自分史的なクリッピング史料
現在乱読中である。1冊読み終わると新たに追加するので、その乱読中の本の冊数は同じかあるいは追加することによって更に増加することがままある。昨日も読み終わった1冊に対して3冊追加してしまったので、プラス2冊という事態に陥っている。昨日読み終わったのは佐々木敦著の「ニッポンの思想」(増補新版・ちくま文庫)。テキストは読み易かったものの、浅田彰から始まる80年代以降のニッポンの思想家たちの思想の変遷のまとめはなかなかの読み応えだった。乱読の中には、哲学や思想の類の本が必ず入れてある。敢えて難しいと思える本に挑戦したいという気持ちから。
2020年12月15日 朝日 「西田哲学」スポーツで探る
言わずと知れた西田哲学は難解だと言われていて、何冊か読了はしたけど、全くと言っていいほどその内容・意味が頭には残っていないのが実態。その周辺の本、ガイド本も数冊読んでいるけど、身にはなっていない(情けないながら)。
2020年は西田幾多郎の生誕150周年ということで、難解な西田哲学を現代の事例でとらえ直そうと、北京五輪メダリストの朝原宣治さんと、前京大総長の山際先生、そして西田哲学が専門の京大・上原先生による対談記事掲載。
まずは朝原さんへの質問で、北京五輪の男子400㍍リレーでアンカーを走った時の心境をたずねられ、「我を忘れて走る、ゾーンに入った感じだった」と答えている。一流アスリートの凄いところは、朝原さんは、昨日の自分と今日の自分が細胞レベルで違う気がして、練習後に今日の感覚メモを取って翌日に引き継ぐということをしていたらしい。リレーの時は、自分が進んでいる感覚がなく、不安も気負いも意識せずに勝手に走り出す状態だったと。
ゴールした瞬間は大抵のレースでは着順もわかるらしいが、北京ではそれが分からず、電光掲示板を凝視していたと。前日は相当なプレッシャーがあったと明かしながら、最後には自分でコントロールできることなどないと「諦め」の境地に入ったようだ。メダルを取るという意志さえ消されていたという。西田先生は『善の研究』での純粋経験を、例えば一生懸命に断岸を攀ずる場合の如き、音楽家が熟練した曲を奏する時の如きと説明した。何も考えることはなく、環境と一体化したそんな経験。朝原さんの経験はまさしく、頂点に到達したような瞬間がそれだったのではないかと。
西田先生は、動物の本能的動作にも必ず描くの如き精神状態が伴なっているのであろうとも言っていると。山極先生はゴリラの研究(有名だ)をしていた経緯から、身体が自然に属し自然は言葉では言い切れないとも語り、更に西洋哲学では人間は頭で考えて身体を動かす中枢神経系の動物だと考えてきが、頭で意識せずに体が反応するプロセスがあるような気がするとも指摘されている。自然界では過去と同じことは起こらないが、経験値は身体化されて対応ができると。
朝原さんが、100㍍走では8人で走るがなぜか走りやすい、それは何故なのかと疑問を投げかけると、山極先生は、一緒に走る選手は競争相手でもあるけど、仲間でもあるというチームワークにも似た環境なのではと回答。朝原さんはこれを受けて、レベルの高い選手といることで自分のレベルも引き上げられるかもしれないとその可能性を所感。
次いで、上原先生のコメントでは、西田先生は人間個人を「創造的要素」と捉え、個人はバラバラにおかれた存在ではなく、有機的におかれていると説いていると。ライバルから受け取ったものを自分にインプットし、そこから更にアウトプットする。そうしてスプリンターは好記録を創出しているのだと。
競争というのは、敵・味方の二元論ではなく、その両方を利用する「間」の思想が東洋哲学にはあって、西田先生もそこを強調したのではないかと山極先生のコメント。
上原先生によれば、西田先生はそうした関係性を「弁証法的」と言ったという。相互に試行錯誤し合う関係のこと。いい方向ばかりでなく、失敗や悪いことにも行ってしまうこともあるけど、それを是正して次にいい方向へ持っていく関係性を生きている限り営まないといけないと。
朝原さんの経験を通じて、西田哲学のほんの一部に触れられたような記事内容。ボクシングの元世界チャンピオンの村田さんや、大リーグへ挑戦している今永投手や、さらには元フィギュア選手の町田さんなど、アスリートには哲学的な求道者が多いという印象もある。だからこそ一流に登り詰めることができる(た)のかもしれない。
西田幾多郎先生は改めて言うまでもなく、論じる内容は本当に難解だと思う。でもその難解な哲学・思想を、スポーツなどの分かりやすい体験を通じて、その理解が進むかもしれないという試みに感じ入るものがあった。哲学・思想はそれを咀嚼する能力が大事。乱読中でもありながら、自身の咀嚼能力を鍛えていきたいとちょっと思わせてくれる記事だった。
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