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デザインをレベルアップさせる、認知バイアス「生存者バイアス」という知識

「ビジネスに使えるデザインの話」マガジン

ビジネスに使えるデザインについて記事は、こちらのマガジンにまとめています。


見えていないものについて考える

今回の話は、ちょっととっつきにくい話かもしれません。しかし簡単に言うと

ある問題を解決するためにデザイン(設計)を考案するとき、その問題の外にあるもの(言及されていないこと)について“も”考える

ということになります。売上が上がる理由を模索するときに、売上が下がる理由にも考えるということです。成功している企業の成功の原因を探るとき、成功していない企業の成功していない原因を探る、ということもこれに相当します。心理学にでてくるルビンの壺(Rubin's vase)の図と地の反転が、この方法論のたとえには良いかもしれません。

ルビンの壺
Ataturk.svg: NevitNevit Dilmen - Ataturk.svg, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=16060686による

ルビンの壺

1915年頃にデンマークの心理学者エドガー・ルビン(Edgar John Rubin)が考案した多義図形。背景に黒地を用いた白地の図形で、向き合った2人の顔にも大型の壷にも見えるという特徴を持つ図柄。


認知バイアス

認知バイアスとは、人間が進化の過程で獲得した生き抜くための工夫のバグ部分。バイアスとは、偏り。歪んだ認知が、不合理な行動や判断をさせます。別アカウントですが、認知バイアスはこちらでまとめて紹介しています。


デザイナーもユーザーもクライアントも皆、認知バイアスには弱い

デザイナーは、ユーザー側と同じように、認知バイアスから生じる盲点や誤謬(ごびゅう)に対してめっぽう弱い。認知バイアス(認知の歪み)は、それを特定し、軽減するために十分な注意を払っていない場合、デザインプロセスに忍び込み、間違った判断をさせます。これを避けるためには、いつ、どのようにデザインプロセスに入り込み、デザイン上の意思決定に影響を与えるか、を照会していきます。

目に見えないものを考える

https://jonyablonski.com/articles/2021/cognitive-bias-and-the-design-process-part-1/

第二次世界大戦中、アメリカ合衆国のコロンビア大学の統計研究グループは、米軍から任務から帰還した爆撃機の損傷を調査するよう依頼されました。その目的は、爆撃機のどこに装甲を施せば対空砲火や弾丸から身を守れるかを調べることでした。研究グループは、帰ってきた飛行機を注意深く調べ、全機体の損傷を比較しました。その結果、

翼や尾翼、機体の中央部など、最も一般的な損傷パターンを示す部分に装甲を追加すべきだということで意見が一致しました

ラッキーなことに、このプロジェクトに参加していた統計学者、アブラハム・ウォルド(Abraham Wald)が、この結論に反論します。調査対象は、生き残った機体だけであり、帰還できなかった機体についての考察がなされていないと指摘しました。その結果、ウォルドは、最も損傷が少ない部分に装甲を追加して、機体の最も脆弱な部分を補強することを推奨しました。

生き残ったものだけを対象にして検討してしまい、死んでしまったもの(目にみえないもの)を検討材料から除外してしまうことを、「生存者バイアス」と言います。

この事例から、私たちは、選考プロセスを通過した人や物に集中し、一般的に目に見えないという理由で、通過しなかったものを見過ごしてしまう傾向があることがわかります。デザインのプロセスにおいて、遡上にあがらなかったもの、について、または選考から漏れていったもの、についても検討材料と考えることをプロセスに組み込んでおいたほうが良いでしょう。たとえば、繁盛している店の特徴を繁盛している店のデータから収集し、見つけようとするとき、「繁盛していない店」について考えない、ということが認知バイアスによる歪んだ解決方法といえます。Aについて考えるとき、Aではないものについて考えることをプロシージャにいれておくことが、解決方法となります。

生存者バイアスへの対策の応用

定量的データの限界を認識する

定量的なデータは、現在利用可能な行動にのみ関連するものであり、それゆえ私たちの思考を制限する可能性がある、ということが生存者バイアスによって指摘できます。これに、関しては、ジャック・ウェルチ氏による“下位10%の人材を自動的にクビにする”という方法が功を奏さなかったという事例が、好例といえます。また「働かないアリ」の存在意義についての知識も、このバイアスを生み出す盲点の穴を埋めてくれることでしょう。働かないアリの存在は、繁忙期になると働き出すことでつねにニーズを保つという組織を形成しています。詳しくは、長谷川 英祐氏の『働かないアリに意義がある』を参照ください。


「なぜ?」と問うことで、現在のベストの枠を超えたより良いものを生み出す機会を見出すことができます。定量データが我々に伝えていないことを考慮すべきです。


まとめ

デザインの話なんですが、見た目ではなく、方法論だったので、ちょっといつもと毛色が違った話になりました。でも、これ、ビジネスにも、日常にも使える知識なんです。痩せる方法を考えるとき、太る原因についても考える。寝坊する原因を考えるとき、早寝できない理由についても考える。そうすることによって、考慮のそとにあった大切なものを見つける可能性があるからです。


参照



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