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書体の種類「スラブセリフ」が表すものとは?
欧文書体の種類
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欧文書体には大きくわけて4種類あります。セリフ体、サンセリフ体、スクリプト体、ディスプレイ書体です。セリフ体は、文字の端っこにうろこみたいなセリフがあるもの。サンセリフ体は、それをなくしたもの。スクリプト体は筆記体。ディスプレイ書体は、文字通り、目立つための書体です。それぞれについてはこちらの記事でちょっと詳しく解説しています。
今回は、セリフ体の一種、「スラブセリフ体」を紹介します。
スラブセリフ体って何?
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まずは名前の話から。セリフは、さきほども少し触れましたが、文字の端っこにあるでっぱりのこと。
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セリフはローマにおける碑文が由来です。
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筆で石にまず下書きをして、それをなぞって掘って刻まれいた碑文。セリフの起源には諸説ありますが、「彫る」というアクションが、このセリフのニュアンスにわかりやすく含まれています。語源は不明のものの、定義は1800年初頭にウィリアム・ホリンズ氏の著書で「OとQを除くいくつかの文字の上部と下部に、すべての文字の最初か最後、あるいはそれぞれに現れる突起」とされています。このときには、セリフではなく、「surriphs(シュリプス)」と呼んでいました。
そして「スラブ(Slab)」ですが、これは「厚い板」という意味です。「Slab」で画像検索するとこのような形状の画像が多く出てきます。
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これらのイメージが示すとおり、スラブセリフ体は、「厚いセリフを持った書体」です。
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スラブセリフ体の別名
スラブセリフ体には別名がいくつかあります。メカニスティック(mechanistic)とか、スクエア・セリフ(square serif)、アンティーク(antique)などとも呼ばれますが、スラブセリフ以外の呼び名でもっとも使われるのが「エジプシャン(Egyptian)」というものです。なぜスラブセリフ体は「エジプトの」と呼ばれるのか。それはナポレオン・ボナパルトと関係があります。
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スラブセリフ体が流行しはじめたのは、19世紀初頭のころでした。この頃、ヨーロッパは産業革命により大量生産により物(販売物)に溢れ、それにともなって広告が発展していました。広告の目的は目立つこと。そのため、目立つための書体が多く生まれました(そして消えていきました)。そうしたなかに生まれた書体のひとつが「Fat face」という書体でした。
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このような「目立つための書体」の乱立のなかでスラブセリフ体も誕生します。最初のスラブセリフ体が世に登場したのは、1810年のロンドンでの宝くじの広告に使われたときでした。
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このとき、この書体デザインは「アンティーク」という名前で紹介されています(※1)。
この頃、フランスのナポレオン・ボナパルトはエジプト遠征をしていました。そのため、ヨーロッパではエジプトっぽいものが大流行します。パピルス、ピラミッドなどに多くの人々が注目しました。広告の発展と相まって、文字を作る活字鋳造所は、このエジプト流行に着目します。そして新しく作ったスラブセリフ体のことを
「エジプト象形文字スラブセリフ(the Egyptian Hieroglyph Slab Serifs)」と名付けて、人気獲得を狙いました。しかしスラブセリフ体は、べつにエジプト由来の書体でもないし、エジプトにこのような書体があったわけでもありません。つまり、スラブセリフ体が、「エジプシャン」または「エジプティーヌ(Egyptienne )」と呼ばれるのは、1798年から1801年にかけて行ったエジプト(とシリア)への遠征によって起こったエジプト流行にあやかったためでした。
そしてこの頃に流行したため、いまでもちょっと古い、アンティークなニュアンスを出すためにも、このスラブセリフ体は使われることがあります。
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https://youtu.be/TcPk2p0Zaw4
スラブセリフ体が新聞に使われ始める
スラブセリフはセリフが明瞭なので、タイプライターや新聞に使われ始めます。このとき、「モノライン(mono line)」というニュアンスが付随します。タイプライターやスピーディな組版をした出版業界において、文字の間隔が統一されていきます。そんなニュアンスが上記の映画『フレンチディスパッチ』にも現れています。雑誌に使われるスラブセリフ体ということで、雑な文字組みの気配を、文字のガタガタした並びに観ることができます。タイプライター的なスラブセリフ体として有名なのは、CourierとAmerican Typewriterという書体です。
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スラブセリフ体には5種類くらいある
このようにスラブセリフ体は、誕生当初は目立つことが使命でしたが、「小さくしても読みやすいじゃん!」という気づきなどで、派生発展していくつかの種類に増えていきます。ここでスラブセリフ体の種類を5つ紹介します。
1. アンティーク・モデル(Antique model)
初期のスラブセリフ体。「アンティーク」とか「エジプシャン」、「エジプティーヌ」とも呼ばれるのは、このあたりのスラブセリフ体です。
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2. クラレンドン・モデル(Clarendon model)
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By Deviate-smart - Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=18289303
クラレンドン(Clarendon)はスラブセリフ体のなかで最も知名度の高い書体です。この書体は、他のスラブセリフと異なり、よく見るとセリフ部分に「くびれ」があります。文字の太さにコントラストもあります。
3.イタリエーヌ・モデル(Italienne model)
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By Blythwood - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=42325691
イタリエーヌ・モデルは、「フレンチ・クラレンドン・タイプ」とも呼ばれており、特徴は、セリフのほうが文字の線(ステム)より太いこと。読みにくいが目立ちます。これを逆コントラスト体(reverse-contrast type)と言います。伝統的にサーカスなどのポスターに使われることが多く、西部劇や19世紀的な雰囲気を出すためによく使われています。1860年代から20世紀初頭まで、アメリカ合衆国で非常に流行しました。しかし基本的なコンセプトは、1820年代のロンドン印刷に由来しています。その後、ロバート・ハーリングが「プレイビル(Playbill)」として、また最近ではエイドリアン・フルティガーが「ウェストサイド(Westside)」として復活させています。
![](https://assets.st-note.com/img/1645759045983-ODZAflRtUX.png)
https://fontsnetwork.com/playbill-font/
![](https://assets.st-note.com/img/1645759108804-RpL64SpmEx.png?width=1200)
https://www.fonts.com/ja/font/linotype/westside/regular
4. タイプライター書体(Typewriter typefaces)
上記でも触れていますが、スラブセリフ体は打刻式のタイプライターに使われました。このタイプライターのニュアンスをもつスラブセリフ体を『タイプライター書体」と言います。等幅(monospaced)で、文字の幅も一緒。これらはタイプライターの特性を反映しています。CourierやAmerian typewriterのほかにPrestige Eliteという書体もこのカテゴリーに属します。
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By No machine-readable author provided. GJo assumed (based on copyright claims). - No machine-readable source provided. Own work assumed (based on copyright claims)., CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=2217472
5. ジオメトリック・モデル(Geometric model)
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By James Puckett from Boulder, USA - Beton Bold type specimen, CC BY 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=50506142
ジオメトリックとは「幾何学的」という意味。ステム(文字の線)とセリフの太さが近く、文字の形状にジオメトリックなニュアンスが現れています。初期のジオメトリック・モデルであるスラブセリフ体には、Memphis, Rockwell, Karnak, Beton, Rosmini, City, Towerなどがあります。これらのジオメトリックさは、Futura(フツラ)というドイツのパウル・レナー (Paul Renner)がデザインした書体から影響を受けたものです。
まとめ
いかがでしょうか。このようにスラブセリフ体は、それを使うことによって、少し古いタイプライターや新聞などの発行物、西部劇やサーカス、または1930年頃から生まれ始めたジオメトリックなニュアンスを表現することができる書体デザインです。使っているところを見かけたら、その背景にどんな伝えたいニュアンスがあるか探ってみると楽しいのではないでしょうか。
スラブセリフ体が表すもの
ナポレオン・ボナパルトの遠征よって生まれたエジプトブーム
1800年頃のニュアンス(とくにイギリス)
産業革命によって発展した広告
目立つことが使命「わたしを見て!」という主張
新聞などの印刷発行物
イタリエーヌ・モデルならサーカスや西部劇のニュアンス
参照
※1
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