおもしろくないはずですよね」
「そうなんだよね。内心、おもしろくないと思うよ。でも元々の従業員は、自ら新社長に名乗りを上げなかった、っていうのも事実だし。そこら辺はほんと難しいよね」
「いっそ、Qさんが新社長に名乗りを上げれば良かったのに」
「はっ? ああ、そういう手もあったね。当時はこれっぽっちも思いもつかなかったよ」
再び大声で笑い合う二人だった。こうして静かな会話は、ほんのわずかばかりで終了し、また新幹線グリーン車両の最前列は賑やかな二人に戻っていったのだった。
〈つづく〉
*この物語はフィクションです。実在のあらゆるものとは一切関係ありません。
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注)以上は、鹿石のブログ『ダイ☆はつ Ⅴファイブ』より抜粋です。