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なぜ映画はオレンジとブルーに溢れているのか? 映画『ブレードランナー2049』と「補色」
ビジネスに使えるデザインの話
ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いため、1つ知るだけでもその分アドバンテージになります。本来、デザインが不必要なビジネスってほとんどありません。
映画『ブレードランナー2049』
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source: IMDb “Blade Runner 2049”
2017年に公開された映画『ブレードランナー 2049』(Blade Runner 2049)は、1982年に制作された映画『ブレードランナー』の続編。『ブレードランナー』の監督は、リドリー・スコットで、この続編でも製作総指揮を務めています。『ブレードランナー 2049』の監督は、ドゥニ・ヴィルヌーヴ(Denis Villeneuve)。ちなみに原作は、フィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(Do Androids Dream of Electric Sheep?)です。
今回は、この映画の内容についてはほとんど触れません。触れるのは、「色」。上の映画のポスターを見ても、わかるように、この映画ではオレンジとブルーが効果的に使われています。それのみならず、白、ピンクとブルーなどの組み合わせもでてきますが、モノカラー(1色)かバイカラー(2色)が基本。この配色はとても現代的であり、かつインフレを起こしてもいる組み合わせを含んでいます。そして「補色」というものをうまく使った例でもあります。ひとつずつ解説していきます。
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source: IMDb “Blade Runner”
現代の映画にはオレンジとブルーが多用されまくっている
ちなみにこちら(↑)が、1982年の『ブレードランナー』のポスターです。特にブルーとオレンジと配色を使っている気配は見られません。そして以下が、“最近”の映画のポスターや広告イメージです。
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source: IMDb “The Bourne Identity”
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ポスターだけでなく、劇中でのシーンも。
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日本のアニメにだって見られます。
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映画データベースのThe Numbersで公開されている映画の予告編を分析してみるとたところ、以下のような結果になりました(※1)。
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source: Edmund Heller. via Wired
オレンジとブルーの配色が多く使われているのは明白。特にオレンジに関しては他の色を圧倒しているのがわかります。この傾向は、いつから?なぜ?始まったのでしょうか。1982年のブレードランナー』のときには、まだありませんでした。
2000年にフィルムがデジタルに変わった
映画のフィルムは2000年までフィルムで撮影され、暗室で現像されるというプロセスを経ていました。カメラと一緒です。フィルムで撮影され、フィルムで上映されている環境では、物理的な制約を受けていました。現像可能である必要があったからです。それが2000年になり、コーエン兄弟による映画『オー・ブラザー!』( O Brother, Where Art Thou?)で一変します。(2000年)
この映画は、ギリシャの叙事詩『オデュッセイア』を原案に、1937年のアメリカ合衆国ミシシッピ州の田舎を舞台にした作品でした。
1937年が舞台なので、映画はセピア色がかった色調にしたい。しかしコーエン兄弟たちは、従来のセピア色ではなく、「古く、色褪せた絵葉書のような雰囲気にしたい」と考えていました。従来のフィルムでは、これができませんでした。色を全体的に変調させることは可能でも、出したい色をだし、出したくない色を減らすということはできないのです。コーエン兄弟たちは、ブルー(空やジーンズの色)を維持しながらも、緑を取り除き、オレンジがかったセピア色を加えたかったんです。フィルムでやるとオレンジを強くすると空やジーンズの色まで変わってしまうんです。そのため、どうしたのかというと撮影をデジタルで行うということでした。その結果、出したい色であるセピア色であり、人肌でもあるオレンジを強調し、空やジーンズの色もキープしつつ、色褪せた気配にするために緑色を減らす、ということが可能になりました。これが、映画で出したい色を出せる環境になった契機となりました。
なぜ、オレンジとブルーなのか?
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source: Tribee
映画の中で見せたいものは、主人公たち人間である場合がほとんどでしょう。格好いい主人公、美しいヒロイン、いずれにしろ肌があり、その色は白人であろうと黒人であろうとオレンジ系です。このオレンジを際立たせたい(先のコーエン兄弟の映画でもそうでした)場合、カラリスト(色の専門家)やデザイナーや撮影監督はどうすれば良いのか?ここで「補色」というものが登場します。
補色とは?
補色(complementary color)とは、色相環(しきそうかん)(Hue Circle)という色のサークルにおいて反対側にある色を言います。
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source: MAU Art & Design Glossary
補色同士を混ぜると光なら白く(無彩色)なります。絵の具なら灰色になります。余談ですですが、これを物理補色と言うのですが、この他に心理補色というものがあります。心理補色とは、ある色を見続けると、そこから視線を移して白いものをみるとその色の補色が見えてしまうというものです。外科医は手術中に赤い血を見続けるため、緑色の残像(心理補色)に悩まされていました。残像が残って、手術の正確性を阻害させるのです。そこで、アメリカの会社デュポンは、1925年に補色残像を和らげる効果がある色として、薄い緑色(上記の色相環を参照)の塗料を手術室に使うことを考案しました。現在では、外科手術室の内装だけでなく、手術着にも薄い緑色が採用されているのは、外科医たちの補色残像を軽減させるためです。
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画像引用:All about 補色とは? 効果・意味・反対色との違いを解説
閑話休題。補色とは、ある色をもっとも際立たせる色でもあります。オレンジの補色はブルー。ブルーを使うことで、オレンジが際立ちます。これが、オレンジとブルーが使われる理由のひとつです。
青色は人間が最も好きな色
国や文化によって好きな色は異なってくるのですが、どの国でもダントツで人気のある色があります。下図はYouGovAmericaが行った、世界4大陸・10か国に住む人々に対して「最も好きな色は?」という調査の結果です。
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青が10カ国すべてで一位です。映画『TENET』では、青と赤が効果的に使われていましたが、赤も10カ国中6カ国で2位で好まれる色です。
補色同士だと画面が際立つ(POPになる)
![](https://assets.st-note.com/img/1651753966693-aMjyF0AzB3.png?width=1200)
source: 20TH CENTURY FOX
人間の目は、補色同士が隣り合っているのを見ると、自然な心地よさを感じるものです。この組合わせは 、心地よく、そして際立ち(POP)、インパクトがります。こうした組み合わせ例は、他に紫と黄色や赤と緑もあります。
人間がオレンジとブルーで連想するもの
人間はオレンジとブルーに社会文化的な対比も感じます。水と火、陸と空、テクノロジーと自然、怒りと冷静。映画には、こういった対比がストーリーやキャラクターのなかにもあり、色が感じさせる対比と結果合致しちゃいます。アクション映画だとわかりやすいでしょう。冷静さと怒り、敵と味方、こういった対比と、オレンジとブルーはとてもマッチするんです。しかし、オレンジとブルーの対比を使っている好例でもある映画『トランスフォーマー』のカラリスト(Coloristとは、写真に彩色加工を施す専門家)であるStefan Sonnenfeld氏は、すべての映画には独自のカラーボキャブラリーがあり(つまり映画によって、色が意味するものが異なる)、ある色が観る人に固定された意味合いを伝えることはないと語っています。(※2)
『ブレードランナー2049』にみる色のデザイン
このオレンジとブルーの使用例は、枚挙にいとまがないのですが、映画『ブレードランナー2049』は、シーンがカラーグレーディング(画面の色を調節して世界観を作り出すこと)によって、とても明白にシーンによって使われる色が変わってきます。モノクロに見えるほどの彩度の低いシーン(雪のシーンなど)、ときどき緑豊かなシーン、その他はセピアというよりはオレンジ一色に染まった世界、暗闇のなかに浮かび上がるオレンジがかった赤とブルーのライトの飛行自動車などなど。
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![](https://assets.st-note.com/img/1651755432552-VtUUEkyQUA.png?width=1200)
Quartz “Blade Runner 2049” is the rare sequel that justifies its right to exist”
映画を一度見たら(長いけど)、今度は、どんな色が使われいるのか、という視点で見てみるとこの映画における場面での色数の少なさにけっこう驚くと思います。
まとめ
日本のアニメ『鬼滅の刃』にもオレンジとブルーの組み合わせを見ましたが、それでもこの傾向はアメリカ合衆国のブロックバスター(大作映画)に顕著な傾向です。実は、色に意味を持たせるのはなかなか難しく、色彩心理学も寄る辺としてはけっこう頼りないものがあります。それでも、色にフォーカスすると製鉄会社のロゴはブルーが多いとか、そういった傾向が見えてきます。今回は、そんな色のなかでも、補色について、映画を題材にふれてみました。
たぶんですが、一度でもこの記事を読んでしまうと、以降はアメリカの大作映画を見るたびに色に注目してしまうことになるのではないでしょうか。それは、見えているものか、読み取るものが増えることを意味していますし、つまるところ世界が拡張し、深まることも意味しています。なれば、デザインの知識は、やっぱりわたしたちの世界を広げて深めるものだと思います。
参照
※1
※2
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![しじみ |デザインを語るひと](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/84338482/profile_f3e73b8e5e322e7dbdac7993a79c26a5.jpg?width=600&crop=1:1,smart)