アール・ヌーヴォーとアール・デコの違い
火曜日なので人生とビジネスに役立つデザインの話。今回はインテリア・デザインにでてくるアール・ヌーヴォーとアール・デコの違いについて。
どっちが先?
アール・ヌーヴォーが先で流行したのは19世紀末から20世紀はじめごろ。アール・デコは、1910〜1940年ごろに流行しました。アール・ヌーヴォーが先。アール・デコがあと。
アール・ヌーヴォーとは
アール・ヌーヴォー作品
アール・ヌーヴォーとはフランス語で「Art nouveau」と書きます。意味は、「新しい芸術」。ヌーヴォーはボジョレー・ヌーヴォーの「ヌーヴォー」で英語ならNewの意味。ちなみにボジョレーはフランス、ブルゴーニュ地方のボジョレー地区の意味です。だからボジョレー・ヌーヴォーは、ボジョレー地区の新ワインという意味です。ボジョレーとはこのあたり。フランスの南東あたりですね。
アール・ヌーヴォーの流行は、19世紀末から20世紀の初めですから、クラシック音楽だとクロード・ドビュッシー、エリック・サティ、モーリス・ラヴェルあたりの時代です。この三人についてはこちらで別の記事を書いていますので、興味があればご一読ください(後ほど紹介)。
アール・ヌーヴォーの特徴は、
•曲線的
•花などの植物が有機的なモチーフや自由曲線の組み合わせによる装飾
•ヨーロッパ(フランスのパリ、ベルギーのブリュッセル)で流行
アール・ヌーヴォーは、産業革命によって安価で粗悪な大量生産が出回り、その反動として芸術性・独自性の高いものを求める力が強くなり、実用品、芸術品に従来の様式にとらわれない装飾性を施し、当時の新しい素材である鉄、ガラスを使った作品を生み出そうしていきました。ウィリアム・モリスらによるアーツ・アンド・クラフツ運動も同じ流れで発生した運動です。アール・ヌーヴォーは、建築、工芸品、グラフィックデザインなどに影響を及ぼしました。
アール・ヌーヴォーは世界的に広まった後、第一次世界大戦ごろから、装飾を否定したモダンデザインが普及し、その流れでアール・デコへ移行していきます。そのとき、アール・ヌーヴォーは世紀末(まさに)の退廃的なデザインとして見られ、衰退していきますが、1960年代になってアメリカ合衆国でリバイバルが起こり、新古典主義やモダニズムへとつながっていきます。
アール・ヌーヴォーの建築
1893年にベルギーの建築家、ヴィクトール・オルタ(Victor Horta)がブリュッセルに建設したのタッセル邸がアール・ヌーヴォーの最初の建築物だとみなされています。
ヴィクトール・オルタ「タッセル邸」
アール・ヌーヴォーの工芸
エミール・ガレ(Émile Gallé)の花瓶。日本の影響を多分に受けています。
エミール・ガレのユリとヒナギクの花瓶
アール・ヌーヴォーの絵画
チェコのグラフィックデザイナー、アルフォンス・ミュシャ(Alfons Maria Mucha)による演劇『ジスモンダ(Gismonda)』のポスター。当時フランスで活躍していた女優、サラ・ベルナールをモデルとして制作されています。
またオーストリアのグスタフ・クリムト(Gustav Klimt)もアール・ヌーヴォーの代表的な画家です。
グスタフ・クリムト『生命の樹』
アール・ヌーヴォーと日本
日本の木版画、浮世絵、なかでも葛飾北斎の諸作品は、アール・ヌーヴォーに大きな影響を及ぼしています。1880年から1890年にかけてジャポニスムという日本志向がヨーロッパを席巻しました。
またヨーロッパで広がったジャポニスムは日本に逆輸入的な影響を及ぼし、それは与謝野晶子の『みだれ髪』の表紙を飾る藤島 武二のイラストに観ることが出来ます。
藤島武二による与謝野晶子の歌集『みだれ髪』表紙(1901)
アール・デコとは
ではアール・ヌーヴォーのあとに発生したアール・デコとはどのような運動だったのか。
アール・デコ建築のクライスラー・ビルディング
装飾性が高いために大量生産に向かない、というか大量生産のアンチテーゼとして生まれたアール・ヌーヴォーは、第一世界大戦の勃発(1914年)とともに衰退していきます。そしてその代わりにアール・デコが広まっていきます。アール・デコは、「Art(芸術)」と「Déco(装飾)」の意味。
アール・デコは2つの大戦のあいだに生まれたので「大戦間様式」とも呼ばれます。また流行するきっかけとなったのが1925年のたパリ万国装飾美術博覧会だったため、「1925年様式」とも呼ばれています。
アール・デコの名前の由来
アール・デコという名前は、先にあげたたパリ万国装飾美術博覧会に由来しています。この博覧会は、正式名称が「Exposition Internationale des Arts Décoratifs et Industriels modernes」です。長いのでアール・デコ博と呼ばれ、これがそのままこの運動の名称になりました。なので、アール・デコは「装飾美術」という意味ですね。
アール・デコの特徴は、
•直線的なデザイン
•幾何学模様がモチーフ
•装飾性が低く、合理的で機能的
時代は、第一次世界大戦が終わり、自動車、飛行機が流通し始め、工業製品が溢れ始め、都市が近代化していく流れになりました。アール・ヌーヴォーが、産業革命で出回り始めた粗悪な大量生産商品に対抗して生まれた職人技、有機的なデザインの復興という意図がものの、一点物になるため、これらを楽しむのは金銭的に余裕のある富裕層が中心でした。
大衆は、デザインやアートを自らのもとに引き寄せようとし、且つ規格的な大量生産製品を求め始めます。ゆえに複雑なデザインからシンプルなデザインへと移行していきます。
パリで生まれたアール・デコは、アメリカ合衆国に渡り花開きます。ジャズエイジとも呼ばれる狂騒の時代にアール・デコが中心となる運動でした。1929年の世界大恐慌あたりからアール・デコは衰退しはじめて、第二次世界大戦の勃発で終焉を迎えます。
ジャズエイジを描写するバズ・ラーマンの『Great Gatsby』
アール・デコの建築
アール・デコ建築は、1930年頃のニューヨークの摩天楼として現れます。クライスラー・ビルディング、エンパイア・ステート・ビルディングなど。
エンパイア・ステート・ビルディング
当初の帝国ホテルの設計をしたフランク・ロイド・ライトもアール・デコ建築に含まれます。
アール・デコの工業デザイン
アール・デコの工業デザイナーとして有名なのがフランスのデザイナー、レイモンド・ローウィ(Raymond Loewy)。不二家のロゴ、ラッキーストライク、ピース(たばこ)のパッケージデザインもローウィが手掛けています。
レイモンド・ローウィがデザインした不二家のロゴ
画像引用:みんロゴブログ
画像引用:Talked.jp
レイモンド・ローウィが デザインした機体塗装 ユナイテッド航空 DC-8
Pelladon at en.wikipedia, CC 表示 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3922475による
まとめ
アール・ヌーヴォーとアール・デコ。こんがらがりますが、アール・ヌーヴォーが最初で19世紀後半から20世紀に初頭のデザイン運動。産業革命によって蔓延した粗悪な大量生産製品へのアンチテーゼとして生まれました。アーツ・アンド・クラフツに近い動きです。ゆえに再現性が難しい有機的なデザイン。書きそびれましたがガウディのサグラダ・ファミリアなどもその流れでデザインされています。
これが第二次世界大戦後に、大衆がデザインを引き寄せ始め、デザインクオリティの高い大量生産製品を求める流れが生まれ、パリ万国装飾美術博覧会で世に放たれたのが、アール・デコ。ニューヨークのクライスラー・ビルディングが、このアール・デコを象徴した建築物です。幾何学的で直線的。東京なら帝国ホテルのなかにフランク・ロイド・ライトのデザインがそこかしこに展示されていたり、東京都庭園美術館の本館1階にあるフランスのアンリ・ラパンのデザインによる『香水塔』もアール・デコのデザインです。
東京都庭園美術館の香水塔
画像引用:LINEトラベルjp 「リニューアルでより魅力的に!「東京都庭園美術館」でアール・デコの世界を堪能」写真:田中 佐代子
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アール・ヌーヴォーの時代のフランスの作曲家3人
ちなみにこの3人は、印象主義音楽としてカテゴライズされています。
参照
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