iPodとデザインの巨匠ディーター・ラムスの哲学
ビジネスに使えるデザインの話
ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いから1つ知るだけでもその分アドバンテージになることもあります。
2022年5月、iPodの販売終了
2002年が5月10日、アップルは、iPod Touchの販売を在庫がなくなり次第、終了することを発表しました。
iPodが、世界に登場したのは2001年10月23日。スティーブ・ジョブズ氏による衝撃的なプレゼンテーションで、世界に向けてはじめてその姿を表しました。
ジョブス氏によるiPodのプレゼンテーション
初代、iPodは、このようなデザインでした。
この片手で操作できるシンプルかつ美しいプロダクトデザインは、無から生まれたわけではありませんでした。このiPodのデザインに大いに影響を与えたものは、1958年にすでにこの世に存在していました。
これが、iPodのデザインに影響を与えた1958年にディーター・ラムス氏によってデザインされたブラウンのトランジスタ・ラジオ「T3」です。
ディーター・ラムスって誰だ?
このラジオをデザインしたのは、ドイツの工業デザイナー、ディーター・ラムス(Dieter Rams)氏。ラムス氏は、ブラウン、家具ブランドのVitsœ(ヴィツゥ)などの製品デザインに関わってきた人物で、伝説的な存在でもあります。デザイン好きな方なら、その名を知っているかもしれません。
“Less, but better” (より少なく、しかしより良く)
ラムス氏のデザインアプローチは、ミニマルで機能的なものでした。その姿勢は
という言葉によく現れています。ラムス氏のデザインする製品、家具などはシンプルながら、使いやすいものばかり。ディーター・ラムス氏がデザインしたデザインを見てみましょう。
美しい!
アップルはラムス氏のデザインを大いに“取り入れて”きた
アップルは、 ラムス氏のデザインを大いに、参考にしたり、真似たりしてきています。たとえば、iPhoneに入っている電卓。
これがラムス氏デザインの電卓、ET66です。
そして、
ディーター・ラムスの哲学
ディーター・ラムス氏は、1932年に、ドイツ、ヘッセン州、ウィースバーデン生まれ。
さきの「Less, but better」という言葉同様、この言葉には、ディーター・ラムスの哲学が凝縮されています。建築家としてキャリアをスタートさせたラムス氏は、1955年にドイツの家電メーカー、ブラウンに入社し、オフィスのインテリアデザインに携わりました。1961年から1995年までデザイン部門の責任者を務めました。1970年代後半、彼は自らのデザイン哲学を10の原則に集約しています。この原則、なんとそのまま、Appleの製品に当てはまります。アップルが、“パクった”のは、デザインというより、ラムス氏のその哲学でした。
ディーター・ラムスの10の原則
良いデザインは革新的である。Good design is innovative.
良いデザインは製品を有用にする。Good design makes a product useful.
良いデザインは美的である。Good design is aesthetic.
良いデザインは、製品を理解しやすいものにする。Good design makes a product understandable.
良いデザインは誠実である。Good design is honest.
良いデザインは控えめである。Good design is unobtrusive.
良いデザインは長持ちする。Good design is long-lasting.
良いデザインは、細部まで徹底している。Good design is thorough down to the last detail.
良いデザインは、環境にやさしい。Good design is environmentally friendly.
そしてもちろん、良いデザインとは、できる限りデザインをしないことである。And of course, good design is as little design as possible.
……。いかがでしょうか。わたしは、これを読むたびに「きゃー!」ってなります。ドラマティックな文才もラムス氏にはあるのではないでしょうか。
ジョナサン・アイブ氏、絶賛
元アップルのCDO(最高デザイン責任者)、ジョナサン・アイブ(Jonathan Ive)は、ディーター・ラムスに関する書籍『As little design as possible』(Phaidon刊)の序文で、このようい熱くラムス氏を絶賛しています。
まとめ
わたしたちは、ユーザーとしてなら、ほとんどのものを何気なく使っています。いちいち、これはいいデザインだなとか、デザイナーは誰だ?とか、ミッドセンチュリーモダンの気配があるぞ!とか、モダニズムの流れを組んでいるな!などと思うことはありません。それなのに、製品のなかには、深い哲学が潜んでいることがあります。もちろん、あまり潜んでいないものもあります。しかし、哲学の有無を見極めるは、意外に簡単かもしれません。悲しみすらあの魔法を使うんです。
時間の洗礼
長年、愛され続けるデザインには、ほぼ必ず哲学が含まれています。グラスやカップの形、愛され続けるヴィンテージカーなどなど。しかし、寿命の短いデジタルデバイスのなかにもこのように哲学が含まれていることもあります。ゆえに「美しい」、「使いやすい」、「なんだかととても好き」と思えるプロダクトがあったら、そこに哲学を探してみるのも良いかもしれません。そして、もしそこに哲学を見つけたら、その瞬間に、その哲学はあなたのものにもなります。