かくも長き不在(音楽文掲載2)
人生初の下北沢は薄暗く肌寒い街だった。
自分が生きている理由を見失いながら、ただ流されるままだった1999年3月。
その夜4人は、俯いたまま挨拶も無く下北沢屋根裏のステージに立った。
ハイハットが鳴った。
その夜から20年を超えた2019年2月。
THE BACK HORNは3度目の武道館であの夜と同じ「冬のミルク」を歌った。
自分にとって生きていく支えとなったバンド。
彼らは今、バンド史上かつてない危機の中で音を止めている。
ファンにとっても、バンドにとっても大きな事件はツアー中に起きた。
新作であり傑作であると断言できるアルバム「カルペディエム」を携えての全国ツアー初日。
渋谷WWWXで彼らのliveを観た。
その夜の山田将司は絶好調に思えた。
後半までしっかりと高音も出ていた様に思う。
バンドの演奏もタイトで新曲も馴染んでいた。
見終えた後、ツアー途中に挟まれたイベント以外では2回しか行けないと覚悟していた参戦回数を増やしたいとスケジュール帳と睨めっこしたほどだ。
しかし、間もなくしてネット上で観た千葉lookでの喉の不調。
そして迎えた新木場でのイベント。
2曲目ブラックホールバースディを聴きながら「危ない」と思った。
終盤は持ち直したように感じたけど、それはバンドの持つ気迫が山田将司の歌を終始支え続けていたからだ。
そうした中、数公演の延期が発表された。
正直、ツアー中止でも良いのではと思っていた。
しかし彼らは走り続けることを選んだ。
その後のツアー延期、山田将司の喉の手術の発表は驚くというよりはむしろファンの多くをホッとさせたように思う。
そして2020年5月現在。
THE BACK HORNは音を鳴らしていない。
世界を混乱させているコロナの影響もあり、様々なミュージシャンがLIVE活動の自粛を与儀なくさせられている中、復活の日となるはずだったイベントも中止となり、THE BACK HORNは息を潜めている。
最近になり、ラジオ番組や雑誌インタビュー又はSNSなどでメンバー各自の近況を知ることができているが、現在のところ彼らのLIVEの予定は2021年まで皆無となっている。
喜ばしいことにメンバー全員が健康であり山田将司の喉の回復も順調の様だ。
しかし、この20年でこんなにも彼らの存在を長く感じられなかった事はない。
予想だにしなかった、THE BACK HORNのかくも長き不在。
今、この文章を書きながら自分がどれほど彼らの音楽を生で浴びたいのかを改めて痛感している。
事態が収束し、彼らが再びステージに立った時、松田晋二のハイハットが鳴らされ、岡峰光舟のベースが唸り、菅波栄純のギターがかき鳴らされ、山田将司が吼える時。
長き雌伏から解き放たれた4人がTHE BACK HORNを鳴らす日をいつまでも待っている。