月夜におどる
夜の界隈を歩いていると度々冷めた風が吹いて、もうそこに夏はいないのだとただただ確認し続ける日々だ。嫌気が心頭に達しぽかんと月を見上げて理不尽な現実から逃げるすべを身に着けた。そして早数十年。未だほかに確たる対処法はなくこの頃も毎夜毎夜と呆けた顔を月に見せては飽きられる始末だ。そんなだから月もここの所遊びに来てくれていない。気ままな月のことだからもう他に恰好の飲み仲間を見つけてしまっているかもしれない。月に突き放されたならば運も尽きなければならないのだろか。
尽きた運を忘れ、僕は無暗に夜の街を放浪する。
煌々と光る飲み屋街のネオンは遠近の認識に支障を来し、終いに視界はぼやけ、酔ったような錯覚に陥る。体が拒否を反応しているならそれに抗うように突き進むのみ、ネオン街を突き抜けた暁には余計なものの1つや2つ、うまく撒ける事だろうと企みも懐に隠し持つ。そのあと振り返り大事なモノまで無くしていても、それは祭りの後であるが。それでも過去が揺らぎ、祭りがあったことが事実だったように改変されるならば、それも良しというものだ。僕は阿呆ほど祭りが好きだ。
北風が廃れた街並みの中央を割くガタついた舗装路を吹き抜けてゆく。襟をしめ歩き出せば締め出したはずの現実が皮肉な顔をさらし頬を舐めてはつむじ風になってくるむ。浮足立ったその空想の中に淀む回路の中で色彩は失われ、真黒の世界がぽつねんとひとつあった。それが宇宙の内外を占め2次元となり黒の絵の具に塗りたくられた画用紙にへばり付いた埃のようになって僕は口元まで来てるまだ乾燥しきらぬそれに呼吸を遮られ、おぼれそうになって目を覚ます。
左手を掲げる。手のひらを天に向ける。右手も斜め右上にあげる。顔も空を向ける。日差しが熱いポーズだ。そして踊りだす。右足左足、前々、後ろ後ろ、よいよいよいよいっ♪
黒い平面の宇宙で踊りだす。太陽光をじかに受け、ぷすぷすあたりは煙を出している。すでに裸足の足の裏は焼けて熱い。立ち止まっていられないので踊り続けるしかないのだ地獄。しかし地獄に仏。その間はすべて忘れることができる。踊れっ、よいよいよいよいっ♪
あ、月がこちらを見ているぞ、もっと踊れ、笑え、足が焼けても笑え。よいよいよいよいっ♪
夢想と現実と理想の境目にまた1つ新たな世界をつくり、ただただ複雑性によって視界を狭め逃避行を繰り返すのだ。慣れればまた1つ増やし、また1つと世界を故意に蟻の巣並の複雑な相関性を独自に築き、いつしか僕自身が把握できなくなることを夢見て。
そして、
秋→冬
というリミット内で。
さあ、素敵な無双夢想世界に入り浸る、楽しませておくれ、目を瞑りにんまり微笑む鹿田に決して声をかけないでおくれ、大丈夫、素敵にやっている。
素敵にやっているから。
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