気が抜けたジンジャーエール
形骸化した未来が、琥珀色の中で揺らいでいる
出会ったり、別れたり、出会ったり、そんなに多くはないけれど
泡に包まれて、そして時間が経って
泡は消えていく
ボトルの中に残された琥珀色のその中に
映るそれは未来なのか、いまの上に成り立つ何かなのか
起きたら雨が降っていた
今日も、昨日も、一昨日も
何も予定がないという事実は、少しの安心をもたらしてくれる
一昨日の夜から、昨日の朝にかけて
無我夢中で、何かを求めるようなその行為は、反面、取り憑いた何かを祓うようでもあった
昨日の昼、目が覚めたとき
彼女の白い肌に、黒光りするクワガタが這っているような、そんな幻覚を、まどろみながら見ていた
布団の脇のウイスキーの瓶
琥珀色の、とろみのある液体
さっきまで滑らかな肢体の上を這っていたクワガタは
琥珀の中に閉じ込められていた
幻想的だと思った
ボブ・ディランが流れていた
次に目が覚めた時、横に彼女はいなかった
初めからいなかったような気もしたが
そんなはずはないみたいだった
机の上に、ジンジャーエールがあった
ぬるい容器の蓋を捻ると、かすかに炭酸が抜ける音がして
その液体は、今この瞬間に死んだのだということを感じた
ぬるくて、甘ったるくて、気が抜けた
死んだジンジャーエール
喉に流し込みながら、雨の音を聞いた
シーツは湿っていて、あまり落ち着かなかった
連日の雨は初夏に寒さをもたらし、
色々な見通しは、靄の中に、うやむやになっていって
少しだけ気分がよかった
いずれ雨が止んだら、電話しようと思った
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