自閉スペクトラム症児の朝運動への参加を促すための方略-ビデオ教材の効果-

研究報告


概要
知的障害特別支援学校小学部1年生ASD児に対し、対象児が強い興味を示す対象(以下、ヒーロー)をモデルとして、ビデオヒーローモデリング(VHM)とビデオセルフヒーローモデリング(VSHM)の効果を検討した。朝運動場面において、朝運動の4つの会運動に対して介入した。その結果、VHM導入後に行動が生起するようになり、VSHM導入後に行動が安定した。

方法
参加者 知的障害特別支援学校小学部1年生男児。自閉傾向の診断あり。田中ビネーIQ60。日常生活自立。エコラリア多い。「昆虫」に強い関心があり、昆虫の動きをまねる行動が見られることが多い。Ohtake et sl.(2015)の質問紙より、ヒーローに関する尺度得点が高い傾向が示され、興味の持続に関する質問に対しては、その興味が6か月以上続いていることが報告された。
標的行動 対象児の朝運動への参加。朝運動の内容は、ウォーキン
グ、ランニング、体操、パラバルーンの4つ。
データ収集と評価 10秒間の部分インターバル(ウォーキン
グ、ランニング、体操)と、評価レベル(パラバルーン、活動時間が短いため)
研究デザイン 行動間多層ベースラインデザイン
手続き
(1)BL 通常通り。適切な行動に賞賛あり。
(2)ビデオヒーローモデリング(VHM) 昆虫がビデオの中に登場し、標的行動を示しているように見えるビデオ。朝運動開始前に対象児のスケジュールに「ビデオ」を組み込み、1~2回視聴してから活動へ移動した。
(3)ビデオセルフヒーローモデリング(VSHM) 対象児が標的行動を示しているビデオに昆虫が登場し、対象児を賞賛するビデオ。手続きはVHMと同様。
(4)プローブ ビデオ視聴を中止した。

結果と考察
VHMを導入することによって、正反応を引き出し、VSHMを導入することによって、正反応が安定した。さらに、BL条件下で正反応があった標的行動(ランニング)に関しては、初めからVSHMを実施することで、正反応が安定して生起した。体操に関しては、介入することなしに正反応が安定して確認されるようになった。
VHMで行動が安定しなかった理由として、脱皮などの昆虫の行動と、朝運動で求められる行動の違いがあるためであると考えられる。また、朝運動の場所が、自由時間で利用している場所と同じ場所であったため、標的行動と競合する別の弁別刺激の存在があったことも考えられる。
VSHMで行動が安定した理由としては、行動を制御していたルールが「○○するとヒーローに褒められる」「○○するとヒーローと一緒に行動できる」という記述になったからだと考えられる。
限界として、ビデオに付随した言語刺激によって生成されたルール支配が効果の多くを説明している可能性もある。


感想
・ビデオモデリングは学校教育において利用しやすい。最近はタブレットも導入されているし、指導者がビデオ作成、編集するのも容易になった。
・行動間多層ベースラインデザインの良さが結果に示されていると感じた。介入しなくても生起率の上昇や維持をしたことはすごい成果だと思う。
・考察にもあった通り、セッティングの統制の困難さは、学校における実践だと排除できない要因になってしまう可能性が高いよね。


文献情報
高橋彩・大竹喜久. (2017)  自閉スペクトラム症児の朝運動への参加を促すための方略――対象児の「特定の対象への強い興味」を取り入れたビデオ教材の効果の検討――. 行動分析学研究, 31, 2, 132-143.

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