ファッションを象徴する書体“Didot”
ビジネスに使えるデザインの話
ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いから1つ知るだけでもその分アドバンテージになることもあります。毎日午前7時に更新しています。
ファッション誌のロゴ
Vogueに限らず、ファッション誌のロゴの多くは、書体の種類でいうところのDidone(ディドネ)という書体がベースになっています。
Didone(ディドネ)
日本では、「モダンローマン体」と言われています。(英語圏でももともとは「モダン」『モダンフェイス」と呼ばれていました。)Didone(ディドネ)は、18世紀後半に誕生し、19世紀には印刷に広く使われるようになった書体のジャンルです。
Didone(ディドネ)の特徴
細くてブランケットがないセリフ。(ヘアライン)。(セリフの幅が長さ方向にほぼ一定で)
2.縦線が太く垂直。
3.太い線と細い線のコントラストが強い。
4.終端が玉突きになっているものがある。(線の末端が、普通のくさび形セリフではなく、涙形や円形になっているものが多い)
Didone は、1954年に作られた造語で、書体の分類システム(Vox-ATypI分類)のために作られたジャンルです。これは、このジャンルの書体デザインを形成した、有名な活字鋳造者である フランスのフェルミン・ディドー(Firmin Didot) と イタリアのジャンバッティスタ・ボドニ(Giambattista Bodoni)の姓を組み合わせたものです。彼らの努力によって19世紀初頭にこのスタイルが定着しました。ディドネが生まれた時代は、ロココ時代が終わったあたり。
ということでファッション誌の象徴するのは、書体のジャンルとしてのDidone(ディドネ)とも言えるのですが、ちょっと広くなってしまうし、書体の種類の話にもなるので、今回は、ディドネの名前を形成するDidot(ディドー)にフォーカスを絞って解説していきます。
書体、Didot(ディド)
Didotと書いて「ディードー」と発音します。フランス語読みです。日本語では「ディド」と表記されていることが多いようです。Didotは、1784年から1811年の間に開発されました。さきほども名前が挙がりましたフェルミン・ディドー(Firmin Didot)がデザインし、弟のピエール・ディド(Pierre Didot)が印刷にこの書体を使いました。ディドたちが作ったこの書体が使われた代表的な本が、1818年に出版されたフランスの哲学者のヴォルテールの叙事詩“La Henriade”でした。
のちにこの書物をベースにして、書体デザイナーのアドリアン・フルティガー(Adrian Frutiger)がLinotype Didotをデザインしています。
Didotが「おしゃれ」な理由
見ての通り、Didotは、細いところがとても細い書体です。手吹きのワイングラスのステム(脚)のような繊細が、Didotのセリフにはあります。この繊細さ、ルネサンスやロココを経て洗練された美しき装飾の美学なども反映されています。そしてこういったデザインを可能にしたのが、銅版印刷という技術でした。銅版印刷とは、盛り上がった活字ではなく、銅の板を削って掘って、そこにインクを流して印刷する手法です。いわゆる凹版(おうはん)印刷です。
のちに活字や写植、現代ではデジタルフォントにもなっていますが、出自、生まれたときにすでに繊細で、そして高価なニュアンスをまとった書体でした。
ラグジュアリーで繊細で美しい
これ以上にファッションにふさわしい書体はあまりないかもしれません。創業が1892年のアメリカ合衆国のファッション誌『Vogue』は1950年代ころから、この書体Didotをベースにしたロゴを使用しています。Didotそのままではなくて、細かな調節はされています。
ZARAのロゴも2019年からDidone系
ファストファッションブランドのZARAは2019年からロゴを変更し、このDidoneというジャンルの書体を使っています。ブランディングとしては、既存のファストファッションブランドから抜け出して、新しい「速い(ファスト)がラグジュアリー」というブランドイメージの形成を試みているのでしょう。速いニュアンスは、文字間をぐっと詰めて急いでる意匠で表し、書体がDidoneであることで、ラグジュアリーよりのブランドであることを表しています。
まとめ
Didotを含め、Didoneは「エレガンス」を伝える書体の種類と言っても良いでしょう。銅版印刷系の書体の多くが、ラグジュアリーなニュアンスを持っているのは、印刷費が高額になるだけではなく、美しさや優雅さを読みやすさよりも重視した姿勢にもよるのでしょう。DidotおよびDidoneという書体ジャンルを覚えておくと、「優雅さ」というものを体現する代表的な書体として使ったり、読み取ったりできて、世界が拡張することでしょう。そして、これらのデザインが200年以上も長らえてきていることにも注目したいです。時の洗礼を生き抜く美しさや強さも併せ持っている左証になるからです。